うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

昼下がりの更新(追記有り)

2024年07月12日 | マアコのこと

雨が降り、

久しぶりにクーラーを切った。

それは、紛れもない安堵感なはずだけれど、

こんな日は、野良猫はやって来ない。

 

おはようございます。

会社では、

胡蝶蘭が今年2度目の花を咲かせ始めて、

私は少し安堵している。

胡蝶蘭は咲けば、非常に強い花だ。

ちょっとやそっとでは、枯れない。

けれど、蕾のうちは繊細で儚い。

無事、咲いてくれるまでは見守るほかない。

それは、野良猫にも通ずる。

 

道を闊歩する野良猫は、この世を知り尽くした賢者だ。

風の通る日陰も、

柔らかな陽射しが集まる丘も、

鳥を狩るに最適な木も知っている。

暮らす界隈の裏も表も、

誰も知らない道の地図さえ描いている。

嫌な人間は一生忘れないし、

ちょっと良い奴かもと思える人間も知っていて、

そういう人間は、時々利用する。

そうやって、賢者は強かに生き抜く。

 

ママちゃんという野良猫は、まさにそんな野良猫だ。

けれど、

そんな野良猫に育てられていた子猫らは違う。

欄の蕾みたいに繊細で儚い。

ママちゃんは、自身の持つ知恵と母性を全て尽くし子育てをする中、

私も、買い込んだキャットフードでかばんの中を埋め尽くし、

子育てをサポートした。

それでも、保護した2匹以外の子猫らは、

次々と儚く消えていった。

 

ママちゃんの最後の子猫も、

しばらく姿を見なくなり、私はその子も諦めかけた。

しかし、

再び連れて来るようになり、取り敢えず安堵した。

「さて、どうするか?。」

保護したいと言っても、捕獲機はやっぱり無理だ。

捕獲機を知っているママちゃんに感づかれる。

私は答えを出せないまま、親子への給餌を続けていた。

猫にも宿命や運命があるのなら、

この子を保護する機会はきっとあると信じていた。

そしてもし、この子が野良猫になる運命ならば、

ママちゃんみたいな野良猫に育って欲しいと願った。

「蕾よ、咲け!」と。

 

そこで、

私は、ついに子猫に名前を付けた。

えむだ。

額のMが綺麗だったから。

今思えば、つぼみと名付ければ良かった。

こういうところだ、私のズレた脳みそめ。

とにかく私は、子猫の持つ運命を手繰り寄せるには、

名前が必要な気がしたのだ。

「えむちゃん、あなたはえむちゃんだからね。」

そう呼んだ日の夜、私は夢を見た。

 

会社の広い駐車場の真ん中で、倒れたえむを蘇生せんと

心臓マッサージをする私だ。

 

目覚めると、汗と涙でぐっしょり濡れていた。

やけに生々しい夢のせいで、

「やっぱり、えむは保護する。」

飼い猫になる運命を手繰り寄せると決めた。

 

その日から、えむとの距離を、

以前より積極的に縮めていった。

焦って近寄り過ぎると、えむはササッと逃げ隠れてしまう。

「ごめんごめん。えむ、えむちゃん?」

そんな攻防の中でも、ママちゃんは静観の構えだ。

えむの背後に、なんと香箱座りのママちゃんだ。

「あたし譲りの我が子が、スットコ女に

捕まる心配は微塵もないわ」と言いたげだ。

「ママちゃん、そうも言ってらんないの。

えむは死んじゃう運命かもなの。

保護できたら病院行けるし助けられるかもなの。」

 

この攻防は、一週間以上続いた。

家では家族会議を開いていた。

「えむちゃんは、かなり臆病な子だから里子には出せない。

うちの子になると思う。」

そう言うと、我が家のおじさんは、なにやら嬉しそうだから、

「可愛い子よ。でも多分、手強い子だからね〜。」

と一応、脅しておいた。

会社では、傍から見れば、

駐車場の至るところで車の下を、

転がって覗き込む私を笑わずにはいられなかっただろうが、

私はかなり真剣だった。

そして焦りながら

「焦るな焦るな。」

と自分にいい聞かせていた。

 

けれど、ある日、

それは一瞬で終わりを迎えた。

えむは、広い駐車場の真ん中で死んでしまったのだ。

死因は分からない。

あの夢と違うのは、私が帰った数分後だったことだ。

つぶらな瞳は開いたままなのも夢と同じだ。

なのに現実では、最も肝心な場面に、私は立ち会っていない。

あの夢の続きは、どうだったのだろう?

蘇生できていたら、エムは助かったのだろうか。

 

そんな後悔は、ママちゃんを見て吹き飛んだ。

ママちゃんは、エムの死を側で見届けている。

「ママちゃん、あの子死んじゃったんだね。」

そう声をかけると、

ママちゃんは3回、驚くほど大きな声をあげた。

そして何もなかったように、静かに餌を食べ始めた。

厳しくも切ない現実を、賢者は生き抜く。

私は、その姿に、

自分の薄っぺらい後悔とあやふやな運命論を

吹き飛ばされ、

安堵に似た感情を覚えた。

 

えむと背後のママちゃん

最後まで、

ずっとお母さんといられて良かったね、えむちゃん。