土曜日から始まった、
私の大型連休は、
予定通りに進んでいる。
おはようございます。
その予定とは、何もしないでゴロゴロする事だ。
見栄を張って、予定と記したが、
本当は、予想だ。
どうせ、そうなるんだろうっという自暴自棄な予想だ。
しかし、母さんの誕生日プレゼントは買いに行ってきた。
大型ショッピングセンターへ出向いた日は、
スマホから「今月の歩数、新記録」のお知らせが届いた。
母さんの誕生日プレゼントを探した日に、歩数の金賞を貰えた。
2,440歩で、金賞を貰ったんだ。
母さんは、昔からキラキラするものが、大好きだった。
「わしの前世は、おひぃさん(お姫様)やったんや。」
と、よく言っていた。
ドロップみたいな指輪をはめて、いつも綺麗にお化粧していた。
ちょっとしたお出かけだって、乱れた髪で外に出たりしない。
仕上がりは、いつだって、おひぃさんというより、
極妻かクラブのママだった。
玄関から出て行く母さんは、いつだって、ピカピカだった。
家の中にも、シャンデリアを吊るした。
母さんお気に入りのシャンデリアだ。
「傍から見れば、オンボロ屋に棲んどると思われるけどな、
うちには、こんな立派なシャンデリアかて、あるんやで。」
母さんは、自慢げに、シャンデリアを見上げていた。
そんな私は大人になり、
猫が大っ嫌いな母さんに、猫を託して、実家を出た。
15年後、出戻ってきた時には、
猫はお姫様が飾られているような写真立てに飾られており、
シャンデリアは、もうどこにも無かった。
シャンデリアのあった部屋は、
腰の悪い父さんのための寝室に代わっていて、
子供部屋だった部屋は、母さんのベッドが置かれていた。
ピンクのテカテカな生地にレースのヒラヒラが着いた、
お姫様みたいなベッドだった。
母さんは、相変わらず、ガラの悪いおひぃさんみたいだったが
玄関から出て行く姿は、少し小さく感じた。
あれから、また10年以上、時が流れた。
昨日、誕生日プレゼントを持っていた時は、
母さんは、鏡台の前で準備をしていた。
出掛けるために、お洒落ウィッグを被ろうとしていたが、
そのウィッグさえも、毛並みが乱れていた。
「母さん、それ逆やわ。ぎゃくぎゃく。」
ウィッグの前と後ろが逆だった。
私と母さんは、顔を見合わせて大笑いしながら、
母さんの背後からウィッグを被せて直してやった。
ガラの悪いおひぃさんは、さらに小さくなって
もう、おひぃさんには到底見えない。
ドロップみたいな指輪は、しまい込んだまま。
きっと、もう、母さんは指輪の事もシャンデリアの事も、
お姫様みたいなベッドの事も、
覚えてはいない。
「カズコさん、誕生日プレゼント持ってきたで。」
そう言って、私はキラキラした切子のグラスを母さんに贈った。
「誰の誕生日やったんや?」
「カズコさんの誕生日やんか」
母さんは、もう自分の誕生日も覚えていないのかと落胆したが、
さすが、ガラの悪いおひぃさんは、無敵だ。
「わしの誕生日は、今日やないぞ。30日や。」
だってさ。
母さんは自分の誕生日は、ちゃんと覚えていた。
「わしは、そこまでボケとらんぞ。
お前の方がボケとるわ、ひゃっひゃっひゃっひゃ」
そう大笑いする母さんに、私は負けじと言ってやったんだ。
「母さん、出かけるんなら、まず入れ歯を入れろよ!ひゃっひゃっひゃ」
ってね。
入れ歯は忘れていた母さんは、83歳になる。
来年は、金賞のメダルみたいな、キラキラした物を贈ろう。
うんこさんや?
うんこ「はひ?(なに?)」
うんこさんも、何か忘れてやしないかい?
うんこ「ふ~・・・ふ?」
わかんない?
うんこ「はんひほ、はふへへはいは!(なんにも忘れてないわ!)」
いや、入れ歯忘れた母さんと、しゃべり方、
一緒になってるから~!
舌、舌忘れてやろ?
うんこ「こへは、わはほは!(これは、わざとだ!)」
なんと、減らず口め!