「エトワール・ガラ」Aプロ、公演最終日に行って参りました。
2010年8月1日(日)14:00~16:40
「エトワール・ガラ」らしい洒落た演目で固めた第一部が65分、20分の休憩をはさんで、今回の目玉企画、ラコット氏書き下ろしの新作、「三銃士」が75分、という構成。
いやぁなんだか、この「三銃士」がなんとも言えない作品で・・・(汗)
素晴らしい超絶技巧を難なくこなす超一流ダンサーがその技と演技力を、紙芝居的なレトロな展開の中で繰り広げていく・・・という感じでしょうか。
ついこの間、NHKの人形劇で三谷幸喜版が放映されたあのデュマの「三銃士」
日本でいえば「忠臣蔵」か「桃太郎」か、というくらい、親しまれ、知られた題材ゆえ、皆実に楽しそうにイキイキと演じているのがなんとも楽しい。キャスティングが絶妙で、面白いと言えば本当に面白かった、デス^^;
<第一部>
■1)「シルヴィア」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.ドリーブ
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ
シルヴィアとアミンタの出会いの場面です。
下手に丸いシルエットの紫の木、上手に三日月、背景にはグリーンのグラデーションがキレイな照明です。
生成りの薄手コットン?のオーバーオール姿のアミンタ登場。音楽は例のドリーブでオリジナル通り。
シルヴィア登場!
黒のインとショーツの上に、ピッタリしたベージュの革の胴着とつけて、背中に届く金髪をダウンスタイルにしたアッツォー二、たおやかで抒情的・・・という彼女のイメージを覆す、凛々しいシルヴィア。うーん、本当に引き出しの多いダンサーだわ。
アミンタは木の陰で彼女を見つめています。
水浴のために髪を束ねるシルヴィアが後ずさりすると背後に回ったアミンタにぶつかります。
二人の出会い。
登場シーンではイキイキと生命力溢れる若者、というリアブコ、ここではあこがれの彼女を前におずおずと恋する眼差しを向ける様にグッときます。シルヴィアは、強い眼差しを向け、二人の間に何かが起こります。
二人のパ・ド・ドゥ。
うーん、ノイマイヤーダンサーのノイマイヤー作品ってどうしてこんなに雄弁なのでしょうか。
初っ端からノックダウンです・・・
■2)ローラン・プティの「カルメン」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート マチュー・ガニオ
もともとイザベル・シアラヴォラが踊るはずだったのが、エレオノラに変更。
良かったですよ、彼女のカルメンはイキイキと健康的な笑顔の溌剌としたカルメン。あのコルセット衣装も似合っていましたし、魅力的。
マチューもとても美しいホセで、エレオノラをリフトするときにもちょっとウッとはずみをつけていなかった、とは言えませんが、それが見苦しくなるほどでもなく、頑張っていました。
うーん、でも何かが違うんですよね。美しい若者二人、ではありますが、なんだか幸せなカップルで、そこにファム・ファタールと魅入られてしまった若者の切迫感のようなものが今一つ。
この作品については繰り返し観たフェリとイレールの映像がデフォルトになってしまっているのと、シアラヴォラで観たときの彼女の発光するような紗がかかったみたいな美貌と白い肌の妖艶さをついカルメン役に期待してしまう、という観る側の問題があり、つい厳しめの目線になってしまうのでした^^;
■3)「天井桟敷の人々」よりスカルラッティ・パ・ド・ドゥ
振付:J.マルティネス 音楽:D.スカルラッティ
ドロテ・ジルベール ジョシュア・オファルト
無音で始まり、無音で終わる構成。始まりのアダージョがスローモーションで踊られるのですが、感心したのは、会場が静まり返って音一つしなかったこと。
それはラストの無音部分も同じく、で、先走った拍手もなく、この日の観客はコアなバレエファンが多いのね、と嬉しくなりました^^;
