専門学校に通いながら新聞奨学生をやっていた自分の担当区域は、調布駅の南口だった。
高層マンションや企業が集中していて、深夜でもそこそこに賑やかなところ。
だから早朝の3~5時に配達するといっても、自転車のライトを点けていなかったと記憶する。その必要がないくらい、明るかったのである。
開店前のマクドナルド―その店内を清掃する、20歳くらいの小柄な女子が居た。
自分は彼女にほのかな恋心を抱いていて、「おはようございます、朝刊です!!」と元気に新聞を手渡すのが毎日の楽しみだった。
「ごくろうさまです~」
とはいっても、経験が足りない。
現在のように気の利いたことばを投げかけることも出来ず、ただふつうに挨拶をする日々が続いた。
そんな、ある日の出来事である。
いつものようにマクドナルド前に自転車を止め、彼女に新聞を手渡す。
「おはようございます、朝刊です!!」
「ごくろうさまです~」
会話をしているうちに入らないが、それでもハッピーだった。
都合よく解釈し過ぎかもしれない、しかし彼女の表情は、なんとなく自分に好意を抱いている・・・ように見えた。
(照れるので)軽くダッシュをする感じでマクドナルドを出て、自転車まで戻る―そのとき、通行人のひとりと身体がぶつかった。
「あ、すいません!」
相手の顔も見ずに、そのまま通り過ぎようとした。
・・・ら、
「おい、あんちゃん!」
と、呼び止められた。
男2人女1人、20代なかばくらいの3人組。
呼び止めたのは、少し前のことばでいうと「とっぽい」感じの男で、たぶんいちばん酔っていた。
「はい?」
「ぶつかっておいて、すいませんだけで済ますんかい!?」
「・・・」
「お前、どこの新聞屋だ?」
「朝日、、、ですけど」
「これから店に乗り込んでもいいんだぜ!?」
いまの自分だったら、コイツやけに凄むなぁ、「イキって」るなぁ、面倒だなぁ、あぁ女子が居るからか・・・みたいな感じで頭のなかでいろいろ計算出来るが、
当時はまだ18歳だったからね、オトナ? に絡まれることが恐怖で恐怖でしかたなかった。
「すいません、以後、気をつけます」
「以後って、たぶん、もう会わねぇじゃねーかよ!」
・・・・・。
なんなんだよコイツ、じゃあ、どうすればいいんだよ。
金でも出せばいいのか?
すると男は、荷台に沢山の新聞が積んである愛車を、思いっきり蹴飛ばしたのである。
がらがらがっしゃっーーーーーーーーーーーん!!!
大袈裟でなく、トップ画像の3倍くらいの高さまで積んであった。
ぶつかったくらいで、酔っているからって、ここまでするかねぇ・・・とは、当時思わなかった。
繰り返すが、ただただ怖かったんだ。
だから倒されても動揺するだけで、どうしたらいいのか分からない。
男はさらに倒れている自転車を蹴ろうとしたが、女に「もうよそうよ」と諭され、「気をつけろよ!」と捨て台詞を吐いてどこかに消えていった―。
マクドナルドの入り口に目をやると、ホウキを持った彼女がこちらを見ている。
心配だけど、なんて声をかけてあげればいいのか分からない・・・そんな表情だった。
自転車を起こす。
散らばった新聞、チラシをかき集める。
砂などを払い、積み直す。
そのあいだ、彼女はずっと自分を見ていたのである。
なにも出来なかった自分への苛立ちと、その一部始終を好いている女子に見られたという恥ずかしさ―よほど堪えたか、その翌日に、自分は警察署が開く柔道教室に通い始めた。
中学の部活では茶帯になるのが「やっと」だったのに、すぐに上達して黒帯に。
さらに2年後、吉田道場に所属して総合格闘技を学び始めるようになった。
これが、自分がきちんと柔道と向き合うきっかけとなったエピソード。
とはいっても・・・
その翌日に「強くなった自分」を見せられるわけもないので、しばらくのあいだは、彼女と顔をあわせるのが苦痛だったなぁ。。。
そのころ飽きずに聴いていたのが、レディオヘッドの『クリープ』。
トム・ヨークが ♪ 俺はうじ虫 ♪ と叫ぶ歌詞は自分とリンクし、こころを打たれたものである。
だからこの曲は、自分のなかでの生涯の1曲であり続けているのであった。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『さぁ、ペダルを漕ごう』
