Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

にっぽん男優列伝(254)永瀬正敏

2014-11-20 00:30:00 | コラム
66年7月15日生まれ、48歳。
宮崎出身。

公式サイト


(若々しい見た目なので)7つ年上にも関わらず、永瀬正敏(ながせ・まさとし)さんのことを「永瀬くん」という自分―しかし「永瀬くん」というとみんな、長瀬智也くんを想起してしまうみたいで、会話が噛み合わないこともしばしばです。

それにしても。
俳優はみんな実年齢より見た目が若いものですが、ほどがある!! と突っ込みたくなるくらいに歳を取らないひとですよね。

近年は写真家としても精力的に活動していますが、個人的には、インディーズ映画への協力を惜しまないその姿勢を「もっと、もっと」評価すべきなのでは―? と思いますね。

浅野忠信や大森南朋の系譜。
その出発点は、このひとだった・・・そう思うからです。


※凝りまくった演出は映画ファンを喜ばせたけれど、視聴率的には「・・・」だったという




<経歴>

元妻は、キョンキョン小泉今日子。

映画俳優デビュー作は、83年の『ションベン・ライダー』。
相米慎二による「よく分からん」演出が散見される不思議な映画ですが、永瀬くんだけでなく、河合美智子や坂上忍(!)など若手によるフレッシュな演技が最大の見どころなので、ワケワカラン物語でも気になりません。

あだち充の人気漫画を「なぜか」井筒和幸が演出しちゃった『みゆき』(83)、『メロドラマ』(88)。

89年―米ニューヨーク・インディーズの雄、ジム・ジャームッシュによる軽快なオムニバス『ミステリー・トレイン』に出演、工藤夕貴と日本人カップルを演じる。
ジャームッシュ映画にしてはスマートとはいえず・・・しかし『ファー・フロム・ヨコハマ』篇は、べつにふたりの日本人俳優が出ているから、、、という理由ではなく、ふつうに面白かったです。


永瀬くんの名前が一般層にまで広まったのは、おそらく91年の『息子』から。

聾唖の和久井映見に惚れ、彼女と一緒になることを父親(三國連太郎)に納得させる若者を熱演していました。

そんな熱い男が翌年に主演したのが『死んでもいい』(92)で、人妻・大竹しのぶの魔性に溺れる若者を好演、「あんたの旦那、俺が殺そうか?」という台詞のトーンがじつに自然で、あぁこのアンちゃん演技が巧いんだなぁ!! と感心したことを覚えています。

※『死んでもいい』の、雰囲気抜群なオープニング




あがた森魚が監督した『オートバイ少女』(94)、
林海象が手がける「私立探偵 濱マイク」のシリーズで『我が人生最悪の時』(94)、『遥かな時代の階段を』(95)、『罠』(96)、
『BeRliN』(95)、外国映画『コールド・フィーバー』(95)、
米インディーズの監督と組んだ『フラート』(95)、
『誘拐』(97)、まだ頭角を現す前の中島哲也が監督した『Beautiful Sunday』(98)、
復活? した石井聰亙による―でも明らかな失敗作だった『五条霊戦記』(2000)、
おそらく、キャリアのなかでいちばんの駄作だと思われる『PARTY7』(2000)、
『けものがれ、俺らの猿と』(2001)、行定勲の佳作『贅沢な骨』(2001)、鈴木清順の『ピストルオペラ』(2001)、
園子温が注目されるきっかけとなった『自殺サークル』(2001)、さらには熊井啓の『海は見ていた』(2002)などなど、新進気鋭から超のつくベテランまで、とにかく野心的な映画には二つ返事で出演、なかなかに壮観なキャリアを築いていきます。

イマヘイ今村昌平の息子、天願大介による野心作『AIKI』(2002)、
『偶然にも最悪な少年』(2003)、『隠し剣 鬼の爪』(2004)、『姑獲鳥の夏』(2005)、『紙屋悦子の青春』(2006)、
『ありがとう』(2006)、『さくらん』(2007)、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)、
美術監督の木村威夫が初めてメガホンを持った『夢のまにまに』(2008)、
さらに2011年の『毎日かあさん』では元妻キョンキョンと共演、夫婦を演じていました。