アニエス・ルテステュによる衣装がステキ。男性の上着と女性のベアトップのチュチュが、白黒映画のフィルムを重ね合わせたような素材になっていて、でもシルエットは可愛らしくて。
ジョシュアのクリーンな踊りが、ドロテの持つ生来の華やかさからノーブルな品格を引き出していてとても新鮮。
ドロテの相手役として、今まで若手ではマチューやマチアスを観てきましたが、ジョシュアとのコンビネーションが一番しっくりくるかも・・・今後を期待させる二人の並び、でした。
■4)「フェリーツェへの手紙」≪世界初演≫
振付:J.ブベニチェク 音楽:H.I.F.フォン・ビーバー
バロック・バイオリン:寺神戸亮
イリ・ブベニチェク
「フラジル・ベッセル」とはまた異なるアプローチ。非常に演劇的です。
上手の机で次々と手紙を書いては闇からスッと出てくる手(リアブコです)に渡している男。ある時、赤い紙を受け取る。
500通の手紙を書いた、というフランツ・カフカとその婚約者フェリーツェの悲恋をテーマにした作品。
赤い紙は彼女からの手紙?我を忘れて舞い上がる彼。
下手に寝台と印刷物で埋め尽くされた壁。それを確認してトランクを手に旅立とうとしたり、これはふたりの間に流れる時間を表現しているのか。
ラスト近くで受け取った赤い手紙からハラハラと赤い砕片が落ちて・・・
とてもナラティブ。抽象的な関係性を表現した「フラジル・ヴェッセル」とはまた違ったアプローチ。
アンジェイ・ワイダの映画を見ているような感触あり。どことなく東欧的な一人芝居、でした。
■5)「人魚姫」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.アウアーバッハ
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ
実はハンブルグ・バレエの全幕公演を見ていないので初見なのです。公演当時、衝撃をもって迎えられた話題作ゆえ、部分でも楽しみにしていました。
アッツォー二は当時も絶賛されていましたが、リアブコは日本ではこの作品お初だそう。
海底に沈んだ王子を人魚姫が見つけて助けるシーン。
紺のラインと胸元の金のエンブレムが入ったシンプルなグレーのレトロ水着の王子。
人魚姫は大きく後方で三つ編みを巻きつけたアップスタイルの金髪に、白塗りで青い血管?を浮き出させたちょっとグロテスクなメイク。タックを取ってブルーグリーンのグラデーションになったビスチェに狂言の衣装のような長く裾を引きずったターコイズブルーの袴?姿。
神秘的な音楽に、二人の海底にいることがわかる独得の動き。
普通は人間を食べてしまう肉食の人魚が王子を好きになってしまう。二人の踊りは王子にとっては夢の中の出来事・・・
この後、お話通り、陸に上がる人魚姫は、この海底にいたときのままのグロテスクな存在として、脚を得る・・・という設定。
心身ともに切ない痛みの権化のような人魚姫、という難役を演じきるシルヴィアが凄い・・・
彼女にとっては踊りという領域において不可能と言う言葉は存在しないのかも。
リアブコの王子も素晴らしい。
■6)ローラン・プティの「アルルの女」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート バンジャマン・ペッシュ
フルヴァージョンで、観ることができたのが嬉しい。
・・・のですが、あのファランドールでどんどんフレデリが熱を帯び狂気にとらわれていくところ・・・の表現が、うーん、バンジャマンはとても頑張っていたのですが、つい映像のルグリ先生を思い出してしまうと今一つ。
エレオノラは情感もあって素晴らしかったです。
観客の反応はとてもとても良かったので、わたくしの感想はバンジャマンに対して厳しすぎるのかもしれません。
なんだかリアブコの端正な中に多くを込める密度の濃いパのあとでバンジャマンを見るとどうにも雑に見えてしまって・・・^^;
どうも今回、パリ・オペエトワールに厳しい目になってしまうのはなぜでしょう?
とりあえず第一部終了。三銃士はまた明日!
