《ディアナ・ヴィシニョーワ 華麗なる世界》Bプロ
8月22日(木)19:00~
会場は五反田のゆうぽうとホールです。6列目のセンターと言う良席を配席いただき、NBSに感謝。
この日は上野水香さんがゲストダンサーとして参加するだけでなく、「カルメン」で東京バレエ団のダンサーが活躍することもあり松野乃知くんなど、東バダンサーをちらほらお見掛けしました。

―― Prologue ――
「ドリーブ組曲」
振付:ジョゼ・マルティネス 音楽:レオ・ドリーブ
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
「レダと白鳥」
振付:ローラン・プティ 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
上野水香、イーゴリ・コルプ
「タランテラ」
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
「精霊の踊り」
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
デヴィッド・ホールバーグ
「真夏の夜の夢」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
―休 憩―
「カルメン」
振付:アルベルト・アロンソ 音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス、イーゴリ・コルプ
後藤晴雄、奈良春夏、東京バレエ団
―休 憩―
「眠れる森の美女」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ/マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
「チーク・トゥ・チーク」
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン
上野水香、ルイジ・ボニーノ
「ナウ・アンド・ゼン」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:モーリス・ラヴェル
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス
ピアノ演奏:菊池洋子
―― Finale ――
【プロローグ、フィナーレは、この公演のためにマルセロ・ゴメスが特別に振付けたものです】
※音楽は特別録音によるテープを使用します。(「ダイアローグ」のみピアノ伴奏)
◆上演時間◆
第1部 19:00 - 19:55 (休憩 15分)
第2部 20:10 - 20:50 (休憩 15分)
第3部 21:05 - 22:00
平日で五反田、という場所を考慮しての19:00開演はありがたい配慮ですが、
この日が公演全体の千秋楽ということもあってか、拍手が多く第3部開演時間の時点ですでに15分の遅れが・・・。
カーテンコールも含めての終了時間が22:30とかなり遅い時刻の終演に。
ボリュームたっぷりのGALAではありました。
個々に感想を・・・。
《第一部》
■「ドリーブ組曲」
振付:ジョゼ・マルティネス 音楽:レオ・ドリーブ
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
ジョゼとアニエスのための演目・・・のようなつもりでいましたが、もうこれはオペラ座ダンサーのGALA演目として確立した作品になっているのですね。。。
そう言えば小柄なミリアム(ウルドブラハム)がこのロイヤルブルーと白のお衣装を着たら、長身のアニエスと全く違った雰囲気に見えたことなどを思い出しました。
マチアスはこの白い大きな襟(開襟)に短めのブルー系ストライプのジャケットの衣装がお似合い。
メラニーはちょっと地味めにみえましたが・・・。
ジョゼ&アニエスのときには美しくて古典的なGALAピースに見えましたが、改めて別のダンサーで観ると、なかなかに技巧をこらした作品であるとわかって面白かったです。
回転のさなかに90度ずつ顔をつけてアクセントにするテクニックなども珍しく、くっきりとテクニックを見せるマチアスの芸風もあるのかな、と^^;
