新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

東芝のファンドによるTOBの問題

2021-04-16 09:32:31 | コラム
東芝はCVCキャピタル・パートナーズの提案を拒否すると発表した:

私はこの東芝の意思表明は極めて尤もな事だと思っている。この東芝の件で某銀行で支店長や海外勤務を経験し、製造業の大手会社にも出向して異業種も内側から見てきた昭和20年の中学入学からの級友と語りあってみた。中々興味深い1時間弱の電話会談だった。この中で教えられたのが、我々と同期の元キャノンの副社長だった田中宏君が先月亡くなっていたとの訃報だった。既に近親者のみの葬儀で終わっていたので、同期の間でも殆ど知られていないとかだった。黙祷だ。

先ず、私の方から語りかけた事は、社長を辞任された車谷氏が三井住友銀行の出身者だったという辺りからだった。それは「紙パルプ産業界とその関連業界において見聞してきた事で、銀行から社長乃至は経営再建の責任者が派遣された会社は立ち直る事は多いのだが、往々にして不振の事業部門が整理されて経営の規模が縮小されるか、安全第一を旨とする経営になってしまう。そのような変貌振りを外部から見ていて推理すれば、銀行から派遣されて来る人は会社を建て直して自行の債権を確保するのが狙いであって、それ以外の何か多くの事を期待すべきではないと感じていたのが、単なる邪推か」だった。

級友からの反応は意外でも何でもなく「概ねその通りだろうよ」と否定はしなかったのだった。私の見方は「車谷氏が直前はCVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長だったにせよ、三井住友銀行出身であれば、車谷氏は社長兼CEOとして東芝の経営を安定させ、出身母体の銀行にも問題が生じない事を意図されたのではないか」という気がしたのだった。級友は車谷氏が銀行出身者だと承知していたし「銀行と製造会社では全く業務も何も異なるので、銀行から乗り込んでも上手く行くかどうかは保証の限りではあるまい」とも回顧していた。

ましてや、投資ファンドであれば、買収して内容を改善してから高額で売却しての売買差益を獲得するのが狙いだから、当然のことで建て直した後に売却は考えているだろうし、物言う株主になるのも不思議ではあるまいと思う。現に我がウエアーハウザーは2007年頃に7%ほどの株式を取得した某ファンドに物を言われて、紙パ部門で最大の事業部を「先行き不安」として売却を迫られてしまったのだそうだ。我が社は2005年には印刷媒体関連の紙部門の将来を見切って撤退を始めていたのだった。だが、ファンドからは未だ将来性ありと温存して置こうとした部門の処理を言い出されて抵抗できなかったと、昔の同僚から聞かされたのだった。

級友と語り合った多くの事の中には「アメリカやヨーロッパのファンドとはそういう集団であるようなのだが、マスコミは東芝がそういうファンドの株主に物を言われた事がどれだけ大変かを認識して報道しているのだろうか。まさかその実態を知らずにTOBだと言う事だけで騒いでいるのではあるまいな」という点もあった。

更に意見が一致した事は「ICT化が急速に進み、世の中が大きく変わった事の影響を被っている電気産業界はさぞかし大変なんだろうな」だった。その表れかどうかは解らないが、松下電器産業は「電器」が入っていないパナソニックになってしまったし、ソニーも「今や電機会社でないことは確かだ」と指摘されているではないか。この業界は時代の変化に追い付くだけでも大変なようなのである。と言うよりも、今更GAFAMに変身する訳にも行かないのだろう。先日もPrime Newsで「半導体の需給が逼迫している時に、文在寅大統領はサムソンの実質的経営者の李氏を投獄してどうする気なのか」と、真田教授だったか鈴置氏だったかが指摘したのが印象的だった。



コメントを投稿