はい、お待ちかね(^^?)「三銃士」です。
■「三銃士」全一幕≪世界初演≫(振付・衣装・舞台装置:P.ラコット、音楽:M.ルグラン)
ミレディー(謎の女): マリ=アニエス・ジロ、
リシュリュー(枢機卿): バンジャマン・ペッシュ
コンスタンス(侍女): エフゲーニヤ・オブラスツォーワ
ダルタニアン: マチアス・エイマン
アンヌ王妃: ドロテ・ジルベール
ルイ13世(国王): マチュー・ガニオ
三銃士 アトス: イリ・ブベニチェク
ポルトス: アレクサンドル・リアブコ
アラミス: ジョシュア・オファルト
枢機卿銃士: キャスパー・ヘス、鈴木彰紀、平牧仁、大石治人、三好祐輝、野口俊丞
街の女: オステアー紗良
冒頭、三銃士揃い踏み、のご登場。
がっちりした勇者男っぽいアトスがイリ、衣装は赤黒白の上着と羽飾りのついた帽子に白タイツ。
銃士とダルタニアンは皆、衣装は基本同じ構成で、色の組み合わせが異なります。
知的な2枚目アラミスはオファルトでブラウンと白。
陽気な酒豪でムードメーカー、ポルトスはリアブコでダークグリーンと白。
サーシャはアラミスのほうがイメージですが・・・まぁ、芸域の幅広さを買われたのでしょう(笑)
楽しそうに登場の踊りを踊って、馬ではけます。
ダルタニアン登場。グレー地に赤と黒のアップリケの衣装。
故郷の家からパリを目指すのですが、バックに田園風景の映像が流れる中、舞台中央でサイドを見せて足を大きく回す振り。走っている、という表現ですがなんだかユーモラス。
下手から質素なお部屋一式が船のように流れてきます。そこにいるのは赤いアップリケがフォークロアっぽい、白いドレスの可愛いコンスタンス。ダルタニアンは恋に落ち、コンスタンスは彼にハンカチーフを渡します。
パリに到着。背景が都会?な写真に変わっているのでそれとわかりますがなんとも紙芝居的な場面転換。
あえてのこういうレトロな演出なのでしょうか(笑)
ダルタニアンと三銃士の出会い。
ダルタニアンが銃士の仕草を真似ていると、それぞれひとりずつからなぜか怒りを買ってしまう展開となり、決闘だ!とばかりに手袋を投げられてしまいます。いきなり決闘。ダル、ピンチ。
そこに突然現れる怪しい団体。銃士の天敵?枢機卿側の刺客です。
おい、おまえも仲間だ、一緒に戦え。うーん、選りすぐりのダンサーたちのチャンバラシーン、なかなか観られるものではありません^^
ダルタニアンがつかまって、投獄の憂き目に・・・。
枢機卿暗殺を狙って?潜んでいる謎の女。
潜んでいるわりには、フューシャピンクのアクセントとラインストーンが艶やかな黒いロングドレスが目立ちますが(笑)
ミレディーはジロ姐さん。舞台の上ではミステリアスな運命の女の存在感がバッチリの彼女にはピッタリ。
枢機卿はペッシュ。コンプレックスと野心の塊のくえない奴、という複雑な役どころに彼はピッタリ。
ミレディは枢機卿のために働かされることになり、手紙?を預かります。
ダルタニアンの処刑の場。首吊台の向こうに三角帽子の死刑執行人が3人・・帽子をとったらなんと!
三銃士!
救出成功、祝いの宴。
さてと、余興だ、とばかり、一人ずつ、超絶技巧を散りばめた短いソロを披露します。
目の覚めるようなリアブコのピルエット。
マチアスの異常な高さのジャンプ。
オファルトのきれきれのジャンプ。
他の3人は想定内でしたが、オファルトっていつのまにこんなレベルのダンサーに??
