黒髪のロングヘア―、40代前半の女の動きには、なんというか、余分なところがなかった。
そのホームセンターの常連なのか、あるいは常習的な窃盗犯として下見がきちんと出来ていたのか、
Aの棚からキッチンペーパーを取ってBの角でバッグに入れる、
Cの棚からシャンプーを取ってDの角でバッグに入れる、
Eの棚からレトルト食品を取ってFの角でバッグに入れる・・・を繰り返し、全部で12点、5000円相当の商品を窃盗した。
あまりにもスピーディーだから窃盗を確認すること(=現認)は難儀であったが、最初から怪しいと思っていたので、ある一定の距離を保ちつつ尾行を継続、8点目の生理用品を窃盗する瞬間を現認することが出来た。
女が会計を済ませずに退店するところを確認し、車に乗り込む前に声をかけた。
「―すいません」
きゃぁ!!
女は、小さな悲鳴をあげた。
「すいません、・・・分かりますよね」
「・・・」
「分かりますよね」
「えっ」
「なぜ声をかけられたか、分かりますよね」
「・・・・・」
女は観念したようで、素直に罪を認めた。
事務所に連行し「盗ったものを、すべて出してください」といったところで、店長がやってくる。
店長は女の顔をまじまじと見つめ、そうして女に近づいていった。
「すごい数を盗ったんですよ」
自分の話し声も、耳に入っていなかったようである。
女の髪をつかんだので、これはまずいと思って静止しようとすると・・・
女の髪がずれ落ち、それがカツラであることが分かった。
店長「やっぱり・・・お前か」
ばっちりと変装してきたようだが、店長は一目見てピンときたそうである。
元従業員だったのだ!!
なるほど、店の構造を知り尽くしているから、余分な動きが生まれなかったのか。
女に落ち度があったとするならば、女の退職後に私服保安員を雇ったことを「知らなかった」ところだろう。
元従業員による犯罪といえば。
ホテルに泊まった高校生たちのスマホや財布を大量窃盗したのも、元従業員だった。(長野県山ノ内町・志賀高原のホテル)
防犯カメラも設置されていたのに、鍵もかかっていたのに。
そう考えれば犯人の目星はつき易かった、、、割には、逮捕まで時間を要してしまった。
もうひとつ。
直近過ぎて、しかも凄惨に過ぎて言及するのも憚られるが、きのう発生した相模原の事件もまた、元従業員による犯行だった。
(このことについては、もう少し時間が経過してから書いてみようか・・・)
それにしても。
「元」ホームタウンかもしれないが、よくやるなぁと悪い意味で感心する。
しかも、変装してまで5000円ぽっちのものを盗んで。
ばれたときのリスクが、高過ぎやしないかい?
変装なんて、文化としてはコスプレなどがあるが、
あとは芸能人と、映画の世界のことくらいに思っていた。
イーサン・ハントとか、デ・パルマの傑作『殺しのドレス』(80…トップ画像)とかね。
ともあれ。
こうなってしまったら、保安員の出る幕ではない。
もっといえば、警察も必要はない。
店長と、元従業員の対決になるわけで。
店長は女を2度ほど殴り、「出て行け、2度と顔を見せるな!」と怒鳴り、すぐに女を帰した。
「どんな事情があろうと、警察に通報すること」と自分には命じていたのに、どうしたのだろう。
怒りが極まって、そのことを忘れてしまったか。
あるいは、
なんらかの、情が働いたのであろうか。
通常、仕事あがりの際は必ず店長に「きょうの総括」を報告するのだが、その日だけは「きょうは、いいや」と寂しく笑った―あのときの店長の顔が、いまでも忘れられないのだった。
つづく。
(あと2日間、このころのエピソードについて綴ることにする)
※『殺しのドレス』より、ゾックゾクする流麗なカメラワーク
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『初体験 リッジモント・ハイ(186)』
そのホームセンターの常連なのか、あるいは常習的な窃盗犯として下見がきちんと出来ていたのか、
Aの棚からキッチンペーパーを取ってBの角でバッグに入れる、
Cの棚からシャンプーを取ってDの角でバッグに入れる、
Eの棚からレトルト食品を取ってFの角でバッグに入れる・・・を繰り返し、全部で12点、5000円相当の商品を窃盗した。
あまりにもスピーディーだから窃盗を確認すること(=現認)は難儀であったが、最初から怪しいと思っていたので、ある一定の距離を保ちつつ尾行を継続、8点目の生理用品を窃盗する瞬間を現認することが出来た。
女が会計を済ませずに退店するところを確認し、車に乗り込む前に声をかけた。
「―すいません」
きゃぁ!!
女は、小さな悲鳴をあげた。
「すいません、・・・分かりますよね」
「・・・」
「分かりますよね」
「えっ」
「なぜ声をかけられたか、分かりますよね」
「・・・・・」
女は観念したようで、素直に罪を認めた。
事務所に連行し「盗ったものを、すべて出してください」といったところで、店長がやってくる。
店長は女の顔をまじまじと見つめ、そうして女に近づいていった。
「すごい数を盗ったんですよ」
自分の話し声も、耳に入っていなかったようである。
女の髪をつかんだので、これはまずいと思って静止しようとすると・・・
女の髪がずれ落ち、それがカツラであることが分かった。
店長「やっぱり・・・お前か」
ばっちりと変装してきたようだが、店長は一目見てピンときたそうである。
元従業員だったのだ!!
なるほど、店の構造を知り尽くしているから、余分な動きが生まれなかったのか。
女に落ち度があったとするならば、女の退職後に私服保安員を雇ったことを「知らなかった」ところだろう。
元従業員による犯罪といえば。
ホテルに泊まった高校生たちのスマホや財布を大量窃盗したのも、元従業員だった。(長野県山ノ内町・志賀高原のホテル)
防犯カメラも設置されていたのに、鍵もかかっていたのに。
そう考えれば犯人の目星はつき易かった、、、割には、逮捕まで時間を要してしまった。
もうひとつ。
直近過ぎて、しかも凄惨に過ぎて言及するのも憚られるが、きのう発生した相模原の事件もまた、元従業員による犯行だった。
(このことについては、もう少し時間が経過してから書いてみようか・・・)
それにしても。
「元」ホームタウンかもしれないが、よくやるなぁと悪い意味で感心する。
しかも、変装してまで5000円ぽっちのものを盗んで。
ばれたときのリスクが、高過ぎやしないかい?
変装なんて、文化としてはコスプレなどがあるが、
あとは芸能人と、映画の世界のことくらいに思っていた。
イーサン・ハントとか、デ・パルマの傑作『殺しのドレス』(80…トップ画像)とかね。
ともあれ。
こうなってしまったら、保安員の出る幕ではない。
もっといえば、警察も必要はない。
店長と、元従業員の対決になるわけで。
店長は女を2度ほど殴り、「出て行け、2度と顔を見せるな!」と怒鳴り、すぐに女を帰した。
「どんな事情があろうと、警察に通報すること」と自分には命じていたのに、どうしたのだろう。
怒りが極まって、そのことを忘れてしまったか。
あるいは、
なんらかの、情が働いたのであろうか。
通常、仕事あがりの際は必ず店長に「きょうの総括」を報告するのだが、その日だけは「きょうは、いいや」と寂しく笑った―あのときの店長の顔が、いまでも忘れられないのだった。
つづく。
(あと2日間、このころのエピソードについて綴ることにする)
※『殺しのドレス』より、ゾックゾクする流麗なカメラワーク
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明日のコラムは・・・
『初体験 リッジモント・ハイ(186)』