このお二人は、この日異常な蒸し暑さだったこともあり、もしかして夏バテ?ちょっと特に後半のメラニーがつらそうに感じてしまいました。
■「レダと白鳥」
振付:ローラン・プティ 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
上野水香、イーゴリ・コルプ
楽しみにしていたコルプ様^^
さすが、の白鳥っぷりで観ているだけでもワクワクします。
長めの前髪をオールバックにして白いタイツに上半身はさらして、大きく腕を振り上げて反る姿勢で、優雅な薄もののギリシャ風ドレスの上野さんのレダを見染めるゼウス=白鳥を。堂々たる神であって白鳥であるという存在を彼独特のケレン味のある演技でぶれない世界観を作り上げ、カーテンコールでも、その存在として生き続けるコルプを堪能しました。
上野さんは健闘していたと思いますが、彼女のオリエンタルな魅力を構成する要素であるべき前髪が、一時の斎藤さん、吉岡さんのように若々しさを見せようとして薄めに下ろしていて、却って邪魔になっているような・・・。
あと欲を言えば、もう少しムーブメントが滑らかだと更に美しいバランスに見えたのでは・・・と思いました。
■「タランテラ」
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
東京の暑さはこの若い2人にとってはなんということもないのでしょうね
そして、デ・ルースの故障(Aプロ2演目を1演目に変更・・・ドンキホーテは回避)も、この日のパフォーマンスからは感じ取れず、タンバリンを使ったこのアップテンポな演目を2人して茶目っ気たっぷりに、魅力いっぱいに演じてくれました。
それにしても、タンバリンの音もピシッと決まるし、余裕綽々で音楽にピタッピタッと合わせてくるこの2人、今まで全くノ―チェックだったのに・・と見るとNYシティバレエ所属、バランシンがお手の物、というのが納得でした^^
あまりに踊りそのものの感じが良いのでホアキンが背が低くて立派なお顔立ちのお顔が大きく見えてしまうことなど、全く気にならなくなってきました^^
黒いトレアドルパンツに白シャツ黄色のサッシュの男性、海老茶のビロードの胴着に白いブラウス、クリーム色のふんわりスカートの女性・・という簡素な衣装も、2人の若々しさを引き立てているようにすら思えます。
■「精霊の踊り」
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
デヴィッド・ホールバーグ
アシュトンがアンソニー・ダウエルのために振りつけたソロ。
現役時代のダウエルはそれはそれはノーブルなダンサーで、その彼への宛書きを金髪長身のホールバーグが。
舞台の中央に据えられたのは暗い空を背景にした階段。
その上に、立つホールバーグは「白鳥」のコルプ同様、白いタイツに上半身をさらした姿で、まるで生けるギリシア彫刻のよう
音楽がグルックの「オルフェオとエウリディーチェ」の抜粋で、とても異界感に満ちた幻想的な空間が生み出され、あぁ、ルーブル美術館の「サモトラケのニケ」だ・・・という想念に襲われた演目。
男性の抽象的なソロ作品って観念的な閉塞感にいつしか睡魔が・・という危険がある場合も多いのですが(わたくしだけ?^^;)これは、ちょっと、かなり心奪われる時間でした。
この日の彼はこの一作品しか踊らず、後はゴメス氏と2人でヴィシニョ―ワ座長のお付きとして登場・・・・。
ちょっと勿体ないですねxxx
■「真夏の夜の夢」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
おやっと思わせる華やいだお衣装の2人。
ブシェは白い薄物レース地のドレス、ボァディンもおひげをきれいにそり上げて、アイボリーと金の襟もとのジャボと袖口のたっぷりフリルのレースも優雅な宮廷服姿。
いつもユニタ―ドやリアルな生活感を感じさせる散文的な衣装が多いノイマイヤーダンサーにしては、意外なほどのクラシカルな装い。踊りそのものも、全幕のクラシックバレエのグラン・パ・ド・ドゥのよう。
揃って長身で、テクニックのきちんとした2人の繰り広げる華麗な世界はとても魅力的。
珍しいものを見せていただき、演目を選んだのであろうヴィシニョ―ワに感謝!