全てのパに無駄がなく、絶妙にコントロールされていて動きが洗練されていて素晴らしい。
軽い余興のシーンなのに、これはもう、丁々発止のテクニックお披露目合戦。
イリが素でノリノリでした(笑)
さて、宮廷では・・・。
若くて美貌のルイ13世。黒白の洗練されたコスチュームにはフリルの襟と白いマントも完備されていて、マチューの麗しさを存分に堪能できます^^
国王は野心家の枢機卿と対立。
アンヌ王妃はドロテ。国王と同じイメージの華麗な黒白のコスチュームに身を包み、横恋慕する枢機卿と国王の間で苦しむパ・ド・トロワでの彼女の表情が美しい・・・。
ドロテって変顔も辞さない優秀なコメディエンヌの一面もありますが、基本とっても華やかな美人なので、憂いの表情もまた良し。
王妃も実権も奪おうとする枢機卿に対抗すべく、懐刀である三銃士の到着を待つルイ13世。
その三銃士は野営の準備をしています。
そこにやってきたのは男装に身をやつした王妃の侍女、コンスタンス。
白いカフスと襟が黒いピッタリとしたベルベットの胴着に映えて可愛らしいオブラスツォーワ。
再会を喜ぶ若い二人。そこに3人が絡んでのさまざまなフォーメーションでの踊り。
ここはオブラスツォーワに宛書きしたせいか、クラシックの眠りの森の美女の求婚者たちとの踊りのよう。
キスをしようとする二人を3人が同時に大きな羽飾りのついた帽子で隠してあげる、などの演出も微笑ましい。
では、休みましょう。
マントを敷いて、ダルタニアンはコンスタンスと、三銃士はそれぞれ、休むことにします。
ミレディが怪しく登場。黒いロングドレスに赤と黒の刺繍の入ったフラメンコで使うマントンを肩にかけて走り込み、ジプシーの踊りを激しく踊って、そして去っていきます・・・マントンを残して。
気配を察したダルタニアンが皆を起こします。誰かがここに来た様子。
立ち去らなくては。
三銃士はコンスタンスの護衛を。ダルタニアンは彼らとはぐれてしまいます。
ミレディのたくらみが当たり、ダルを拉致。
3人のダンサー?が布をかぶって馬となり、ミレディーがその背にダルを載せて、自分はその馬に乗って連れていく・・・というつもり。実際にはダルは目を閉じて、馬の背に片手を置いて寄り添い、一緒にトコトコ歩いていきます(笑)
ミレディーの隠れ家。
真っ赤なドレスのミレディーがダルタニアンを誘惑。見事に陥落。
そこに枢機卿に拉致されたコンスタンスが登場。
毒殺されて息絶えるコンスタンス。三銃士は帽子を取ってその死を悼みます。
そして銃士たちは今度はミレディに反撃。
これまでのことを白状させてあの手紙も回収。ミレディは息を引き取ります。
王宮では、しつこい枢機卿に手を焼く王妃。王も困惑。
三銃士参上!ダルも一緒です。
これをご覧ください。証拠の手紙です。
リシュリュー枢機卿の謀反を証明することが出来、その功を認められて、
ダルタニアンも晴れて銃士の仲間入り。
さぁて、これからは四銃士だ!
4人で上手から順に肩を組んでいき、最後に一番下手のオファルトが隣を見ると誰もいない・・という可愛いギャグも。
頭上からハラハラと舞うコンフェッティ。
これは連日の演出なのか最終日ゆえのスペシャルか。
ハッピーエンド。
構成にはまだまだ工夫の余地がありそうですが、親しみ深い絵巻物を超豪華なキャストで!
という好企画。ラコット氏に依頼することも含めてのマリ=アニエスの提案だったそうですが、さすが。
皆が楽しんで演じているのが伝わる作品でした。
最後のカーテンコールは延々と続く、(そして全てのダンサーに差がつくことなく、盛大に贈られていました)拍手の合間を縫って、「三銃士」のメイキング写真を背景にスライドショー&シャンソンのBGMで披露。
お疲れさまでした!
