とても物思わせて貰えた2時間ほどだった:
主題は「ビッグモーター」で出席者は片山さつき参議院議員、町田徹エコノミスト、加藤久美子ジャーナリストだった。ビッグモーターという希有な存在の分析と内情が討論されたのも興味があったが、私の関心事はビッグモーターの常識で考えれば「そこまでは誰もやらないだろう」という類いの(敢えて「悪事」と言うが)金儲けの手法の批判から導き出された「我が国独自の性善説信奉に対する反省」と「下請けいじめを止めるべきだ」に2点にあった。
性善説の問題点:
町田氏はビッグモーターの悪辣(としておこう)な手法の背景にあることが「我が国の多くの法規制が性善説に基づいている」ことに付け込んでいることを挙げて「可能ならば、人の性は善なる者であるとの考え方を捨てておく必要がある」と主張された。私は長年性悪説を信じる国のアメリカの会社に勤務していたので、我が国の性善説信奉は美しいのだが、その隙が悪知恵を備えた者に付け込まれる危険性があると見ていた。
アメリカで性悪説がどのように現れているかの手っ取り早い例を挙げておけば「アメリカの靴の売り場には片方しか展示されていない。それは両方置いておけば万引き(shop liftingという)される危険性があるからだ」と聞いた。また、中国でも東南アジアの諸国でも「買い物をして売り子にその場で現金で支払うのではなく、先にレジで支払いを終えて領収書を示してから品物を受け取る方式」になっている。売り子に現金を渡して持ち逃げさせないためだとか聞いた。
Prime Newsの議論は「損保会社は自動車修理工場が何らの悪さをしないで保険求償をしてくるものだとの前提で保険金を支払っている。ビッグモーターはそこに付けいったのだ」という説明だった。町田氏の論点は「これは性善説を悪用したほんの一例に過ぎず、他にも我が国の法規制が全て性善説に基づいているので、もうそろそろ考え直しても良い時になっているのでは」だった。
私は考え直して法規制や商習慣を作り直すのは大事になるだろうが、その必要はあると考えている。同時に言いたいことは「インバウンド歓迎も結構なことだが、性悪説も何も法律を遵守すべきだというような観念の乏しい国から人々を受け入れるのは考え物だ」なのである。そういう連中が既に方々の地方都市やここ新宿区の場合のように、我が国の法律を知ってか知らずにか、やりたい放題ではないのか。彼らを性善説で受け入れることの問題を考えるべきではないのか。
下請け業者の問題点:
片山さつき議員は自動車関連の委員会等に属しておられるとかだったが、その主張を聞けばある程度以上に(俗な言い方で申し訳ないが)上から目線的ではあっても下情に通じておられた。これは中々結構なことだと歓迎したい。私に言わせれば「我が国の国会議員さんたちも高級官僚も(大会社の偉い方々も入れたくなるが)世の中の実情というか、実態をご存じない嫌いがある」のだ。仮令ご承知のようでも、上面だけのことが多いと思っている。
片山議員が指摘されたのは車検工場のような場合に下請けに丸投げしている例があり、安い工賃で引き受けさせられれば手抜きをしたり(純正ではない)安い部品でごまかしたりする例が多い。しかも、下請け会社では社員の給与も低く押さえ込まざるを得ない。
この辺りを私は以前にも指摘したことがある。即ち、何時までも産業構造の下部にある企業を犠牲にしていてはならないということ。極端に言えば「全て我慢して値上げを言い出さずに苦境に立たされたままなのではなく、下部から利益が上がるように値上げをして給与も上げていけば、我が国の産業界はコストと人件費の上昇で成り立たなくなりはしないか」ということなのだ。昨夜も町田氏は言葉を濁していた感があったが、この点の指摘をしておられた。
我が国の会社組織でアメリカと最も違うと経験的にも言える点がある。それは「我が国では段階的に課長から部長、本部長から取締役と昇進していくと、上がるにつれて実務から遠くなっていくと見ている点なのだ。要するに「部下の働きに依存して、自分では実務を担当しなくなり、命令し指揮するだけになっていくと見ている。即ち、新入社員の頃からの経験に基づいて部下を指導しておられる」のだ。言い方は悪いが「知らない者が知っている者を使っている」のだ。
アメリカはといえば「上に行けば行くほど年俸は幾何級数とまでは言わないが、責任が重くなるほど上がっていくのだ。そして、高い年俸を取っている者は、それに見合うだけの働きと成果を挙げることが期待されている。故にと言うか何というか、事業部長となっても自分の担当先を持って売り込みから受注に励むことすらあるのだ。いや、部員たちは高給取りの上司が昼夜を分かたずに働き続けなのは当然だとしか見ていない。
Meadに転じて、他の事業部の本部長の日本出張の手伝いをした時に、彼が見込み客を訪れて熱心に生々しい議論をしてメモを取って売り込んでいるのに驚かされた。「それって、担当者のやることでは」と思ってしまった。この辺りをウエーハウザージャパンの副社長だったYN氏は「我々はどんな地位にあっても、地べたを這いずり回るような営業活動をせざるを得ないものだ」と形容した。
言い方を変えれば「job型雇用」の世界では各人が社長であると同時に、一担当者のように動くしかないのだ。即ち、自分で動き回って常に市場の動きを感じ取り、同業他社の動きを監視し、取引先の経営状態に注意を払い、全てを掌握しておくことが営業担当の当然の任務であるのだ。換言すれば「下情に通じているのは当たり前で、特に褒めることでもない」のだ。ということから見れば、片山議員が車検業界の裏表を把握しているのは、国会議員としては褒めて良いことだと思う。
性善説を忘れれば:
回りくどくなってしまったが、昨夜も町田氏と片山議員が「下請けから元請けの扱いを改善せねばなるまい。そして経営面での採算が取れて、社員の待遇も改善できるようになるのが理想だ。だが、そうなった時に最終製品の価格がどれ程上がるかを考えると恐ろしいことになるだろう」という意味のことを静かに言っておられた。私もその通りだと思っている。何時までも何重もの産業構造を放置しておく訳にはいかないのだ。
長年お世話になってきた紙パルプ産業界とその隣村である印刷業界を見てきたので言えるのだが、印刷業界には「何段目かの下請け業で、得意先がなく、営業担当者もいないという例があった。その上の段階の業者もあった。そういう印刷会社にまで紙を販売して、自転車の荷台に何枚かの紙を乗せて納品するような紙商もあった。昨夜聞いていた限りでは、中古車や車検や修理工場も、余り変わらない苦しい業界のようだ。
司会の反町は冒頭に「本日の議論が煮詰まっていくと、我が国の産業構造の問題にまで行き着くのでは」と予告していた。その通りになったのだと思った。少なくと「性善説の問題点」と「二重・三重の下請け構造の問題点」を浮かび上がらせていた。河野太郎さんはこういう世の中と知って、マイナンバーカードと健康保険証の合体を強行突破したいのだろうかなどとつい考えてしまう。