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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

マニュエル・ルグリの新しき世界Ⅱ Aプロ ② 

2011-07-15 05:33:52 | BALLET
2011年7月13日(水)  ゆうぽうとホールにて

「マニュエル・ルグリの新しき世界Ⅱ」 Aプロ 初日の感想です。



今回、長く籍をおいているNBSの「バレエの祭典」会員として初めて1列目の席が割り当てられました
音楽はほとんどが録音なのですが、オーケストラピットの空間分の距離はあるので、足元も観切れることがなく、
存分に細部に至るまで(カーテンコールでは肌の調子まで・・・^^;)肉眼で確認することが出来、
なかなか面白いViewでした^^

個々の作品について・・・。

■「ホワイト・シャドウ」
振付:パトリック・ド・バナ 音楽:アルマン・アマー

「マニュエル・ルグリの新しき世界Ⅰ」のときに、ルグリと東京バレエ団のコラボレーションのために、宛書きされたオリジナル作品が、今回再演の運びとなったのは実に喜ばしいことだと思います。
初演CASTが揃っての再演、ということで、表現が深化して、前回違和感を感じたところには修正が入ったのか、今回は、作品自体が、より、磨きあげられていると感じました。

吉岡美佳さんが演じる苦悩する女性(バレエというより舞踏のような動き)が0地点とされていて、
対峙するのが、ルグリ&西村さん、ド・バナ&上野さん。
それに松下さんをセンターとする5人の力強い男性群舞、ブルーからグリーンのフラメンコのようなフリルの衣装をつけた3人の女性、周辺部に長く地面にとどくほどに延長された袖のシンプルなグレーベージュのプルオーバーとパンツをつけた群舞、という構成。

抽象的なモダン作品で、特にそれぞれのダンサーが具体的な何かを表しているわけではない、とされており、解釈は観る側に委ねられているのですが、なんとなく、今回の震災、そして原発事故で傷ついた日本、そしてその自然の状況と、未来を示すメッセージが読み取れて、観ていてなんとも不思議な感覚に襲われました。
今、この時期に、あえてルグリがこの作品を日本で演じる意味、という、時と場と人がピタリと運命づけられた瞬間に立ち会っているような・・・。

なんといっても圧倒的なのは、ルグリの流麗な、ブレスの部分を感じさせない端正な踊りの美しさ。
今は芸監としての仕事が日々のメインで、ダンサー本職ではないことから、多少は変化があるのでは、と覚悟していたのですが、全くの杞憂でしたね。
ド・バナさんが、うつむいた顔を音楽のアクセントでパッと上げたり、といった、演劇的な要素で踊りにアクセントを付けて行くのに対し、ルグリ先生の踊りは、例えば頭の位置は基本の場所で、常にスッとやや上を見た状態に固定されている、ある意味大げさなアクセントを敢えて排除している禁欲的な表現であるにも関わらず、後ろに振り上げた脚の動きが思いがけず華やかだったり、ド・バナさんとはまた違った場所に踊りのクライマックスが来る感じ。
それぞれにしっかりと踊りが自分の身体に入ったうえで表現している2人の個性が如実に感じられて、非常にスリリングでした。
衣装の着こなしも、素肌に黒革のベストと黒い袴で場面によってはベストは着用せず、袴のみ、(確か初演では黒いパンツだったような・・・? 袴、素敵でした!)なのですが、ベストをルグリ先生は前ボタンをピタリと止めて、ド・バナさんは全開でタトゥーを敢えて見せて、と。

前回はルグリ先生の相手役に抜擢された西村さんに注目していたのですが、今回、上野水香ちゃんの身体の表現力に釘付けに。
日本人離れした、という言葉をすでに飛び越え、バレエダンサーとして非常に恵まれた特別なラインを持った有名な脚だけでなく、彼女の魅力は背中にもあると今回再認識。
肩甲骨からウエストにかけて、とても立体的なんですよね・・・。すっと平らな日本人女性の背中、丸みがあって体幹がしっかりしている欧米人女性の背中とも違い、鍛えられた男性のように肩甲骨からウエストにかけてクッと入り込んでいて、それでいて、男性とはちがって、肩に筋肉の盛り上がりはなく、長く優美な首と小さな頭にスッとつながっているという・・・。
その身体で作り上げるポーズのひとつひとつのフォルムの美しさに改めて、この人のダンサーとしての華に圧倒されました。
クラシック・バレエのヒロインですと、演技にとらわれすぎるのか、動きのエレガントさや流麗さに難を感じて居心地悪くなることすらある上野さんの踊りですが、こういったコンテンポラリー系では、彼女のもつ美質がいかんなく発揮されてとても良いなぁと改めて感心しました。
女性2人の衣装はタンクトップを延長したようなシンプルなダークカラーのロングドレス。水香ちゃんは紫、西村さんはブロンズのラメ入りで深いサイドスリット。後ろで一本に編み込んだ三つ編みのロングヘアーに前髪はボブでスタイリッシュです。