「三銃士」参加メンバー以外は、第一部の演目の衣装・メイクのままのカーテンコールでしたので、アッツォー二はポルトスなリアブコと手に手をとって人魚姫・・・という不思議な現象が起こりましたが、改めて、今回の白眉はこの二人であったことだなぁと思ったことでした
2010年8月1日(日)14:00~16:40
「エトワール・ガラ」らしい洒落た演目で固めた第一部が65分、20分の休憩をはさんで、今回の目玉企画、ラコット氏書き下ろしの新作、「三銃士」が75分、という構成。
いやぁなんだか、この「三銃士」がなんとも言えない作品で・・・(汗)
素晴らしい超絶技巧を難なくこなす超一流ダンサーがその技と演技力を、紙芝居的なレトロな展開の中で繰り広げていく・・・という感じでしょうか。
ついこの間、NHKの人形劇で三谷幸喜版が放映されたあのデュマの「三銃士」
日本でいえば「忠臣蔵」か「桃太郎」か、というくらい、親しまれ、知られた題材ゆえ、皆実に楽しそうにイキイキと演じているのがなんとも楽しい。キャスティングが絶妙で、面白いと言えば本当に面白かった、デス^^;
<第一部>
■1)「シルヴィア」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.ドリーブ
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ
シルヴィアとアミンタの出会いの場面です。
下手に丸いシルエットの紫の木、上手に三日月、背景にはグリーンのグラデーションがキレイな照明です。
生成りの薄手コットン?のオーバーオール姿のアミンタ登場。音楽は例のドリーブでオリジナル通り。
シルヴィア登場!
黒のインとショーツの上に、ピッタリしたベージュの革の胴着とつけて、背中に届く金髪をダウンスタイルにしたアッツォー二、たおやかで抒情的・・・という彼女のイメージを覆す、凛々しいシルヴィア。うーん、本当に引き出しの多いダンサーだわ。
アミンタは木の陰で彼女を見つめています。
水浴のために髪を束ねるシルヴィアが後ずさりすると背後に回ったアミンタにぶつかります。
二人の出会い。
登場シーンではイキイキと生命力溢れる若者、というリアブコ、ここではあこがれの彼女を前におずおずと恋する眼差しを向ける様にグッときます。シルヴィアは、強い眼差しを向け、二人の間に何かが起こります。
二人のパ・ド・ドゥ。
うーん、ノイマイヤーダンサーのノイマイヤー作品ってどうしてこんなに雄弁なのでしょうか。
初っ端からノックダウンです・・・
■2)ローラン・プティの「カルメン」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート マチュー・ガニオ
もともとイザベル・シアラヴォラが踊るはずだったのが、エレオノラに変更。
良かったですよ、彼女のカルメンはイキイキと健康的な笑顔の溌剌としたカルメン。あのコルセット衣装も似合っていましたし、魅力的。
マチューもとても美しいホセで、エレオノラをリフトするときにもちょっとウッとはずみをつけていなかった、とは言えませんが、それが見苦しくなるほどでもなく、頑張っていました。
うーん、でも何かが違うんですよね。美しい若者二人、ではありますが、なんだか幸せなカップルで、そこにファム・ファタールと魅入られてしまった若者の切迫感のようなものが今一つ。
この作品については繰り返し観たフェリとイレールの映像がデフォルトになってしまっているのと、シアラヴォラで観たときの彼女の発光するような紗がかかったみたいな美貌と白い肌の妖艶さをついカルメン役に期待してしまう、という観る側の問題があり、つい厳しめの目線になってしまうのでした^^;
■3)「天井桟敷の人々」よりスカルラッティ・パ・ド・ドゥ
振付:J.マルティネス 音楽:D.スカルラッティ
ドロテ・ジルベール ジョシュア・オファルト
無音で始まり、無音で終わる構成。始まりのアダージョがスローモーションで踊られるのですが、感心したのは、会場が静まり返って音一つしなかったこと。