《第2部》
■「カルメン」
振付:アルベルト・アロンソ 音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス、イーゴリ・コルプ
後藤晴雄、奈良春夏、東京バレエ団

アロンソ版のカルメンは東バのレパートリーのため、何度も観ていますが、今日のCASTはBESTのひとつですね^^(もう一つはシアラヴォラのカルメンにマッシモ・ムッルのホセで観た2005年の公演)
出会いの場面では赤、ホセに刺されるくだりでは黒の胸元深く切れ込んだレースにフリンジがふんだんにあしらわれたミニのお衣装でお団子をサイドに金の髪飾りでまとめたヴィシニョ―ワのカルメンは匂い立つ女らしさ・・・というよりは、自分の力の使い方を心得たパワーを自在に使って男を支配する世界の中心的な存在。
ゴメスのホセはひたすらまじめな男がそんな手練手管を使える女の魅力にハマって破滅に向かう一途なラテン男。
グレーの軍服・軍帽のON,白シャツ黒パンツのOFF、いずれも禁欲的でこのホセの役作りにぴったり。
後藤さんが黒に金の装飾の軍隊における上司役。ゴメスと同じ振りで踊ってまったく引けをとらない緊迫感とスタイルなのに感心。
東バの男性陣の群舞は何度も再演されている作品ということもあり、日本人特有のきびきびした規律感あふれる動きで背景に徹していて観ていて気持ちが良い。
顔を2色に塗り分けた女性ソリスト2人の1人は吉川留衣ちゃん。あと一人がわからないが、より力強い踊りで、だれだか知りたい・・・。
コルプのエスカミ―リョは白地に黒の刺繍の施されたマタド―ルスタイルがとてもお似合い。
「運命=死」を演じる、顔も含めて全身黒タイツで覆われた女性は奈良春夏さん。
今までで一番シャープに絞られたスタイルの奈良さんの「運命」と牛の角のポーズで対抗するコルプのエスカミ―リョはともにスタイリッシュながらも独特のタメがあって、強くて艶やかでポワントも反りも自在なヴィシニョ―ワのカルメンとのバランスが合っていて実に良い舞台。
思うに、ヴィシニョ―ワは身体的には出来ないことはないくらい万能で、演技も過剰なくらいしっかりと作ってくる渾身の舞台人だけれども、役柄をすごく選ぶタイプ。
合わない役も、渾身の力で自分に引き寄せて力技で演じきるのが、時々とても不思議なものを観ている気分にさせられて・・・。そこがわたくしが手放しでヴィシニョ―ワ・ファンになれないところかも・・と思いつつも、この「カルメン」のように役者が揃うとやはり素晴らしい演者でダンサーであると感服致します
《第3部》
■「眠れる森の美女」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ/マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
夏バテしているように見えた2人、リベンジなるか?
とてもきれいでカワイイお衣装。さすがはオペラ座。マチアスがボアディンとほぼかぶる「結婚式の王子」衣装。
ユレルのオーロラ姫のお衣装が、デコルテがきれいに開いて、肘が隠れるぴったりした袖口からこぼれるレース、ハリのあるアイボリーサテンのクラシックチュチュに丁寧に刺繍の施されたピンクのバラがロココスタイル。ブシェのシンプルなハンブルク仕様の衣装とは衣装部の力の入れようが違う!と感じさせるOPERA座仕様でステキ。
ユレルはさすがの経験値からか、なんとか無難にまとめてきた・・・という印象。
端正できれいではありました。
マチアスはやはりこの人は持って生まれた才能があるのだなぁと思わせる、質の高いジャンプに伸びやかで高い位置でのマネージュ。
ただ、演目か2人の相性か、コンディションか・・・他が素晴らしい!というのもあるのですが、今一つの盛り上がりに欠ける感じが・・・
■「チーク・トゥ・チーク」
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン
上野水香、ルイジ・ボニーノ
良い上野水香ちゃん。
そう言えば彼女は牧時代から、長身美脚でプティのお気に入りダンサーだったのよね・・と思い出した。
1mほどのしっかりとしたテーブルがセンターに置かれ、その上と舞台を自在に行き来してタキシード姿のボニ―ノさんと黒レースにフリンジのカクテルドレスにハイヒールパンプスの水香ちゃんが組んで洒脱に踊る楽しい演目・・・。
ではあり、コケティッシュな笑顔で踊るスタイルの良い水香ちゃんは大変にチャーミングではあったのですが・・・・
プティの世界かというと、もっと大人な洒落ッ気が出てくると・・・と求めてしまうのが観客のサガ。
このレベルのGALAだから、こういうライトな演目でも、それなりに完成された世界観が欲しい。
■「ナウ・アンド・ゼン」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:モーリス・ラヴェル
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
いつもの・・・というか、スタンダードなコンテンポラリーノイマイヤー作品を踊るブシェとボァディン。
これはこれで、やはり見せるダンサーだなと。
ボァディンは赤のボクサーショーツラインのパンツに肩ひものついたような赤いレオタード、ブシェは美脚がくっきりと浮き出るユニタード。
Aプロ「ジュエルズ」の「ダイヤモンド」ではいささかギョッとさせられた(笑)語る脚が、ここではその存在感を伸びやかに示していて実に雄弁。
■「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
今日のGALAはとにかく長く、しかもそれぞれに心を動揺させる要素てんこ盛りなために(え?)そろそろ疲れてきたところで、リフレッシュ演目が。
シンプルに技術力の高さを見せる体育会系?のGALA演目故に、テクニック的にアラがあると目も当てられない(情緒的な部分でフォローできない)ことになる・・・という危険な演目でもあるのですが、さすがに信頼のボーダー&デ・ルースペア。2人ともきっちりとしたテクニックと、音楽にそったきれいな流れを崩さずに、見せるところはキッチリと見せてくれました。トゥール・アン・レールがとてもきれい。
■「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス
ピアノ演奏:菊池洋子

まず第一に・・・ピアノの菊池さんBRAVA!