高層マンションや企業が集中していて、深夜でもそこそこに賑やかなところ。
だから早朝の3~5時に配達するといっても、自転車のライトを点けていなかったと記憶する。その必要がないくらい、明るかったのである。
開店前のマクドナルド―その店内を清掃する、20歳くらいの小柄な女子が居た。
自分は彼女にほのかな恋心を抱いていて、「おはようございます、朝刊です!!」と元気に新聞を手渡すのが毎日の楽しみだった。
「ごくろうさまです~」
とはいっても、経験が足りない。
現在のように気の利いたことばを投げかけることも出来ず、ただふつうに挨拶をする日々が続いた。
そんな、ある日の出来事である。
いつものようにマクドナルド前に自転車を止め、彼女に新聞を手渡す。
「おはようございます、朝刊です!!」
「ごくろうさまです~」
会話をしているうちに入らないが、それでもハッピーだった。
都合よく解釈し過ぎかもしれない、しかし彼女の表情は、なんとなく自分に好意を抱いている・・・ように見えた。
(照れるので)軽くダッシュをする感じでマクドナルドを出て、自転車まで戻る―そのとき、通行人のひとりと身体がぶつかった。
「あ、すいません!」
相手の顔も見ずに、そのまま通り過ぎようとした。
・・・ら、
「おい、あんちゃん!」
と、呼び止められた。
男2人女1人、20代なかばくらいの3人組。
呼び止めたのは、少し前のことばでいうと「とっぽい」感じの男で、たぶんいちばん酔っていた。
「はい?」
「ぶつかっておいて、すいませんだけで済ますんかい!?」
「・・・」
「お前、どこの新聞屋だ?」
「朝日、、、ですけど」
「これから店に乗り込んでもいいんだぜ!?」
いまの自分だったら、コイツやけに凄むなぁ、「イキって」るなぁ、面倒だなぁ、あぁ女子が居るからか・・・みたいな感じで頭のなかでいろいろ計算出来るが、
当時はまだ18歳だったからね、オトナ? に絡まれることが恐怖で恐怖でしかたなかった。
「すいません、以後、気をつけます」
「以後って、たぶん、もう会わねぇじゃねーかよ!」
・・・・・。
なんなんだよコイツ、じゃあ、どうすればいいんだよ。
金でも出せばいいのか?
すると男は、荷台に沢山の新聞が積んである愛車を、思いっきり蹴飛ばしたのである。
がらがらがっしゃっーーーーーーーーーーーん!!!
大袈裟でなく、トップ画像の3倍くらいの高さまで積んであった。
ぶつかったくらいで、酔っているからって、ここまでするかねぇ・・・とは、当時思わなかった。
繰り返すが、ただただ怖かったんだ。
だから倒されても動揺するだけで、どうしたらいいのか分からない。
男はさらに倒れている自転車を蹴ろうとしたが、女に「もうよそうよ」と諭され、「気をつけろよ!」と捨て台詞を吐いてどこかに消えていった―。
マクドナルドの入り口に目をやると、ホウキを持った彼女がこちらを見ている。
心配だけど、なんて声をかけてあげればいいのか分からない・・・そんな表情だった。
自転車を起こす。
散らばった新聞、チラシをかき集める。
砂などを払い、積み直す。
そのあいだ、彼女はずっと自分を見ていたのである。
なにも出来なかった自分への苛立ちと、その一部始終を好いている女子に見られたという恥ずかしさ―よほど堪えたか、その翌日に、自分は警察署が開く柔道教室に通い始めた。
中学の部活では茶帯になるのが「やっと」だったのに、すぐに上達して黒帯に。
さらに2年後、吉田道場に所属して総合格闘技を学び始めるようになった。
これが、自分がきちんと柔道と向き合うきっかけとなったエピソード。
とはいっても・・・
その翌日に「強くなった自分」を見せられるわけもないので、しばらくのあいだは、彼女と顔をあわせるのが苦痛だったなぁ。。。
そのころ飽きずに聴いていたのが、レディオヘッドの『クリープ』。
トム・ヨークが ♪ 俺はうじ虫 ♪ と叫ぶ歌詞は自分とリンクし、こころを打たれたものである。
だからこの曲は、自分のなかでの生涯の1曲であり続けているのであった。
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明日のコラムは・・・
『さぁ、ペダルを漕ごう』