私は、昨日、動物病院へ猫のサプリを貰いに行ったんです。
待合室の空いている席に座って待つことにしました。
隣にジャーマン・シェパードさんが居て、
ちょっと離れた所にアメリカン・コッカースパニエルちゃんが居た。
犬が好きな私としては、本来ならば、ヘブンだ。
本来ならば・・・
しかし、
スパニエルちゃんが、厳つい男に何度も頭を叩かれている。
大人しく座っているのに、ほんの僅かに動くだけで、
かなりの力で叩いているんだ。
この子、以前も見た。
その時も、同じように叩かれていた。
私は何も言えず、せめて男を睨んでいたら、
シェパードさんと共に居る女性が、口を開いた。
「私、元ドックトレーナーなんだけどね。
犬に体罰、それが、最悪なバカ飼い主の典型なの。」
おっと、ばっさりだ。
しかも、厳つい男にではなく、私に言ってる。
私はすぐ男を見たが、男は私を睨んでいた。
いやいや、私じゃねーよ。
やばい、何でもいいから声を出そう。
声を出せば、私の発言では無い事が判明するだろう。
焦った私は、シェパードさんの方の女性に対して、
大人しいシェパードさんですね、ウフフ。
今日は、待ち時間が掛かりそうですね~、ね~。
と、結構大きな声で、言った。
私は、その光景を前に、
昔、結婚していた時の、嫁ぎ先の庭で飼われていたチロを思い出した。
大きなオスの和犬だった。
すごいバカ犬で、お義父さんにしか懐かないから、
他の人間は決して近付いてはいけないと言われた。
お義父さんが、ご飯をあげに行く様子を見ていたら、
チロは凄く喜んでいて、でもそのチロを、お義父さんは、何度も殴っていた。
殴られても、喜ぶ姿勢を崩さないチロを見て、なんだか切なくなって、
その次の日から、私は、チロの世話係を買って出た。
咬まれてながらの、デンジャラス生活が始まったが、
知らない土地に嫁いだ私には、孤独を癒すには丁度良かった。
そうして半年が経った頃には、チロは私の唯一の友になっていた。
散歩で迷子になると、チロが家まで誘導してくれた。
怪しい男が話しかけてきた時なんて、吠えて守ってくれたのだ。
そんなある時、久しぶりに、もう1年振り程だろうか。
お義父さんがチロの方へ歩いて行くのを見つけた。
しまったと思ったが、これ見よがしに走って行き、
チロを守る勇気は、私には無かった。
しかしチロは、以前のように、お義父さんを見つけて、
鼻を鳴らしながら、狂おしい程に喜んだのだ。
殴られるかもしれないのに、それでもチロは喜んで見せた。
あまりに健気なその姿は、初めて見た時よりも
この眼に更に切なく映った。
チロは、バカ犬だから、殴られても喜んでいたのでしょうか?
違うと思うんです・・・
彼は、最期までお義父さんに忠誠を誓った、素晴らしい犬でした。
そこで、女性の声がして、ハッと気づいた。
「で、お義父さんは、その時やっぱ殴ったの?」という声に。
と、まぁ、そんな訳で、
私は待合室で、ついチロの事を、女性に話してしまっていたのです。
こんな所で、余計な事を話してしまったと猛省しながらも、
女性に応えるため、首を横に振りつつ、
さり気なく厳つい男を横目で見たら、
男はスパニエルちゃんの頭を優しく撫ぜていた。
きく「そんなヤツ、私だったら咬み付いてやるけどね。」
きく「バッチこ~い!手本を見せてやるよ」
きっと、大丈夫だよ。
きっと。
きく「あたしは、そろそろ、コイツを咬むけどな」
なんで?
しつこいから?
勘弁してやって~。