素晴らしい演奏で、時折演奏に没頭するために目を閉じて味わいたくなるほど・・・でした^^;
さて、ヴィシニョ―ワとゴメスのお二人の素晴らしいところは・・・リフトの高さと正確さ!
何度も、???と思っていた某オペラ座ダンサーや某イタリア人女優バレリーナの、大きなスカートが男性ダンサーの顔を覆いながら舞台を右往左往している・・・という誰得な構図を何度も見せられて(そしてうんざりして)きた身としては、高々と突き上げられた両腕の上で旋回し、美しくポジションチェンジするマルグリットと(物理的な重さ故でなく)苦悩に満ちたアルマンの表情を同時に観賞することが出来る!というのがまず素晴らしい。
舞台上手で思い悩みつつ座っているゴメスが舞台中央奥に佇む黒衣の女の気配に気づき・・・
マルグリットだ!
でも、彼女が自分の愛を裏切って出て行ったと信じている彼は受け入れることが出来ず逡巡する・・と
病を押して訪ね来た彼女が倒れそうになるのを駆けより支え、そして愛が再燃。
という情熱の奔流の場面のパ・ド・ドゥですが・・・。
病気でつらい、引き裂かれてつらい、そのつらさが、はかなさではなく強い生命力でもって表現される様に、あぁ、マルグリットはいずこに・・・と、舞台上にない幻を音楽の中に捜してしまったわたくしでした。。。
2人とも、実に誠実に「椿姫」の場面を演じていたのだと思うのですが・・・。
あの、アルマンの苦悩のポーズ、天を仰いで曲げた両腕を腰に近づけ、膝を開いて足をクロスさせるあの振り・・・
神に苦悩する場面だと理解していますが、ゴメスはそこでフンッと鼻息が出ていそうな力強さで・・・。
わかりました。
リアブコの端正さが欲しかったのです。
そしてマルグリットにははかなさと盛りを過ぎようとしている贅沢を知る女の枯淡の美しさが欲しかった。
ないものねだりですね^^;
最後のフィナーレで並んだダンサーの布陣を観て、ヴィシニョ―ワのCASTING能力には信頼がおけるなと改めて感じました。
男性はテクニック万全で自分と絡む場面があるダンサーは個性派の長身イケメン(各タイプ取り揃え・・・)を並べ、自分とは絡まないダンサーは容姿よりも実力で!