『スマグラー おまえの未来を運べ』(2011)、『彌勒 MIROKU』(2013)、
去年の個人的なベストワン映画『戦争と一人の女』(2013)、
そして最新作が、『まほろ駅前狂騒曲』(2014)。

本人のやる気に反して「あらら…」な展開が待っている作品も多々ありますが、インディーズの監督たちにとって、これほど頼りになる中堅俳優も居ないでしょう。

格好いいなぁ、チクショウ笑


次回のにっぽん男優列伝は、仲代達矢さんから。

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明日のコラムは・・・

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選ばれし朴訥 ~追悼、高倉健~

2014-11-19 01:19:37 | コラム
朴訥(ぼくとつ)

かざりけがなく話し下手な・こと(さま)。

―『大辞林 第三版』より

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たとえば健さんのような俳優が、橋田壽賀子が脚本を担当したドラマや映画に出ることがあるだろうか。

いや、出ちゃいけないだろう。

健さんに饒舌は似合わない。
似合わないというか、多くのことばを必要としない俳優だった―といったほうが適切かもしれない。

だから同じ理由で、スコセッシの映画に出ることは許され? なかった。
日系のギャングを雰囲気たっぷりに演じてくれたろうが、たどたどしい英語でファック・ユーを連発するキャラクターは、健さんが演じてはいけないのである。

ジャー・ペシのように喋るところ、想像出来る?

ムリでしょう?

だから健さんは、日米合作の映画にリドリー・スコット監督作を選んだ。

※しかし、これでも台詞が多い




そういう意味では、一部の映画監督だけが「うまいこと扱える」俳優であり、万能型というわけではなかった。

ゆえに「不器用ですから」―これはCMでの台詞だが、健さん自身のことばとしては「ほとんどの役が、前科者。犯罪者なんです」というのがある。

たしかにそうだ。
盟友の石井輝男と組んだ代表作『網走番外地』のシリーズ(65~)はもちろん、
日本の善意・山田洋次が演出したとしても、健さんの役はムショあがり(=77年の『幸福の黄色いハンカチ』)になっちまう。
個人的に最も好きな主演作は爆弾犯を演じた『新幹線大爆破』(75)であるし、極端な話をすれば、犯罪に関わらない健さんは「らしくない」「物足りない」。

そんなわけだから、『鉄道員』(99)は乗れなかった。
あれだけヒットした『南極物語』(83)でさえ、中学生の自分には退屈だった。

血は流れないのか!? 日本刀や銃は登場しないのか!? って。

だったらまだ、出てきただけで笑える実写版『ゴルゴ13』(73)のほうが好きだ。


『新幹線大爆破』
『飢餓海峡』(65)
『昭和残侠伝』(65)
『網走番外地』
『ブラック・レイン』(89)


以上が、個人的な健さん出演映画のベスト5である。
本来ならここに、黒澤の『乱』(85)も入るはずだった。

黒澤は健さんをイメージして「鉄修理」(くろがねしゅり)のキャラクター像を創り上げていった。
しかし健さんは盟友・降旗康男による『居酒屋兆治』(83)の撮影を優先、黒澤の誘いを断った。

直々に、降旗に頭を下げる―黒澤がそうまでいったオファーなのに、健さんも出たかったのに、それを蹴っている。

こういうところがたぶん、健さんが慕われ尊敬される理由なのだろうなと思う。
要するに「義」を重んじる、朴訥なおじさん俳優であったと。

結局、「鉄修理」は井川比佐志が演じた。
関係ないが井川比佐志がいつも「困ったような表情で演技している」のは、このことが原因なのではないか。(もちろん冗談だ)


映画のキャリアは200本を超える。
近年の「間隔のあきかた」を思うと、若いころどれだけ出ずっぱりだったのかという話になる。
自分のようなキッタネー男どもは常に暴力的な展開を期待したが、健さん自身は、毎日のように繰り返される「マンネリのアクション撮影」に嫌気が差していたという。

自分の演技に納得がいかぬまま撮影が終わり、それが公開される。
けれども観客たちは健さんが抱くモヤモヤなどは想像さえ出来ず、ただただスクリーンで展開されるアクションに夢中になった。