それはラストの無音部分も同じく、で、先走った拍手もなく、この日の観客はコアなバレエファンが多いのね、と嬉しくなりました^^;
アニエス・ルテステュによる衣装がステキ。男性の上着と女性のベアトップのチュチュが、白黒映画のフィルムを重ね合わせたような素材になっていて、でもシルエットは可愛らしくて。
ジョシュアのクリーンな踊りが、ドロテの持つ生来の華やかさからノーブルな品格を引き出していてとても新鮮。
ドロテの相手役として、今まで若手ではマチューやマチアスを観てきましたが、ジョシュアとのコンビネーションが一番しっくりくるかも・・・今後を期待させる二人の並び、でした。
■4)「フェリーツェへの手紙」≪世界初演≫
振付:J.ブベニチェク 音楽:H.I.F.フォン・ビーバー
バロック・バイオリン:寺神戸亮
イリ・ブベニチェク
「フラジル・ベッセル」とはまた異なるアプローチ。非常に演劇的です。
上手の机で次々と手紙を書いては闇からスッと出てくる手(リアブコです)に渡している男。ある時、赤い紙を受け取る。
500通の手紙を書いた、というフランツ・カフカとその婚約者フェリーツェの悲恋をテーマにした作品。
赤い紙は彼女からの手紙?我を忘れて舞い上がる彼。
下手に寝台と印刷物で埋め尽くされた壁。それを確認してトランクを手に旅立とうとしたり、これはふたりの間に流れる時間を表現しているのか。
ラスト近くで受け取った赤い手紙からハラハラと赤い砕片が落ちて・・・
とてもナラティブ。抽象的な関係性を表現した「フラジル・ヴェッセル」とはまた違ったアプローチ。
アンジェイ・ワイダの映画を見ているような感触あり。どことなく東欧的な一人芝居、でした。
■5)「人魚姫」第1幕より
振付:J.ノイマイヤー 音楽:L.アウアーバッハ
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ
実はハンブルグ・バレエの全幕公演を見ていないので初見なのです。公演当時、衝撃をもって迎えられた話題作ゆえ、部分でも楽しみにしていました。
アッツォー二は当時も絶賛されていましたが、リアブコは日本ではこの作品お初だそう。
海底に沈んだ王子を人魚姫が見つけて助けるシーン。
紺のラインと胸元の金のエンブレムが入ったシンプルなグレーのレトロ水着の王子。
人魚姫は大きく後方で三つ編みを巻きつけたアップスタイルの金髪に、白塗りで青い血管?を浮き出させたちょっとグロテスクなメイク。タックを取ってブルーグリーンのグラデーションになったビスチェに狂言の衣装のような長く裾を引きずったターコイズブルーの袴?姿。
神秘的な音楽に、二人の海底にいることがわかる独得の動き。
普通は人間を食べてしまう肉食の人魚が王子を好きになってしまう。二人の踊りは王子にとっては夢の中の出来事・・・
この後、お話通り、陸に上がる人魚姫は、この海底にいたときのままのグロテスクな存在として、脚を得る・・・という設定。
心身ともに切ない痛みの権化のような人魚姫、という難役を演じきるシルヴィアが凄い・・・
彼女にとっては踊りという領域において不可能と言う言葉は存在しないのかも。
リアブコの王子も素晴らしい。
■6)ローラン・プティの「アルルの女」よりパ・ド・ドゥ
振付:R.プティ 音楽:G.ビゼー
エレオノラ・アバニャート バンジャマン・ペッシュ
フルヴァージョンで、観ることができたのが嬉しい。
・・・のですが、あのファランドールでどんどんフレデリが熱を帯び狂気にとらわれていくところ・・・の表現が、うーん、バンジャマンはとても頑張っていたのですが、つい映像のルグリ先生を思い出してしまうと今一つ。
エレオノラは情感もあって素晴らしかったです。
観客の反応はとてもとても良かったので、わたくしの感想はバンジャマンに対して厳しすぎるのかもしれません。
なんだかリアブコの端正な中に多くを込める密度の濃いパのあとでバンジャマンを見るとどうにも雑に見えてしまって・・・^^;
どうも今回、パリ・オペエトワールに厳しい目になってしまうのはなぜでしょう?
とりあえず第一部終了。三銃士はまた明日!