女性はそれぞれに品格・音楽性・スタイルなど、優れたダンサーなれど、自分以上に華のあるタイプは敢えて呼ばない・・・。
実に正しいです。
おかげ様で、A・Bプロとも楽しめましたし、未知の魅力あるダンサーの発見もありました。
後は・・・色々と挑戦できる場としてのチャレンジは納得でもありますが、やはり自分に合う演目を厳選してくださると更に良いかも、と。
どちらかというと玄人好みの、面白い変化球満載の良いGALAでした
8月22日(木)19:00~
会場は五反田のゆうぽうとホールです。6列目のセンターと言う良席を配席いただき、NBSに感謝。
この日は上野水香さんがゲストダンサーとして参加するだけでなく、「カルメン」で東京バレエ団のダンサーが活躍することもあり松野乃知くんなど、東バダンサーをちらほらお見掛けしました。

―― Prologue ――
「ドリーブ組曲」
振付:ジョゼ・マルティネス 音楽:レオ・ドリーブ
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
「レダと白鳥」
振付:ローラン・プティ 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
上野水香、イーゴリ・コルプ
「タランテラ」
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
「精霊の踊り」
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
デヴィッド・ホールバーグ
「真夏の夜の夢」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
―休 憩―
「カルメン」
振付:アルベルト・アロンソ 音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス、イーゴリ・コルプ
後藤晴雄、奈良春夏、東京バレエ団
―休 憩―
「眠れる森の美女」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ/マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
「チーク・トゥ・チーク」
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン
上野水香、ルイジ・ボニーノ
「ナウ・アンド・ゼン」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:モーリス・ラヴェル
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス
ピアノ演奏:菊池洋子
―― Finale ――
【プロローグ、フィナーレは、この公演のためにマルセロ・ゴメスが特別に振付けたものです】
※音楽は特別録音によるテープを使用します。(「ダイアローグ」のみピアノ伴奏)
◆上演時間◆
第1部 19:00 - 19:55 (休憩 15分)
第2部 20:10 - 20:50 (休憩 15分)
第3部 21:05 - 22:00
平日で五反田、という場所を考慮しての19:00開演はありがたい配慮ですが、
この日が公演全体の千秋楽ということもあってか、拍手が多く第3部開演時間の時点ですでに15分の遅れが・・・。
カーテンコールも含めての終了時間が22:30とかなり遅い時刻の終演に。
ボリュームたっぷりのGALAではありました。
個々に感想を・・・。
《第一部》
■「ドリーブ組曲」
振付:ジョゼ・マルティネス 音楽:レオ・ドリーブ
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
ジョゼとアニエスのための演目・・・のようなつもりでいましたが、もうこれはオペラ座ダンサーのGALA演目として確立した作品になっているのですね。。。
そう言えば小柄なミリアム(ウルドブラハム)がこのロイヤルブルーと白のお衣装を着たら、長身のアニエスと全く違った雰囲気に見えたことなどを思い出しました。
マチアスはこの白い大きな襟(開襟)に短めのブルー系ストライプのジャケットの衣装がお似合い。
メラニーはちょっと地味めにみえましたが・・・。
ジョゼ&アニエスのときには美しくて古典的なGALAピースに見えましたが、改めて別のダンサーで観ると、なかなかに技巧をこらした作品であるとわかって面白かったです。
