杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

しずおか地酒サロン「地酒は地域の元気のミナモト!」その2

2009-09-01 15:19:25 | しずおか地酒研究会

 第35回しずおか地酒サロン「地酒は地域の元気のミナモト!~売り手と飲み手の車座本音トーク」、後半のフリーディスカッションの様子をご紹介します。今回は異業種の方が多く、東京からも5名参加してくださいました。酒の業界人だけ、静岡人だけの集まりでは出てこないメッセージを多くいただきました。参加者からは「刺激的な会だった!」という感想をいただき、ホッとしています。ありがとうございました!!

 

(フリーディスカッション)

◆高嶋一孝さん(「白隠正宗」蔵元杜氏・沼津市)

 日本酒というのはコミュニケーションツールだと思っています。ひとりで路地裏で飲むんじゃなくて、一升瓶があったら湯のみでも何でもいいんで、テーブル囲んで仲間でちびちび飲んでもらいたい。1杯で満足しちゃうんじゃなくて、だらだらおかわりしながら飲むのが日本酒の醍醐味だと思うんです。家庭や居酒屋で腰を据えて飲むのが日本酒。そういうことを、食育みたいに若い人に理解してもらうタネまきが必要なんじゃないかと思います。

 

◆小嶋良之さん(共立印刷・地域情報誌「むるぶ」編集長・藤枝市)

 10年ぐらい前、知り合いの日本料理人の方と、日本酒に合わせた料理ができないかと話したことがあります。で、試しに前菜から何から一品ごと日本酒に合わせて出してもらいました。日本料理だけじゃなく、中華料理でも韓国料理でもできると思います。今日はこの蔵の酒で全部の料理を合わせてみます、というように。お酒と合わせることで味わいがふくらむこともあるでしょう。酒蔵の近所でそんな企画ができれば楽しい。

 

◆日比野哲さん(「若竹」副杜氏・島田市)

 当社では春と秋、年2回、大井神社宮美殿で、酒米・五百万石を作る地元の米農家の方と、島田の伊久身にあるヤマメ平の清水さんと一緒に、地域の食材を使った料理と当社の酒を合わせて楽しんでいます。料理は酒に合うよう、宮美殿の料理長が吟味して作ってくれます。今年も11月4日にあります。9月末に電話で申し込み受付をしますので、よかったらいらしてください。

 

◆吉岡慎一さん(羽田エクセルホテル東急総支配人・東京都大田区)

 静岡を離れて20年以上たつので、自分の地元の甲子園代表を応援するような気持で地酒を応援させてもらっています。一番好きな食べ物はうなぎです。大切な酒を飲むときはうなぎの白焼きが一番かな。ふだんはちりめんじゃこです。浜松の実家へ帰った時に買い置きしておきます。

 東京から見ると、地酒は地元の方がふだん召し上がっているものと一緒に味わうのが一番美味しいように思います。酒通でなくても、惹かれると思います。今日お見えの方も私のベストおつまみがあると思います。これを聞くだけで相当のデータベースになるんじゃないでしょうか。

 

◆今井利昭さん(静岡県観光協会・観光ツーリズムチーフコーディネーター)

 昨年、吟醸王国しずおかパイロット版を観て大感動してさっそく会員になりました。もともと入院したとき以外、一日たりともアルコールを胃に入れない日はないという呑ん兵衛で、さまざまなアルコールを飲みますが、最後に落ち着くのは日本酒です。

 今は、富士山静岡空港が開港し、国内就航先の札幌、沖縄、福岡、小松、熊本、鹿児島のみなさんをいかにして静岡へお迎えするかという仕事をしています。就航先の皆さんには静岡を代表する酒を必ず紹介しています。旅に来ると、酒嫌いの人も、地元の味や酒を必ず求めるんですね。ですから、われわれが薦め上手にならなきゃならない。

 静岡の人はどうも地元の良さを積極的に熱く語らないですね。静岡市でいえば「静岡市内に観光に行くような場所はないよ」から始まっちゃう。何も特定の観光地じゃなくても、お茶やお酒の話を3時間でも4時間でも語れる、そういう人が遠来の客をもてなすのが大事なんです。

 就航先での販促活動では地酒はもちろん、静岡を代表する味覚を必ずふるまいます。よくよく見ると、いい酒から順番にカラになる。ちゃんと伝わるんですね、いいものは。蔵元の方もそういう場にぜひ参加していただき、消費者の目を意識していただければと思います。

 塚本さんが教えてくれた東京の酒通のデータは地元ではなかなかピンときませんが、いずれにしても地元の人間がしっかり地酒を愛し、遠来客に熱く語り、薦め上手になるのが大事だと思います。

 

◆小島康平さん(小島茶店・静岡市葵区)

 酒は強くないんですが日本酒が好きで、白隠正宗を呑んだとき、非常にでしゃばらず、ずーっと長く飲んで語り合える酒だなと思いました。帰り際にどうもお世話になりましたと言って持って帰りたくなるようなお酒でした(笑)。