彼らが望むなら―シリーズが完結するまで、そんな思いで出演を続けていたのかもしれない。


自分は、吉永小百合もそうなのだが、「健さんの、よきファン」ではなかった。
東映よりも東宝の映画を積極的に観た―というのも、やはり黒澤の影響下にあるからだろう。

それでもこのひとが、スターのなかでも特別な位置に居たことだけは分かる。
朴訥であることが許された・・・じゃない、選ばれて朴訥となった俳優―であることが。

だからもう、こういうタイプのスターは現れないんじゃないかと思う。


俳優・高倉健、11月10日死去。
享年83歳、合掌。





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にっぽん男優列伝(253)永島敏行

2014-11-18 00:30:00 | コラム
56年10月21日生まれ、58歳。
千葉出身。

公式ブログ


70年代後半から80年代前半―超のつく男前ではないけれど、等身大の若者を演じ業界から高評価を受けていた永島敏行(ながしま・としゆき)さん、
現在は映画に出演しても「出ずっぱり」という感じではなく、脇を固めるというか、特別出演みたいな扱いが多いです。

93年から始めた米作りに熱中、有限会社「青空市場」の代表取締役に就任し販売などに精を出すようになった・・・ためだと思われます。
その姿勢は「○○やってみました」のような軽いものではなく、去年より秋田県立大学の客員教授に就任、農業の魅力を教えるほどに本格的なのでした。

だから―でしょうか、近代映画史に欠かせない俳優のひとりなのに、若い映画ファンは永島さんの存在を知らなかったりするのですよね~。


※代表作といったら、やっぱりこれになるのでしょうか。

『遠雷』も捨て難いけど、走る映画『サード』の脚本は寺山修司だし、このころの森下愛子って、ほんとうに色っぽくて素晴らしいから。




<経歴>

映画俳優デビュー作は、77年の『ドカベン』。
高校球児をやっていた経歴が買われて―とウィキペディアにも載っていますが、いやいやこの作品は、有名な漫画を原作としつつも、野球は最後のほうに「ちょこっと」展開されるだけ、ほとんどの時間が柔道の描写に費やされるというトンデモ作品です。
コカコーラとタイアップ? しているわけもないのに、あらゆるシーンでコカコーラのロゴや商品そのものが登場。
それらが気になって、物語に入り込めません。



たぶん永島さんも、キャリアから消したいであろう珍作・・・なのですけれど、
神は才能ある若者を見捨てませんでした、翌年の『サード』(78)が評価を受けて、続々とオファーが舞い込むようになります。

『事件』(78)、『皇帝のいない八月』(78)、『俺たちの交響楽』(79)、
やっぱり森下愛子が素晴らしい『十八歳、海へ』(79)、
『動乱』(80)、『復活の日』(80)、『二百三高地』(80)、『連合艦隊』(81)、『幸福』(81)、
そしてもうひとつの代表作、『遠雷』(81)。

宇都宮、トマト栽培、ビニルハウス、そのなかでのセックス―いかにもATG、荒井晴彦的で自分は好きですが、評価の分かれる作品ではあります。

『駅 STATION』(81)、『赤い帽子の女』(82)、『キャバレー』(86)、『時計 Adieu l’Hiver』(86)、『青春かけおち篇』(87)、『愛はクロスオーバー』(87)、『噛む女』(88)、『異人たちとの夏』(88)、『ドンマイ』(90)。
『夢の女』(93)、『夜がまた来る』(94)、『ひめゆりの塔』(95)、『午後の遺言状』(95)、
石井隆の映像世界で、楽しそうにヤクザを演じた『GONIN』(95…翌年の姉妹編にも出演)、
『男たちのかいた絵』(96)、『タオの月』(97)、『クロスファイア』(2000)、『郡上一揆』(2000)、『長崎ぶらぶら節』(2001)、『ゴジラ×メカゴジラ』(2002)。

2004年―。
ショーケン萩原健一主演で企画が進められていた映画『透光の樹』が、クランクイン直後からスタッフとショーケンのあいだで確執などが起き撮影が続行不可能な状態に。
結局ショーケンは降板し、永島さんが代打で主演を務めました。

田中陽造による脚本が素晴らしく、また、相手役の秋吉久美子もさすがの存在感を放っていますので、出来ればショーケン版を観たかった・・・というのが本音ですけれど、噂ではなく事実として秋吉さんまで罵倒していたようですからね、おそらく撮影どころではなかったのだと思います、精神状態が。

付け足し的な表現になりますが、永島さんもけっして悪くなかったですよ!!