回転のさなかに90度ずつ顔をつけてアクセントにするテクニックなども珍しく、くっきりとテクニックを見せるマチアスの芸風もあるのかな、と^^;
このお二人は、この日異常な蒸し暑さだったこともあり、もしかして夏バテ?ちょっと特に後半のメラニーがつらそうに感じてしまいました。
■「レダと白鳥」
振付:ローラン・プティ 音楽:ヨハン・セバスティアン・バッハ
上野水香、イーゴリ・コルプ
楽しみにしていたコルプ様^^
さすが、の白鳥っぷりで観ているだけでもワクワクします。
長めの前髪をオールバックにして白いタイツに上半身はさらして、大きく腕を振り上げて反る姿勢で、優雅な薄もののギリシャ風ドレスの上野さんのレダを見染めるゼウス=白鳥を。堂々たる神であって白鳥であるという存在を彼独特のケレン味のある演技でぶれない世界観を作り上げ、カーテンコールでも、その存在として生き続けるコルプを堪能しました。
上野さんは健闘していたと思いますが、彼女のオリエンタルな魅力を構成する要素であるべき前髪が、一時の斎藤さん、吉岡さんのように若々しさを見せようとして薄めに下ろしていて、却って邪魔になっているような・・・。
あと欲を言えば、もう少しムーブメントが滑らかだと更に美しいバランスに見えたのでは・・・と思いました。
■「タランテラ」
振付:ジョージ・バランシン 音楽:ルイス・モロー・ゴットシャルク
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
東京の暑さはこの若い2人にとってはなんということもないのでしょうね

そして、デ・ルースの故障(Aプロ2演目を1演目に変更・・・ドンキホーテは回避)も、この日のパフォーマンスからは感じ取れず、タンバリンを使ったこのアップテンポな演目を2人して茶目っ気たっぷりに、魅力いっぱいに演じてくれました。
それにしても、タンバリンの音もピシッと決まるし、余裕綽々で音楽にピタッピタッと合わせてくるこの2人、今まで全くノ―チェックだったのに・・と見るとNYシティバレエ所属、バランシンがお手の物、というのが納得でした^^
あまりに踊りそのものの感じが良いのでホアキンが背が低くて立派なお顔立ちのお顔が大きく見えてしまうことなど、全く気にならなくなってきました^^
黒いトレアドルパンツに白シャツ黄色のサッシュの男性、海老茶のビロードの胴着に白いブラウス、クリーム色のふんわりスカートの女性・・という簡素な衣装も、2人の若々しさを引き立てているようにすら思えます。
■「精霊の踊り」
振付:フレデリック・アシュトン 音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
デヴィッド・ホールバーグ
アシュトンがアンソニー・ダウエルのために振りつけたソロ。
現役時代のダウエルはそれはそれはノーブルなダンサーで、その彼への宛書きを金髪長身のホールバーグが。
舞台の中央に据えられたのは暗い空を背景にした階段。
その上に、立つホールバーグは「白鳥」のコルプ同様、白いタイツに上半身をさらした姿で、まるで生けるギリシア彫刻のよう

音楽がグルックの「オルフェオとエウリディーチェ」の抜粋で、とても異界感に満ちた幻想的な空間が生み出され、あぁ、ルーブル美術館の「サモトラケのニケ」だ・・・という想念に襲われた演目。
男性の抽象的なソロ作品って観念的な閉塞感にいつしか睡魔が・・という危険がある場合も多いのですが(わたくしだけ?^^;)これは、ちょっと、かなり心奪われる時間でした。
この日の彼はこの一作品しか踊らず、後はゴメス氏と2人でヴィシニョ―ワ座長のお付きとして登場・・・・。
ちょっと勿体ないですねxxx
■「真夏の夜の夢」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フェリックス・メンデルスゾーン
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
おやっと思わせる華やいだお衣装の2人。
ブシェは白い薄物レース地のドレス、ボァディンもおひげをきれいにそり上げて、アイボリーと金の襟もとのジャボと袖口のたっぷりフリルのレースも優雅な宮廷服姿。
いつもユニタ―ドやリアルな生活感を感じさせる散文的な衣装が多いノイマイヤーダンサーにしては、意外なほどのクラシカルな装い。踊りそのものも、全幕のクラシックバレエのグラン・パ・ド・ドゥのよう。
揃って長身で、テクニックのきちんとした2人の繰り広げる華麗な世界はとても魅力的。
珍しいものを見せていただき、演目を選んだのであろうヴィシニョ―ワに感謝!