 塚本さんの、静岡の酒が東京では高い評価をもらっている、それもいろいろな努力を積み重ね、いいものを創ろうと切磋琢磨した結果だというお話が印象的でした。お茶の業界も酒と同じで、年々厳しい状況にあります。そういう中で、静岡の茶をなんとかテイクオフさせたいと思っています。静岡、川根、天竜など全国的に見ても優秀な産地であることは間違いないので、作り手の思いに、われわれの思いを付け加え、伝えなければと。潜在的な力は必ずあると信じています。

 酒の消費者の立場で思うのは、日本酒が売れないと言っているのに、メーカーはどうして醸造アルコール添加したようなものを造るんでしょうか。私の思いこみかもしれませんが、アル添した酒を飲むとどうも頭が痛くなる。ですから私は純米酒しか飲まない。飲みに行って純米酒がなければビールしか飲まない。純米酒で低価格の買いやすい酒があるとうれしいですね。あと、吟醸系は必ず冷酒じゃないと出してもらえない。常温でだらしなくベロベロと飲めるうまい吟醸酒はないんですかね?

 

◆三宅重光さん(会社員・東京都)

 私は今まで洋酒やカクテルを好んでいたので、日本酒を好きになって日が浅いんですが、さきほど日本酒がコミュニケーションツールだというお話。バーでカクテルを飲むときは、隣の客と話したりワイワイやるなんてことはなく、マスターやバーテンダーとの会話を楽しむくらい。他の客とマスターを取り合うみたいなところもあります。その点、日本酒は知らない客同士も仲良くなれるのがいいですね。

 私の周辺には「純米酒」信仰の友人が多く、詳しくない身では純米こそが正当な日本酒だと信じ込まされていました。先日、アルコール添加した静岡の吟醸酒を飲んだとき、あぁ、美味しいなぁと心から実感しました。静岡の酒をあれこれ飲んでも、失礼な言い方かもしれませんが、「ハズレ」がない。わけ隔てなく飲めると思います。

 

◆佐藤隆司さん(浜松地酒倶楽部)

 アル添酒はダメだという思いこみは、アルコール添加がかつての三増酒の悪いイメージから来ているんでしょう。実際、今、使われる醸造アルコールは、味を整えるという意味で添加しています。純米酒は糖が残りやすいので、モノによってはすっきりしない、重い酒もあって、それをスッキリきれよく飲みやすくするという効果もあります。

 私はどちらかというと、アル添酒が好きですね。もともと静岡県の酒は全体的にキレがいいのですっきり後味良く、料理と合わせやすいのですが、アル添酒はとくに料理の後味をきれいにしてくれる。自分の会ではそのことを強く訴えています。

 さきほど高嶋さんが「酒育」とおっしゃっていました。我が家の裏に、県茶業試験場の場長を務められた小泊先生が住んでおられ、先生から「お茶というのは習慣性があるので、子どもの頃からちゃんとお茶を飲んでいないと大人になって飲まなくなる」と聞きました。先生は、学校給食では牛乳しか出されないのを憂慮され、週に1回はお茶を出すようお願いしたそうです。お酒もそうですね。日本人の酒離れの第一の理由は、若者が安酒でまずいイメージを植え付けられたせいです。日本の酒は日本の食文化の中で生まれてきたものだから、日本人の味覚に合わないはずがない。若者にいい日本酒と出会える仕掛けを考える必要性は、大いにあると思います。

 

◆杉井均乃介さん(「杉錦」蔵元杜氏・藤枝市)

 アル添酒を飲むと頭が痛くなるという話はよく聞きます。では添加する醸造アルコールとは何かといえば、サトウキビなどを原料にした純度の高い蒸留酒のこと。梅酒やチューハイを造るホワイトリカーなんですね。ですからアル添酒を飲んで頭が痛くなる人は、梅酒は飲めないはず。あれはむしろ健康にいいと思って飲んでいるんじゃないですか?ようするにイメージの問題なんですね。

 では蔵元はなぜアル添酒を造るのかといえば、醸造アルコール添加は、最初は戦中戦後、米不足の時代に確立された技術です。今でもなくならないのは経済的にコストを下げるという意味もありますが、大吟醸のような酒にも使われます。全国新酒鑑評会に出品される酒の98%はアル添酒で、私は今年純米酒で出品して入賞出来ませんでした(苦笑)。アル添酒じゃないとなかなか金賞が取れないんですね。

 なぜかといえばアル添すれば味が軽やかになるから。吟醸香もアル添することで引き出される効果があります。それがいいかといえば、私自身は多少異論がありますが、アル添すればきれいで飲みやすい酒になるのは事実です。純米酒とアル添酒を比べたとき、きれいな酒イコールいい酒という評価をされる以上は、純米酒のシェアは伸びていかないでしょう。事実、純米酒は全日本酒の15%ぐらいしか造られません。