『水に棲む花』(2006)、『眉山―びざん―』(2007)、『北辰斜にさすところ』(2007)、『わたし出すわ』(2009)、『ゴールデンスランバー』(2010)、そして最新作が『種まく旅人~みのりの茶~』(2012)。

出演作が減少気味なのは、前述したとおり。

ちょっと寂しいですよね・・・。

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さぁ、ペダルを漕ごう

2014-11-17 11:29:35 | コラム
<14年度総括、第7弾>

本年度の総括、7弾目はコミックや写真集も含めた「本」。

三流とはいえ似非とはいえ、モノカキを名乗っている以上「興味なし!」の態度は取らずに、話題になったものからそうでないものまで「可能なかぎり」目を通すようにしている。

しているのだけれども、優先順位をつけるとするならば・・・

<1>書く
<2>映画を観る

そのあとに、

<3>他者の作品を読む、見る

がくるわけで、まぁそれはしょうがないのだけれども、その傾向が年々強くなっている。

つまり去年より読書数は減っていて、もっといえば去年は一昨年より減っている、一昨年も同様に・・・を繰り返しており、そんな具合だから映画のようにベスト20を展開出来るほど本に目を通してはいない。

そんな自分による、映画や音楽よりも偏りのある「本のベスト」は以下のとおりだが、総括シリーズで最も「他者には参考にならない」リストになっているような気がして、いささか不安だったりする。


(1)漫画…『弱虫ペダル』(作・渡辺航 秋田書店)

2008年から連載している漫画なのに、初めて手に取ってみた。
そうして、夢中になった。

自転車のロードレースを描いた青春ドラマであり、アニメ化もされている。

(2)連作短編…『みんなの少年探偵団』(作・小路幸也、藤谷治、万城目学、湊かなえ、向井湘吾 ポプラ社)

江戸川乱歩生誕120年を記念し、人気作家がオマージュをちりばめて探偵小説を書いている。

オムニバス映画におけるQTタランティーノではないが、やっぱり湊かなえの作品が群を抜いていた。

(3)エッセイ…麻美ゆま自叙伝『Re Start どんな時も自分を信じて』(作・麻美ゆま 講談社)

病を患ったAV女優の赤裸々な告白。

この世界で活躍する女の子の手記では、出色の出来かと。

(4)ノンフィクション…『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(作・坪田信貴 アスキー・メディアワークス)

やっぱり、表紙や装丁って大事なんだよね~。



(5)小説…『春の庭』(作・柴崎友香 文藝春秋)

芥川賞受賞作。

映画と同様、小説は物語りではなく、人語りなのだ―ということを実感させてくれた。

(6)小説…『沈黙』(作・遠藤周作 新潮文庫)

じつはここ数年の個人的ベストテンで、毎回ランクインしている。

2015年11月、いよいよスコセッシが監督した米映画版『沈黙』が全米公開される。

日本上陸までに、あと5回は読んでおきたい。

(7)小説…『果てしなき渇き』(作・深町秋生 宝島社)

映画『渇き。』の原作。
中島演出による毒気は賛否分かれたが、小説のほうは誰もが引き込まれるのではないかな。




(8)写真集…小池里奈『RINA REAL』(ワニブックス)

いま、いちばん好きなグラビアの子。

(9)ノンフィクション…『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』(作・池谷孝司 幻冬舎)

支配と被支配の関係性からこの問題に斬り込み、真相をあぶり出した労作。

(10)ノンフィクション…『日本の風俗嬢』(作・中村淳彦 新潮社)

推定35万人とされる風俗嬢の実態に迫る。

いちばん気になる収入のことも調べ上げており、この1冊から日本の「いま」が見えてくる。

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初体験 リッジモント・ハイ(102)

2014-11-16 03:29:38 | コラム
専門学校に通いながら新聞奨学生をやっていた自分の担当区域は、調布駅の南口だった。

高層マンションや企業が集中していて、深夜でもそこそこに賑やかなところ。
だから早朝の3~5時に配達するといっても、自転車のライトを点けていなかったと記憶する。その必要がないくらい、明るかったのである。