《第2部》
■「カルメン」
振付:アルベルト・アロンソ 音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス、イーゴリ・コルプ
後藤晴雄、奈良春夏、東京バレエ団

アロンソ版のカルメンは東バのレパートリーのため、何度も観ていますが、今日のCASTはBESTのひとつですね^^(もう一つはシアラヴォラのカルメンにマッシモ・ムッルのホセで観た2005年の公演)
出会いの場面では赤、ホセに刺されるくだりでは黒の胸元深く切れ込んだレースにフリンジがふんだんにあしらわれたミニのお衣装でお団子をサイドに金の髪飾りでまとめたヴィシニョ―ワのカルメンは匂い立つ女らしさ・・・というよりは、自分の力の使い方を心得たパワーを自在に使って男を支配する世界の中心的な存在。
ゴメスのホセはひたすらまじめな男がそんな手練手管を使える女の魅力にハマって破滅に向かう一途なラテン男。
グレーの軍服・軍帽のON,白シャツ黒パンツのOFF、いずれも禁欲的でこのホセの役作りにぴったり。
後藤さんが黒に金の装飾の軍隊における上司役。ゴメスと同じ振りで踊ってまったく引けをとらない緊迫感とスタイルなのに感心。
東バの男性陣の群舞は何度も再演されている作品ということもあり、日本人特有のきびきびした規律感あふれる動きで背景に徹していて観ていて気持ちが良い。
顔を2色に塗り分けた女性ソリスト2人の1人は吉川留衣ちゃん。あと一人がわからないが、より力強い踊りで、だれだか知りたい・・・。
コルプのエスカミ―リョは白地に黒の刺繍の施されたマタド―ルスタイルがとてもお似合い。
「運命=死」を演じる、顔も含めて全身黒タイツで覆われた女性は奈良春夏さん。
今までで一番シャープに絞られたスタイルの奈良さんの「運命」と牛の角のポーズで対抗するコルプのエスカミ―リョはともにスタイリッシュながらも独特のタメがあって、強くて艶やかでポワントも反りも自在なヴィシニョ―ワのカルメンとのバランスが合っていて実に良い舞台。
思うに、ヴィシニョ―ワは身体的には出来ないことはないくらい万能で、演技も過剰なくらいしっかりと作ってくる渾身の舞台人だけれども、役柄をすごく選ぶタイプ。
合わない役も、渾身の力で自分に引き寄せて力技で演じきるのが、時々とても不思議なものを観ている気分にさせられて・・・。そこがわたくしが手放しでヴィシニョ―ワ・ファンになれないところかも・・と思いつつも、この「カルメン」のように役者が揃うとやはり素晴らしい演者でダンサーであると感服致します

《第3部》
■「眠れる森の美女」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ/マリウス・プティパ 音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
メラニー・ユレル、マチアス・エイマン
夏バテしているように見えた2人、リベンジなるか?
とてもきれいでカワイイお衣装。さすがはオペラ座。マチアスがボアディンとほぼかぶる「結婚式の王子」衣装。
ユレルのオーロラ姫のお衣装が、デコルテがきれいに開いて、肘が隠れるぴったりした袖口からこぼれるレース、ハリのあるアイボリーサテンのクラシックチュチュに丁寧に刺繍の施されたピンクのバラがロココスタイル。ブシェのシンプルなハンブルク仕様の衣装とは衣装部の力の入れようが違う!と感じさせるOPERA座仕様でステキ。
ユレルはさすがの経験値からか、なんとか無難にまとめてきた・・・という印象。
端正できれいではありました。
マチアスはやはりこの人は持って生まれた才能があるのだなぁと思わせる、質の高いジャンプに伸びやかで高い位置でのマネージュ。
ただ、演目か2人の相性か、コンディションか・・・他が素晴らしい!というのもあるのですが、今一つの盛り上がりに欠ける感じが・・・

■「チーク・トゥ・チーク」
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン
上野水香、ルイジ・ボニーノ
良い上野水香ちゃん。
そう言えば彼女は牧時代から、長身美脚でプティのお気に入りダンサーだったのよね・・と思い出した。
1mほどのしっかりとしたテーブルがセンターに置かれ、その上と舞台を自在に行き来してタキシード姿のボニ―ノさんと黒レースにフリンジのカクテルドレスにハイヒールパンプスの水香ちゃんが組んで洒脱に踊る楽しい演目・・・。
ではあり、コケティッシュな笑顔で踊るスタイルの良い水香ちゃんは大変にチャーミングではあったのですが・・・・
プティの世界かというと、もっと大人な洒落ッ気が出てくると・・・と求めてしまうのが観客のサガ。
このレベルのGALAだから、こういうライトな演目でも、それなりに完成された世界観が欲しい。
■「ナウ・アンド・ゼン」
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:モーリス・ラヴェル
エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン
いつもの・・・というか、スタンダードなコンテンポラリーノイマイヤー作品を踊るブシェとボァディン。
これはこれで、やはり見せるダンサーだなと。
ボァディンは赤のボクサーショーツラインのパンツに肩ひものついたような赤いレオタード、ブシェは美脚がくっきりと浮き出るユニタード。
Aプロ「ジュエルズ」の「ダイヤモンド」ではいささかギョッとさせられた(笑)語る脚が、ここではその存在感を伸びやかに示していて実に雄弁。
■「パリの炎」
振付:ワシリー・ワイノーネン 音楽:ボリス・アサフィエフ
アシュレイ・ボーダー、ホアキン・デ・ルース
今日のGALAはとにかく長く、しかもそれぞれに心を動揺させる要素てんこ盛りなために(え?)そろそろ疲れてきたところで、リフレッシュ演目が。
シンプルに技術力の高さを見せる体育会系?のGALA演目故に、テクニック的にアラがあると目も当てられない(情緒的な部分でフォローできない)ことになる・・・という危険な演目でもあるのですが、さすがに信頼のボーダー&デ・ルースペア。2人ともきっちりとしたテクニックと、音楽にそったきれいな流れを崩さずに、見せるところはキッチリと見せてくれました。トゥール・アン・レールがとてもきれい。
■「椿姫」より 第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:ジョン・ノイマイヤー 音楽:フレデリック・ショパン
ディアナ・ヴィシニョーワ、マルセロ・ゴメス
ピアノ演奏:菊池洋子

まず第一に・・・ピアノの菊池さんBRAVA!