 純米酒が増えていくには、一般の人の評価や尺度が変わらなければと思います。我々は純米酒を造るときは、アル添した吟醸酒のようなきれいな酒に近づけるよう、原料米の精白歩合を上げて造っています。純米酒を安く売るには、米をあまり精米せずに造るしかありませんが、そういう酒は味も濃く重たくなる。それを消費者がよしとしてくれるかどうかです。同じ精白歩合の低い酒なら、本醸造のほうがすっきりして飲みやすくなる。どちらがおいしかどうか消費者の尺度にかかってくると思います。

 ちなみに静岡県では純米吟醸のカテゴリーが伸びていますので、県内各社はそちらに力を入れています。

 

◆荒川恵理さん(会社員・富士市)

 以前、富士高砂酒造に見学に行った時、搾った酒粕をもう一度搾って蒸留し、それを醸造アルコールとして添加したり焼酎にしていると聞きました。添加する醸造アルコール自体がどういうものか、ラベルに書いてあればいいのに、と思います。消費者と生産者との信頼というところにかかわってくるのではないでしょうか。野菜やコメと同じじゃないですか?

 

◆久留聡さん(家具職人・藤枝市)

 僕はここ最近、日本酒がおいしいと気付き始めた人間なので、素人の目で云わせてもらうと、醸造アルコール添加酒が頭が痛くなるというのはそのとおりなんです。味覚って記憶なんですね。小さい頃からファストフードばかり食べていたら、それが最高に美味しいと思ってしまう。ようするに慣れです。学生の頃、日本酒を飲んで大変な思いをして日本酒が嫌いになったんですが、藤枝に引っ越してきて初亀を結婚式で飲んだ時は、目からウロコが落ちました。町内会なんかでふだん飲む静岡の酒はどれも美味しい。

 僕が日本酒嫌いだったのは、学生の頃飲んだアル添酒の記憶なんです。先ほど言われたようなことを、どう教育していくかはすごく大事だと思います。そういう素人はたくさんいるだろうし、軽く時々飲むような人には、内緒で美味しいものを飲んでもらう。そういうしかけを考えるのが大事だと思います。

 

◆中村悦子さん(英語通訳・ビジネスコンサルタント・東京都)

 私は浜松出身で生まれも育ちも日本なんですが、やはり大学の頃の苦い思いがあって日本酒にはあまりいいイメージは持っていませんでした。海外に出たとき、吟醸酒ブームがあって、帰国して静岡のある銘柄を飲んだとき、心から感動しました。それがきっかけでいろいろなご縁に恵まれ、日本酒にすっかり魅了され、アメリカ人の夫もハマっています。

 夫が属する学会で、この112122日にグランシップで1400名ほど全国の語学教育にかかわる方と海外の学者が集まります。その場でぜひ静岡の酒を紹介しようと、夫と企んでいます。食べものはもちろんですが、静岡の産物といえば日本酒が本当に素晴らしい。鈴木さんが作っておられる〈吟醸王国しずおか〉の映像も昨年東京で見せてもらって刺激をいただきました。

 海外の方のみならず、日本人でも、日本酒には興味はあっても入口が分からないという人が多いと思います。日本酒は今、世界からとても注目されています。出会いのきっかけとなる場所づくり、人に感動を与える場の提供が必要ではないでしょうか。

 

◆R.G.Martineauさん(Shizuoka Sake Worldpress・静岡市葵区)

 観光協会の人に言いたいのですが、静岡駅を降りても、静岡の酒や食が楽しめる場所を教えてくれるところがない。1400人も外国人が来て、静岡駅に着いて、どこに行ったらいいですか? 静岡の新聞社や雑誌社の人も情報をちゃんと発信してほしい。

 

◆鈴木真弓

 昔、静岡県酒造組合に、静岡駅構内に静岡の酒を飲ませる立ち飲みバーみたいなものを作ってほしいと要望し、そんなものを作ったら酔っ払いのたまり場になると、けんもほろろに却下されたことがあります(苦笑)。最近になってようやく、静岡駅の地下にお茶を飲ませる店ができたり、東京駅にははせがわ酒店さんがおしゃれな吟醸バーを出店して注目されるようになりました。  静岡の酒の情報が欲しい、飲める店・買える店を紹介してほしい、一緒にイベントをやってほしいという声は本当に多くて、相談するところがないからと、私のような者のところにもいろいろな方が声をかけてこられますが、私ひとりでは対応しきれません。現在の酒造組合は外からのそういうニーズに応える体制になっていないので、ぜひ多くの方が声を上げて訴えてほしいし、観光協会のような大きな組織から圧力をかけてほしいとも思います。

 

 

 この後、『吟醸王国しずおかパイロット版09バージョン』を見ていただき、結局終わったのは19時30分でした。3時間半、最後まで残って片付けまでしてくださったみなさま、2次会までおつきあいいただいたみなさま、本当にありがとうございました。