開店前のマクドナルド―その店内を清掃する、20歳くらいの小柄な女子が居た。
自分は彼女にほのかな恋心を抱いていて、「おはようございます、朝刊です!!」と元気に新聞を手渡すのが毎日の楽しみだった。

「ごくろうさまです~」

とはいっても、経験が足りない。
現在のように気の利いたことばを投げかけることも出来ず、ただふつうに挨拶をする日々が続いた。

そんな、ある日の出来事である。
いつものようにマクドナルド前に自転車を止め、彼女に新聞を手渡す。

「おはようございます、朝刊です!!」
「ごくろうさまです~」

会話をしているうちに入らないが、それでもハッピーだった。
都合よく解釈し過ぎかもしれない、しかし彼女の表情は、なんとなく自分に好意を抱いている・・・ように見えた。

(照れるので)軽くダッシュをする感じでマクドナルドを出て、自転車まで戻る―そのとき、通行人のひとりと身体がぶつかった。

「あ、すいません!」

相手の顔も見ずに、そのまま通り過ぎようとした。

・・・ら、

「おい、あんちゃん!」

と、呼び止められた。

男2人女1人、20代なかばくらいの3人組。
呼び止めたのは、少し前のことばでいうと「とっぽい」感じの男で、たぶんいちばん酔っていた。

「はい?」
「ぶつかっておいて、すいませんだけで済ますんかい!?」
「・・・」
「お前、どこの新聞屋だ?」
「朝日、、、ですけど」
「これから店に乗り込んでもいいんだぜ!?」

いまの自分だったら、コイツやけに凄むなぁ、「イキって」るなぁ、面倒だなぁ、あぁ女子が居るからか・・・みたいな感じで頭のなかでいろいろ計算出来るが、
当時はまだ18歳だったからね、オトナ? に絡まれることが恐怖で恐怖でしかたなかった。

「すいません、以後、気をつけます」
「以後って、たぶん、もう会わねぇじゃねーかよ!」

・・・・・。

なんなんだよコイツ、じゃあ、どうすればいいんだよ。
金でも出せばいいのか?

すると男は、荷台に沢山の新聞が積んである愛車を、思いっきり蹴飛ばしたのである。


がらがらがっしゃっーーーーーーーーーーーん!!!


大袈裟でなく、トップ画像の3倍くらいの高さまで積んであった。

ぶつかったくらいで、酔っているからって、ここまでするかねぇ・・・とは、当時思わなかった。
繰り返すが、ただただ怖かったんだ。

だから倒されても動揺するだけで、どうしたらいいのか分からない。

男はさらに倒れている自転車を蹴ろうとしたが、女に「もうよそうよ」と諭され、「気をつけろよ!」と捨て台詞を吐いてどこかに消えていった―。


マクドナルドの入り口に目をやると、ホウキを持った彼女がこちらを見ている。

心配だけど、なんて声をかけてあげればいいのか分からない・・・そんな表情だった。


自転車を起こす。
散らばった新聞、チラシをかき集める。
砂などを払い、積み直す。

そのあいだ、彼女はずっと自分を見ていたのである。


なにも出来なかった自分への苛立ちと、その一部始終を好いている女子に見られたという恥ずかしさ―よほど堪えたか、その翌日に、自分は警察署が開く柔道教室に通い始めた。
中学の部活では茶帯になるのが「やっと」だったのに、すぐに上達して黒帯に。
さらに2年後、吉田道場に所属して総合格闘技を学び始めるようになった。

これが、自分がきちんと柔道と向き合うきっかけとなったエピソード。


とはいっても・・・
その翌日に「強くなった自分」を見せられるわけもないので、しばらくのあいだは、彼女と顔をあわせるのが苦痛だったなぁ。。。

そのころ飽きずに聴いていたのが、レディオヘッドの『クリープ』。

トム・ヨークが ♪ 俺はうじ虫 ♪ と叫ぶ歌詞は自分とリンクし、こころを打たれたものである。

だからこの曲は、自分のなかでの生涯の1曲であり続けているのであった。




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