新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

トランプ大統領と関税を考えてみる

2025-02-12 07:58:34 | コラム
関税とは何か:

最初に「関税とは外国から輸入する貨物に賦課する租税である」と、念のために確認しておく。我が国では関税は財務省の組織内の関税局の職務だと認識していた。私は日本に輸出するアメリカの会社に勤務していたので、関税を納入する側ではなかったが、経験から学んだことは「税関は法律に則って非常に厳密且つ厳正に調査して関税をかける」と承知していた。また、その主たる目的の一つに「国内産業の保護」があると認識していた。

一方のアメリカでは関税には当然国内産業の保護があるのだが、我が国とは異なっていて「国内の産業界から外国からのダンピングによって市場が荒らされたとの理由で、商務省(DOC)に当該国からの輸入に関税を賦課願いたいとの請願から始まる」と承知していた。請願を受けた商務省が時間をかけて調査し、不当な廉売であると認めたならば、国際貿易委員会(ITC)に上げて審査され認められれば、関税率等が決定されていくのだ。

ここまでの課程に大統領は関与していない。それでも、トランプ大統領は「tariffほど美しい言葉はない」と言われ、tariff manと自称され、この度の決定のように追加関税の賦課を決定する大統領令に署名されたのだ。これは、上述の課程を飛び越えてIEEPA=国際緊急経済権限法の規定に基づいているのだ。

要するに、トランプ大統領はIEEPAによって、DOCやITCの調査/承認を経ずとも、大統領が賦課する権限を行使されたのである。実は、不勉強にしてその規定があるとは知らなかった当方は、アメリカの大統領の権限の大きさとその行使を「驚き」を以て受け止めていた。関税の賦課がdealの材料になるとは、想像したこともなかった。

だが、Reutersは「今回の追加関税は、大統領に広範な権限を与える国際緊急経済権限法(IEEPA)を法的根拠としたが、貿易・法律の専門家からは適用に異論が出ている。IEEPAを巡り重要な先例になる可能性があり法廷闘争に直面する可能性が高いという。」と指摘していた。

また、関税が賦課されたからといって、アメリカ国内の輸入品の価格が直ちに急上昇することはないと思う。それは簡単なことで、輸入業者及び需要家などは輸出国の生産状況、海上輸送の遅延等々による入荷遅延という万一の場合に備えて、通常は1~2か月分の在庫を抱えているのであるから。実際に、COVID発生の際に、港湾に接岸できない無数の貨物船が停泊していたではないか。

トランプ大統領の例外なく25%の追加関税賦課という強硬手段が如何なる結果を生じるかは、当方如きには予測できないし、何が起きるかは分からない。何故かと言えば、大統領が強調する「関税が嫌ならば(「アメリカ向けの輸出が減少するのが」という意味か)、アメリカに来て生産せよ」という理屈は解るが、気になることがある。

それは「現地生産が開始できるまでに何年かかるかという事と、アメリカの低質の労働力で輸入品に劣らない品質の製品ができるのかという問題点をお忘れではないのか」なのだ。中国はすでに報復関税をかけると発表したし、カナダ向けには猶予もあると報じられたと思う。External Revenue Serviceの長官人事も聞いていない気もする。

ここは、矢張り英語にすれば“Let’s wait and see what will happen.”で「成り行きを見守っていよう」という事になるのだろうか。このように、中々トランプ大統領関連の話題から離れられない。


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