朝、出勤するために、
車を運転していたら、
道にうずくまる、1羽の鳥を見つけた。
おはようございます。
私は、時々、自分の事を棚に上げて、
「人間の心は醜い」などと吐いたりする。
その日も、そんな事をグチグチ考えながら運転していた。
すると、突然、前を走る車が右に逸れたから、
私も驚いて、ハンドルを切った。
「あっ、キジだ!」
オスのキジだった。
一瞬の事だから生存は確認できなかったが、
轢かずに済んで通り過ぎたことに、ホッとした。
しかし、信号を越えるだび、
「あれでは、いずれ轢かれてしまう」
と心配になっていった。
車の通りが激しい道だから、なおの事だ。
私は、4つ目の信号で、急いでUターンして戻った。
道の端に停車させ駆け寄ってみると、キジは微かに動いた。
「生きてる」
生きてる・・・さて、どうしよう?
軽はずみに掴もうとして、
さらに道の真ん中へ逃げていっては大変だ。
私は、車内にあるタオルを思いついた。
キジの背後から近づき、頭部にサッとタオルを掛けて、
すぐさま、キジの体を鷲掴みにした。
キジは、足をばたつかせる。
「おぉ、ごめんごめん、すぐ離すから」
思いのほか、力が強い。
怖いと感じたと同時に、希望も感じた。
急いで抱き上げ、草むらまで運び、
草の上に置いた。
私は、すぐ走れるよう体勢を整えた。
「よし」
タオルごと、キジから手を離し、足早に距離を取った。
「逃げろ!飛べ!」
しかし、キジは動かない。
再び近づくと、キジの頭がコトッと落ちた。
そこで、ようやく、私はキジの姿をしっかり見た。
「美しい」
しばらく眺めていたら、草むらの向こうで重機が唸った。
以前は草むらだったはずの場所が、
フェンスに覆われていることに、私はこの時初めて気が付いた。
重機の耳障りな音に驚いた鳥たちは、一斉に飛び立った。
白いサギやムクドリだ。
空を見上げれば、みな、同じ方角へ飛んでいく。
「逃げろ、美しい場所へ飛んでいけ!」
鳥は、美しい場所を知っている。
人間の目からは見えぬ、美しい場所だ。
小さな小川や、草木が茂った空き地、人間が忘れてしまった場所。
私は、青空に小さくなっていく、鳥を見上げ、
取り残されていくような、そんな気持ちになった。
しかし、さすがに仕事へ行かなければならない時間だ。
私は、キジの体をそのまま、草むらに置いて車へ戻った。
美しいキジは、他の生き物の糧になり、
そしてまた、美しい場所を創る小さな花になるのだろう。
「ごめんな、ありがとう」
私は自然と、呟いていた。
人間なんて、人間なんて、っと思っていた私は、紛れもなく人間だ。
人を羨んだり妬んだり、文句は放っておいても無限に湧いてくる。
イライラしながら歩く足で、いくつの美しい命を踏みつけてきた事だろう。
美しいキジの死にゆく様に、私は自分が恥ずかしくなった。
そしてせめて、
この胸に湧いてくる醜い心から、逃げない自分でいようと思った。
さて、我が家の景色といえば・・・
たれ蔵、おいで~っと呼ぶと
たれ蔵が、ちゃんと来る。
こう見えて見えないが、来てるんだよ。
こんな感じで、来てくれてるんだ。
たれ蔵、普通に来てもいいんだからな。
普通に、歩いて来れば、いいんだからな。
たれ蔵「この方が、楽しいかと思ったんだ、母ちゃん。」
うん、楽しいな。
鼻に、ゴミ付けてるしな。