はい、お待ちかね(^^?)「三銃士」です。
■「三銃士」全一幕≪世界初演≫(振付・衣装・舞台装置:P.ラコット、音楽:M.ルグラン)
ミレディー(謎の女): マリ=アニエス・ジロ、
リシュリュー(枢機卿): バンジャマン・ペッシュ
コンスタンス(侍女): エフゲーニヤ・オブラスツォーワ
ダルタニアン: マチアス・エイマン
アンヌ王妃: ドロテ・ジルベール
ルイ13世(国王): マチュー・ガニオ
三銃士 アトス: イリ・ブベニチェク
ポルトス: アレクサンドル・リアブコ
アラミス: ジョシュア・オファルト
枢機卿銃士: キャスパー・ヘス、鈴木彰紀、平牧仁、大石治人、三好祐輝、野口俊丞
街の女: オステアー紗良
冒頭、三銃士揃い踏み、のご登場。
がっちりした勇者男っぽいアトスがイリ、衣装は赤黒白の上着と羽飾りのついた帽子に白タイツ。
銃士とダルタニアンは皆、衣装は基本同じ構成で、色の組み合わせが異なります。
知的な2枚目アラミスはオファルトでブラウンと白。
陽気な酒豪でムードメーカー、ポルトスはリアブコでダークグリーンと白。
サーシャはアラミスのほうがイメージですが・・・まぁ、芸域の幅広さを買われたのでしょう(笑)
楽しそうに登場の踊りを踊って、馬ではけます。
ダルタニアン登場。グレー地に赤と黒のアップリケの衣装。
故郷の家からパリを目指すのですが、バックに田園風景の映像が流れる中、舞台中央でサイドを見せて足を大きく回す振り。走っている、という表現ですがなんだかユーモラス。
下手から質素なお部屋一式が船のように流れてきます。そこにいるのは赤いアップリケがフォークロアっぽい、白いドレスの可愛いコンスタンス。ダルタニアンは恋に落ち、コンスタンスは彼にハンカチーフを渡します。
パリに到着。背景が都会?な写真に変わっているのでそれとわかりますがなんとも紙芝居的な場面転換。
あえてのこういうレトロな演出なのでしょうか(笑)
ダルタニアンと三銃士の出会い。
ダルタニアンが銃士の仕草を真似ていると、それぞれひとりずつからなぜか怒りを買ってしまう展開となり、決闘だ!とばかりに手袋を投げられてしまいます。いきなり決闘。ダル、ピンチ。
そこに突然現れる怪しい団体。銃士の天敵?枢機卿側の刺客です。
おい、おまえも仲間だ、一緒に戦え。うーん、選りすぐりのダンサーたちのチャンバラシーン、なかなか観られるものではありません^^
ダルタニアンがつかまって、投獄の憂き目に・・・。
枢機卿暗殺を狙って?潜んでいる謎の女。
潜んでいるわりには、フューシャピンクのアクセントとラインストーンが艶やかな黒いロングドレスが目立ちますが(笑)
ミレディーはジロ姐さん。舞台の上ではミステリアスな運命の女の存在感がバッチリの彼女にはピッタリ。
枢機卿はペッシュ。コンプレックスと野心の塊のくえない奴、という複雑な役どころに彼はピッタリ。
ミレディは枢機卿のために働かされることになり、手紙?を預かります。
ダルタニアンの処刑の場。首吊台の向こうに三角帽子の死刑執行人が3人・・帽子をとったらなんと!
三銃士!
救出成功、祝いの宴。
さてと、余興だ、とばかり、一人ずつ、超絶技巧を散りばめた短いソロを披露します。
目の覚めるようなリアブコのピルエット。
マチアスの異常な高さのジャンプ。
オファルトのきれきれのジャンプ。
他の3人は想定内でしたが、オファルトっていつのまにこんなレベルのダンサーに??