フリルのスカートがフラメンコ衣装のような女性のトロワ、前回は、モダンな舞台に突然お姫様ルックか?と違和感を感じたパートでしたが、今回は高木さんがいい意味で土臭い味を出して地に足のついた感じの踊りを見せてくれたので、この衣装がベテランフラメンコダンサーのラテンで土着的な味を彷彿とされる装置と感じられ、グリーン、深いブルー、ターコイズの色合いが、水や木々といった自然を暗示させるものと素直に受け取れた今回でした。

それぞれに少しずつデザインの違う黒革ベストとパンツの5人の男性の群舞は、バレエというよりもショーダンサーの趣。と思えるほど、「カッコいい」振り付けで(笑)
若手の踊れるメンバーで揃えてきているので全体に良かったのですが、やはりセンターを務める松下さんは別格の趣。
疾風怒涛の激しい動きの中にもタメと重みがあり、厚みのある表現で一際目を惹くのはある意味想定内でしたが、クールビューティ―担当の(笑)長瀬さん(→と、観ている間は思い込んでいましたが、実は岡崎さんでした!!お二人に失礼してしまいました^^;)が、今回、いつものナルシスティックな味から一皮剥けた感じがあり、目立っていました。この二人の個性の違いを同時に視界に入れるのが楽しかったです^^
長瀬岡崎さんはひとり、ワンショルダーのベストで衣装からしてちょっと色っぽいんですよね^^
それにいつもの長めの前髪ではなく、マチューのような上品な短髪にしていてそれが似合っていました^^

改めて観て、これはやっぱりいい作品だなぁと思ったことでしたが、例えば他のバレエ団でも上演出来るか、といえば・・・。
面白いかも!
ただ、1人だけ動かせない人がいますが。
吉岡美佳さん。
やや透け感のあるダークグレーのラメストレッチのタートルネックに長袖のロングドレス。腰のあたりでラップスカートのようになっていてスリットが入ってはいるものの禁欲的な衣装にロングボブのダウンヘア。
ほとんど出ずっぱりで苦悩の表現をし続ける・・・
それはジュリエット・グレコを彷彿とさせるようなひりひりとした感情の吐露でありつつも、吉岡さんの持ち味である透明感、いい意味での生活感のなさがプラスに作用して、絶妙な存在感、でした。
吉岡さんは東バの中でも特にベテランのプリンシパルで、ほっそりとした長身と繊細な美少女のような風貌が魅力的なダンサー。ロマンティックバレエの主役がはまるタイプでありながら、意外とドンキホーテのジプシー女のソロなどではパセティックな感情の爆発を見せることも出来る一面が面白いなぁと。
これは、ホントにハマり役ですね。
この作品を他のバレエ団で上演する際には洩れなく吉岡さんが客演されると良いと思います
(蛇足ですが、吉岡さん、いつも80年代に青春を過ごした人特有の薄く降ろした前髪が気になっていたのですが、今回その前髪に程よいボリューム感が観られて、担当美容師さんGoodJob!と密かにこぶしを握ったわたくしでした・・


■「海 賊」
振付:マリウス・プティパ 音楽:リッカルド・ドリゴ
リュドミラ・コノヴァロワ、デニス・チェリェヴィチコ

ウィーンのダンサーご紹介コーナー。
数々の名ダンサーで観てきたこの演目。この場面。
今更若手で観てもね~とまったりモードで、上品で良いのでは?と眺めていたら、チェリェヴィチコ、いきなりファイブフォーティ連続技など勝負をかけてきてびっくり!
薄味の金髪少年ですが、やるときはやります!な人でした^^
コノヴァロワはライトピンク&ラヴェンダーの衣装で、上品、手堅い踊りのメドゥ―ラ。


■「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン 音楽:ジュール・マスネ
バルボラ・コホウトコヴァ、フリーデマン・フォーゲル

