蚊は、越冬します!
おはようございます。
蚊には、越冬する種類がいるのです。
蚊が越冬する。
あの小さくて華奢な虫が、越冬する。
私は浪漫を感じた。
だから、叫んだのです。
「殺すなー!」と。
玄関を開けた拍子に、我が家に迷い込んだ一匹の虫に、
猫らの胸はときめいた。
右往左往と飛ぶ虫を追う、惑星のように輝く猫らの瞳。
黒猫は、「永遠なれ」と願っているかのように、虫を見上げている。
その瞳は、火星のように燃えていた。
白猫の水星のような瞳は、普段寝てばかりだから、こんな時くらいしか見られない。
オッドアイの猫の眼は、なんだろう?
金星の横に海王星が現れた天変地異みたいだ。
そのせいで、我が家の太陽のような雌猫は、
小さな虫に怖気づいて、すっかり雲隠れしてしまった。
どうしたものか。
しばらく見守っていたが、やはり虫は外に逃がしてやろうと思った。
といえども、私の眼では虫を追うこともままならない。
私の眼は、惑星じゃない。
どちらかというと、飛んでいる虫だ。黒い点だ。
そんな中、虫と同じように、右往左往する私と私の小さな瞳が、
虫より簡単に捉えることができるのは、
この騒動をそっちのけで寝転がり続ける男だ。
なんて、憎らしい!
その時、
まるで道を塞ぐ邪魔な石ころのように横たわり続けていた男が、
魔法から解かれたように一気に動いた。
それと同時に、私は咄嗟に叫んだ。
「殺すなー!」
男が振り向いた時には、もう男の右手は硬く握られていた。
そして、男はそのまま、
「分かっていますよ。」
と余裕な口ぶりで言い、虫を外へ逃がしに行った。
こいつ、箸で虫を掴む宮本武蔵かよ?!
いや、ジャッキーチェンも映画で同じような技あったような気がする・・・
そんなことを考えていると、男は戻ってきた。
「ねえ、知ってる?蚊ってね、越冬するんだって。」
叫んでしまった償いの代わりに、私は優しくそう言った。
しかし、男はさっきより、更に余裕な口ぶりで、
「あれは、ハエでしたよ。」
と言うものだから、私は男がさらに憎らしくなった。
きっと猫らも、憎らしく思ったに違いない。
この際、蚊でもハエでも、どうでもいいのだ。
ねえ、そうでしょう?
ねえ、おたま!
おい、おたまよ!!
お前、お前ってば。
どうして、おじさんにだけ、そういう甘え方するの?
おたま「おら、おじさんっこだから」
憎らしい~!!