初体験 リッジモント・ハイ（４４）

「初めて、おひとりさまで観た映画」のつづき。

チケットとプログラム、あとはポテトチップスとコーヒー牛乳。
３０００円でお釣りがくるとはいえ、群馬に住む中学１年生のガキにとって「ひとりで映画を観に行く」というのは、なかなかのイベントだった。

スライ（＝スタローンの愛称）は好きだったが、『コブラ』をどうしても観たいというわけでもなかった。
東京じゃないから、選択肢はそれほど多くない。
３週間ほどで上映作品が変わっていく劇場『清流』のプログラムを、とりあえず「片っ端から」観ていくという鑑賞スタイルだったのだ。

映画小僧の情報源は、雑誌『ロードショー』と『スクリーン』。
中学生にとって『キネマ旬報』は敷居が高く、また、『近代映画』と冠されているのに映画の記事が見当たらない「アイドル雑誌を間違って」購入したりしていた。（菊池桃子が表紙を飾っている時点で気づけよ！　って話ではある）

ともかく『ロードショー』でも『スクリーン』でも、『コブラ』の扱いは大きいものだった。
グラビアが多く、当時スライと付き合っていた共演者、ブリジッド・ニールセンのインタビューまで載っている。
関係ないがニールセン、好みじゃなかったけれどね！
しかし後年、シュワ氏はニールセンとの浮気の事実を認めた・・・というネットニュースを読んで、マッチョはああいう女子を好きになる傾向があるのかな、、、なんて思った。

さて。
ボクサーであれベトナム帰還兵であれ、スライといえばハダカになるのが当然―そう思っていた当時の自分は、
この映画でスライはハダカを見せないらしい、
格好いい車には乗っているが、殴り合うシーンも少なく、基本的には銃を扱うクールな刑事らしい、、、という紹介記事を読んで、映画館に行くべきかどうか「割と真剣に」悩んだ。

友人に聞くと「ランボーじゃないから、観に行かない」と返される。

うむむ。

じゃあ、ひとりで行ってみるかと。

なんとも「後ろ向き」ではあったが、前日になると「なんとなく」興奮してきた。
『コブラ』への期待値というより、初めてひとりで映画館に行く―という行為そのものに対する緊張感だったのかもしれない。

結局、ほとんど眠れずに朝を迎えることに。

上映開始は９時５０分だというのに、８時には『清流』のチケット売り場前に立っていた。

当然、行列など出来ていない・・・と思ったのだが、ひとりだけ居た。
しかも、見覚えのある顔だ。
同じ中学に通う同級生Ａ、だったのである。
ただ顔を知っているというだけで、いちどもことばを交わしたことはない。
しかもＡが並んでいるのは劇場Ａ、「おニャン子」「とんねるず」の映画のほうだったのだ。

お互い、なんとなく照れ笑いを繰り返す。

「まっき～は、スタローン？」

えっ。
自分の愛称を知っていることに驚き、また、ちょっとうれしかった。

「うん、Ａくんは、そっちなんだ？」
「字幕が苦手だから外国の映画、あんまり観ないし、とんねるずが好きだから。あと、高井麻巳子」
「あ、高井麻巳子は俺も好き」

「・・・しかし、誰も来ないね」
「うん、初日なのに」
「館林のひとって、あんまり映画を観ないんじゃないかな」

ガキが生意気に、そんなことを論じている。

９時３０分―開場。
結局、初日第１回目の上映は・・・
『コブラ』は自分を含めて４人、
『おニャン子ザ・ムービー　 危機イッパツ』と『そろばんずく』にいたっては、二本立てという「お得感」満載なのにＡひとりという動員数だった。

これじゃあスライも秋元さんも、頭を抱えるわな。


『コブラ』を散々面白くないと書いたが、しかしこの日、自分は２度観ている。

ナンダカンダで観ている時間は楽しめた―というのもあったが、
二本立てを選んだＡくんに感想を聞きたかったのだ。

「どうだった？」
「あれ、待ってたの？」
「いや、２度観たからさ」
「そんなに面白かったんだ？」
「まぁ、それなりに」
「こっちは、・・・まぁ、まあまあかな」
「なるほど」


お互い本音をいってなさそうなところが、いじらしいじゃないか笑


映画記録帳によると・・・
ひとりで観に行った映画の２本目は成龍の『プロジェクトＡ２』（87）と『漂流教室』（87…トップ画像）の二本立てである。

後者はひどい出来だったが、成龍見たさに『漂流教室』を「我慢して」２度観た自分であった。

つまりこの日は、朝から晩まで映画館に居たことになる。


こうして、現在のような映画小僧が出来上がっていくというわけだ。





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