この2人って??と観る前にはかなりドキドキ(心配で^^;)していたのですが、コホウトコヴァ、きれいでした!(そこ?!)
いや、2000年のバレフェスで彼女を見たときには若手ながらも物堅いテクニックのしっかりとした金髪の良いクラシックダンサー、としての認識が、3年後に来日した時に急成長していて(体幹の太さが^^;)パートナーの男性ダンサーが細身の人だっただけに強烈な印象が・・・
すっかり戻されていました!しかもあのテクニックの確かさにベテランならではの表現力も加わり、素敵なマノン。
女性って、年齢じゃないんだなぁ・・と勇気をもらいました^^;。
フリーデマンは、この人現代の青年、というところが持ち味&魅力なので、幕が開いて机で手紙を書く貴族のおぼっちゃま・・・のはずが、このキノコ頭に小さなテ―ルをつけた不思議なデグリューって誰だっけ?@@と一瞬思ってしまいましたが、笑顔でマノンに振りむくところからは素敵な恋人で・・・。あぁ、フォーゲル君だったのね、と。
2人とも、顔だけでなく、踊りそのものも表情豊かでとても良かったです


■「アレポ」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:ユーグ・ル・バル
ミハイル・ソスノフスキー

ウィーンのソリスト、ソスノフスキー。美男ですね。そしてテクニックもしっかりしている。
赤いワンショルダーのユニタードです。
ベジャールバレエ団以外のダンサーが踊るベジャール作品を観ると、振りのそこここにベジャール独得のポーズ、動きがあって、あぁ、ベジャール作品だ、と思うとともに、ちょっとしたアクセントやテンポの違いに、随分と違ってしまうものなのだなぁ・・・と改めて思ったり。
そう考えると、舞台芸術の継承ってとてつもなく難しいことなのだなぁと改めて思いました。
直接薫陶を受けた世代が伝えることのできる内はまだしも、その後は・・・。
古典としてあたりまえのように観ているプティパ作品なども本人が観たら全然違う!と思ったりするのかしら・・と、しっかりと踊っているソスノフスキーには申し訳ないのですが、観ながら色々と考えさせられてしまいました。

■「ラ・シルフィード」第2幕 より
振付:ピエール・ラコット(タリオーニ版に基づく) 音楽:ジャン=マドレーヌ・シュナイツホーファー
ニーナ・ポラコワ、木本全優
東京バレエ団

ウィーンのダンサーご紹介コーナー。東バのシルフィード付き。
ニーナ・ポラコワ、一瞬エリザベット・プラテル様かと思った面長で目元の彫の深い美人。でも、シルフィードとして踊り始めると、眉を優しく下げて、愛きょうのある笑顔で頬骨が高くなると、・・・小林幸子になってびっくり。(スミマセン)
それからはどうしても、美人な小林幸子にしか見えなくて・・・^^;
あ、でも、踊りは軽やかで、ポワントの音もせず、ロマンティックチュチュのあしらいも上手で(跳躍するときにスカートの表面をスッと撫でてシフォンの重なりをフワッと持ちあげて浮遊感を出していました)シルフとしてはとても良かったかと。
木元さんは(名前の読み方が難しいのですが、Masayuくんだそうです)田舎の中学生のような(こら)お顔立ちと小顔で手足の長いきれいなプロポーションのダンサー。とにかく身体のラインがキレイで、ジェームスの足さばきもまあまぁこなしていました。
今年、準ソリストに昇進したばかりの勢いのある若手。
ルグリ芸監のもと、これからも成長していかれることでしょう。
海外で活躍する日本人ダンサーをこういう機会に観られるのは嬉しいですね。

パ・ド・トロワ、田中さん、吉川さん、乾さんと、わたくしの好きな並び。なんと最年少ポジの吉川さんがセンターでちょっとびっくり。吉川留衣さんは入団当時から、井脇さんにちょっと似ている美女として注目されていて、小顔でほっそりとした、バレリーナらしいバレリーナさん。大事に育てられている感じがありましたが、これから上げてくるのかしら?ちょっと楽しみでもあります



■「白鳥の湖」より"黒鳥のパ・ド・ドゥ"
振付:マリウス・プティパ/ルドルフ・ヌレエフ 音楽:P.I. チャイコフスキー
リュドミラ・コノヴァロワ、ドミトリー・グダノフ、ミハイル・ソスノフスキー

ヌレエフ版の黒鳥のトロワ、大好きです。演劇的色彩が深くてロットバルトが暗躍して・・・。
忘れられないのが、マリ・アニエス・ジローがオディール、ロベルト・ボッレが王子、リオネル・ドラノエのロットバルト。
大きくてゴージャスなマリ・アニエスが、まだお尻もぷりぷりして純真そうで美しい若きボッレをいともたやすく誘惑。
その周囲で羽のようにマントをバッサバッサと振りながらやたらと暗躍するドラノエ。ドラノエとマリ・アニエスの悪者通しの密談。全く気付かず目に星がキラキラして愛を誓おうとするボッレ・・・。
いや、あれは観ものでした!!