素晴らしい演奏で、時折演奏に没頭するために目を閉じて味わいたくなるほど・・・でした^^;
さて、ヴィシニョ―ワとゴメスのお二人の素晴らしいところは・・・リフトの高さと正確さ!
何度も、???と思っていた某オペラ座ダンサーや某イタリア人女優バレリーナの、大きなスカートが男性ダンサーの顔を覆いながら舞台を右往左往している・・・という誰得な構図を何度も見せられて(そしてうんざりして)きた身としては、高々と突き上げられた両腕の上で旋回し、美しくポジションチェンジするマルグリットと(物理的な重さ故でなく)苦悩に満ちたアルマンの表情を同時に観賞することが出来る!というのがまず素晴らしい。
舞台上手で思い悩みつつ座っているゴメスが舞台中央奥に佇む黒衣の女の気配に気づき・・・
マルグリットだ!
でも、彼女が自分の愛を裏切って出て行ったと信じている彼は受け入れることが出来ず逡巡する・・と
病を押して訪ね来た彼女が倒れそうになるのを駆けより支え、そして愛が再燃。
という情熱の奔流の場面のパ・ド・ドゥですが・・・。
病気でつらい、引き裂かれてつらい、そのつらさが、はかなさではなく強い生命力でもって表現される様に、あぁ、マルグリットはいずこに・・・と、舞台上にない幻を音楽の中に捜してしまったわたくしでした。。。
2人とも、実に誠実に「椿姫」の場面を演じていたのだと思うのですが・・・。
あの、アルマンの苦悩のポーズ、天を仰いで曲げた両腕を腰に近づけ、膝を開いて足をクロスさせるあの振り・・・
神に苦悩する場面だと理解していますが、ゴメスはそこでフンッと鼻息が出ていそうな力強さで・・・。
わかりました。
リアブコの端正さが欲しかったのです。
そしてマルグリットにははかなさと盛りを過ぎようとしている贅沢を知る女の枯淡の美しさが欲しかった。
ないものねだりですね^^;
最後のフィナーレで並んだダンサーの布陣を観て、ヴィシニョ―ワのCASTING能力には信頼がおけるなと改めて感じました。
男性はテクニック万全で自分と絡む場面があるダンサーは個性派の長身イケメン(各タイプ取り揃え・・・)を並べ、自分とは絡まないダンサーは容姿よりも実力で!
女性はそれぞれに品格・音楽性・スタイルなど、優れたダンサーなれど、自分以上に華のあるタイプは敢えて呼ばない・・・。
実に正しいです。
おかげ様で、A・Bプロとも楽しめましたし、未知の魅力あるダンサーの発見もありました。
後は・・・色々と挑戦できる場としてのチャレンジは納得でもありますが、やはり自分に合う演目を厳選してくださると更に良いかも、と。
どちらかというと玄人好みの、面白い変化球満載の良いGALAでした