全てのパに無駄がなく、絶妙にコントロールされていて動きが洗練されていて素晴らしい。
軽い余興のシーンなのに、これはもう、丁々発止のテクニックお披露目合戦。
イリが素でノリノリでした(笑)
さて、宮廷では・・・。
若くて美貌のルイ13世。黒白の洗練されたコスチュームにはフリルの襟と白いマントも完備されていて、マチューの麗しさを存分に堪能できます^^
国王は野心家の枢機卿と対立。
アンヌ王妃はドロテ。国王と同じイメージの華麗な黒白のコスチュームに身を包み、横恋慕する枢機卿と国王の間で苦しむパ・ド・トロワでの彼女の表情が美しい・・・。
ドロテって変顔も辞さない優秀なコメディエンヌの一面もありますが、基本とっても華やかな美人なので、憂いの表情もまた良し。
王妃も実権も奪おうとする枢機卿に対抗すべく、懐刀である三銃士の到着を待つルイ13世。
その三銃士は野営の準備をしています。
そこにやってきたのは男装に身をやつした王妃の侍女、コンスタンス。
白いカフスと襟が黒いピッタリとしたベルベットの胴着に映えて可愛らしいオブラスツォーワ。
再会を喜ぶ若い二人。そこに3人が絡んでのさまざまなフォーメーションでの踊り。
ここはオブラスツォーワに宛書きしたせいか、クラシックの眠りの森の美女の求婚者たちとの踊りのよう。
キスをしようとする二人を3人が同時に大きな羽飾りのついた帽子で隠してあげる、などの演出も微笑ましい。
では、休みましょう。
マントを敷いて、ダルタニアンはコンスタンスと、三銃士はそれぞれ、休むことにします。
ミレディが怪しく登場。黒いロングドレスに赤と黒の刺繍の入ったフラメンコで使うマントンを肩にかけて走り込み、ジプシーの踊りを激しく踊って、そして去っていきます・・・マントンを残して。
気配を察したダルタニアンが皆を起こします。誰かがここに来た様子。
立ち去らなくては。
三銃士はコンスタンスの護衛を。ダルタニアンは彼らとはぐれてしまいます。
ミレディのたくらみが当たり、ダルを拉致。
3人のダンサー?が布をかぶって馬となり、ミレディーがその背にダルを載せて、自分はその馬に乗って連れていく・・・というつもり。実際にはダルは目を閉じて、馬の背に片手を置いて寄り添い、一緒にトコトコ歩いていきます(笑)
ミレディーの隠れ家。
真っ赤なドレスのミレディーがダルタニアンを誘惑。見事に陥落。
そこに枢機卿に拉致されたコンスタンスが登場。
毒殺されて息絶えるコンスタンス。三銃士は帽子を取ってその死を悼みます。
そして銃士たちは今度はミレディに反撃。
これまでのことを白状させてあの手紙も回収。ミレディは息を引き取ります。
王宮では、しつこい枢機卿に手を焼く王妃。王も困惑。
三銃士参上!ダルも一緒です。
これをご覧ください。証拠の手紙です。
リシュリュー枢機卿の謀反を証明することが出来、その功を認められて、
ダルタニアンも晴れて銃士の仲間入り。
さぁて、これからは四銃士だ!
4人で上手から順に肩を組んでいき、最後に一番下手のオファルトが隣を見ると誰もいない・・という可愛いギャグも。
頭上からハラハラと舞うコンフェッティ。
これは連日の演出なのか最終日ゆえのスペシャルか。
ハッピーエンド。
構成にはまだまだ工夫の余地がありそうですが、親しみ深い絵巻物を超豪華なキャストで!
という好企画。ラコット氏に依頼することも含めてのマリ=アニエスの提案だったそうですが、さすが。
皆が楽しんで演じているのが伝わる作品でした。
最後のカーテンコールは延々と続く、(そして全てのダンサーに差がつくことなく、盛大に贈られていました)拍手の合間を縫って、「三銃士」のメイキング写真を背景にスライドショー&シャンソンのBGMで披露。
お疲れさまでした!
「三銃士」参加メンバー以外は、第一部の演目の衣装・メイクのままのカーテンコールでしたので、アッツォー二はポルトスなリアブコと手に手をとって人魚姫・・・という不思議な現象が起こりましたが、改めて、今回の白眉はこの二人であったことだなぁと思ったことでした