さて、今回は(笑)。
コノヴァロワ、妍高い感じが出ていて、フェッテも安定。
グダノフ、お年は召していても、気弱で上品なボリショイの王子っぷりはさすが・・・と思ったら、ソロでの不調に驚かされ・・・。
まぁ、涼しいモスクワから酷暑の東京で初めての相手役で・・・急な代役で・・・。と条件が悪かったかも。
後日には盛り返すことでしょう!
ソスノフスキーはとても良かったです。
腕に巻きつけるマントさばきも巧みで。
ただ、マントがあると、タイツの上にハイレグのレオタードを着ているようなデザインの衣装の違和感が半端なく・・・。^^;
全体がダークグリーンなのですが、バランスが微妙で・・・。
ソロを踊るときにマントをはずすと、それはそれで変ではないのですが。
素敵なダンサーだと思うので、もっと違う衣装の役で、改めて観てみたいと思いました^^;

■「ファンシー・グッズ」
振付:マルコ・ゲッケ 音楽:サラ・ヴォーン
フリーデマン・フォーゲル
東京バレエ団

ゲッケはシュツットガルトの振付家で、この作品はフォーゲルくんへの宛書きなのですね。
JAZZのメドレーに振付たコンテンポラリー。痙攣するような動き、背中で語らせる部分の多用など、ゲッケ作品では他にも観たかも・・とはいえ、やはり、こういうソロを楽しく見せるのはフォーゲル君ならではで、彼の等身大で現代的な魅力がいかんなく発揮されていたと思います。
ヘアスタイルも現代の若者風ですが、黒パンツのみの衣装も、やや腰穿き気味でフィッティングが完璧(背中のラインとパンツのウエストラインの流れがきれい)で、こういうところに隙がないのが、シンプルな衣装ほど大事なところ。
ジャストウエストでタックがあるような太めのパンツだったりすると与える印象が変わるかも。
この作品、途中でローズピンクの羽根扇を持った5(6?)人の黒子が出てくるのが、ジジ・ジャンメールのショーを連想させたのですが、丁度、10日にローラン・プティの訃報が届いた直後で観たせいか、プティへのオマージュのように思えたことでした・・・

■「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・クランコ 音楽:P.I. チャイコフスキー
マリア・アイシュヴァルト、マニュエル・ルグリ

ルグリが熱望して実現した「オネーギン」の初演の相手役がアイシュヴァルトだったそう。
最後の手紙のシーンは、全幕でも、GALAでも何度も観ているので、この音楽が流れるだけでもう、胸がいっぱいになりますね・・・;;
小柄ですがシックなブラウンの衣装にセンターパーツで耳隠しのアップがタチアナの大人の魅力を高めていて、髭にタキシード風の衣装のルグリとの並びは本当に素敵。
前後なくいきなりのクライマックスに圧倒されます。
何度もひざまずき愛を乞うオネーギン、引き裂かれるような強い衝動に身を任せたくなる自分を律するタチアナ・・・
ルディエールとの魂の名演が、ルグリのオネーギンのBEST ACTだと思っていますが、アイシュヴァルトもさすがの一言。
この演目の完成度の高さで、急拵の今回の公演のレベルの不揃いさが一気に帳消しにされたような・・・^^;

カーテンコールでは、NBSの御約束、スーツ姿の女性2人が大きなフラワーバスケットを運んでセンターの床置きにした後、ルグリ先生が舞台袖で、一本ずつの個包装にしたバラを、素早く下手から順に出演者全員に手渡しをし、最後皆がそれを手にした状態で手をつないでの挨拶に。
花をもらった男性ダンサーは微妙な心持でいらしたかと想像しましたが、出演してくれた皆への感謝の気持ちを表したかったのでしょう。ほのぼのとした温かみのある公演でした