冷静なる評論家は言う:
大学附属高校対独立の私立高校の争い:
ここでも、日大高校アメリカンフットボール部監督・故清水之男氏の言を引用しよう。それは父兄たちに向かって「私は全国制覇(現在はクリスマス・ボウルになっている)を目指して子供たちを鍛えていない。飽くまでも日本大学フェニックス篠竹幹夫監督の役に立つように彼らを鍛えて進学させることを第一義に考えていると理解して欲しい」と断言されたのだった。そして、1980年代のフェニックスには、実際に多くの日大高校出身者が中心選手として活躍していた。
私はこの形が「大学附属高校の運動部の一つのあるべき姿だ」と認識している。当時の日大高校のフットボール部には大学のレギュラーメンバーである選手たちがきて指導していたし、フェニックスが使うような高度なフォーメーションも教えられていた。言いたいことは「森林監督は甲子園での優勝を目指してきたのか、それとも大学の野球部の強化を意図してきたのか」なのである。
この度の決勝戦には慶応大学の附属高校が独立系の仙台育英高校と対戦する。私が見てきた限りでは、慶応大学の野球部は高校の森林監督が就任された2015年以降には附属高校出身の選手が圧倒的に多いのである。しかも、NPBで一本目を張っているようなソフトバンクの柳町やヤクルトの木沢や広島の矢崎のように慶応高校から慶応大学出身者が大活躍なのだ。
私は慶応高校の野球部の在り方と歴史が変わったのではなかったのかと見ている。森林監督は慶応高校出身だそうだ。余談だが、前任者の上田誠氏は湘南高校出身者だった。
一方の有力な優勝候補として前評判が高かった仙台育英高校の須江航監督は、有名な選手ではなかったような経歴だと聞いている。だが、今回の甲子園での連覇を狙っての登場でも、高校生たちに「君らにとっての初めての優勝を目指そう」と言い聞かしていると聞く、中々端倪すべからざる指導をされている人物であると見た。だからこそ、既に優勝の実績があるのだ。
その結果として、今すぐNPBに行っても通用しそうな150kmを投げる投手を3人も育て上げたし、高校生の域を脱した強力な打者も育成してある。単なる「勝利至上主義者」ではなく「子供たちの将来を考えた指導法」を採用しているのも知れないかとも見える。だが、NPBでレギュラーの座を確保している選手は意外にそう多くはないのだ。
上述のような見方をしてくると、明日の決勝戦は相異なる高校生の育て方をしてきた両校の争いになる点に、大いなる興味を感じている。先ほども仙台育英高校に分があると予測したが、その根拠としてここに掲げておきたいことは「須江監督は一度全国制覇をして『勝ち方』を心得ている点に、森林監督と比べた場合に『一日の長がある』と見えるから」なのである。
湘南高校を忘れないで貰いたい:
朝から仙台育英高校と慶応高校とユニフォームとストッキングが似ているとの報道がある。「ひるおび」では仙台育英高校の慶応大学出身の校長先生(だったか?)が慶応大学と同じ形にすることの了解を取られたと報じていた。それならば、79年前にたった一度だけ出た甲子園で優勝した湘南高校も、慶応大学と同じストッキングを履いていたし、監督が慶応大学野球部出身の佐々木氏だったことも取り上げて欲しいものだ。
私は仙台育英を見た時に、ユニフォームの色は違うが、ストッキングは湘南と同じではないかと、一瞬だけ一寸懐かしくなった。あの優勝メンバーからは東大に進んで東洋紡で専務になり、後に日本高野連の会長に就任した脇村春夫君や、慶応大学からトンボユニオンズのショートストップになった佐々木信也君や、東大の左腕のエースになった三菱化成常務の原田康男君が出ていたのだ。最近ではNPBで今はヤクルトに宮台康平もいる。マスコミは何時も片手落ちで、冷静ではなくなるのだと指摘して終わる。