杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

福岡出張その2~博多てくてく旅

2009-11-02 19:38:44 | ニュービジネス協議会

 10月30日(金)は帰りの飛行機が福岡発18:05だったので、日中は福岡市内をブラブラ歩きしました。

 

 前夜、書店で見つけたガイドマップを参考に、最初に向かったのは生(いき)Imgp1591 の松原。玄界灘を望む白砂青松の海岸で、朝の散歩に最適だと考えたのでした。またここは歴史ファンとしても見逃せないポイント。鎌倉時代に元の襲来を受けた際、博多湾に沿って約20キロメートルも築いたとされる防塁跡(復元)があります。

 日本を攻めたのは当時中国を支配していたモンゴル族の王朝・元の皇帝フビライ・カーン。当時、マルコポーロがシルクロードを通ってやってきて、フビライに可愛がられたんですよね。日本を黄金の国ジパングとか言って。10代のころ、ちょうどNHKで『シルクロード』と、マルコポーロのアニメをやっていて、このあたりの歴史や世界観に魅了され、いろんな本を読み漁ったっけ・・・。

 

 10代の頃の、セーラー服を着ていた純情可憐な文学少女(笑)の自分を思い出し、頭の中でいろんな空想や妄想をめぐらせていた歴史の舞台に、40代半ばを過ぎて初めて訪ねるというのは、それなりに感慨深いものもありましたが、今とは比べ物にならないほど、スポンジみたいにいろんなものを吸収し、頭を柔軟に働かせていたセーラー服当時の自分に、嫉妬感さえ湧いてきます。元寇のような理不尽な侵攻には、当然、防塁が必要ですが、自分自身の内側に障壁を作ってしまっては、脳や肉体の細胞は凝り固まってしまいますね。・・・朝のジョギングや犬の散歩をする通りすがりの住民から「おはようございます」と声をかけられ、あ…今のワタシ、自分で壁を作っていたと気付かされました。黒づくめのビジネスパンツスーツに革靴&ビジネスカバン姿だったので、無意識に自分でヨソモン意識に嵌っていたようです。

Imgp1602   ・・・復元とはいえ元寇防塁跡の前に立つと、ここはただの海岸じゃない、鎌倉武士とモンゴル族が戦った800年前の古戦場なんだ、30年前に自分が夢中になって読んだ物語の正真正銘の舞台なんだとじわじわ迫ってきます。ちょっと息苦しくなって、きれいに整備された海岸の岩場に腰をおろし、スーツの上着を脱いで背伸びをし、目の前に浮かぶ能古島や糸島半島をボーっと眺め、しばし休息。

 

 

 

 朝の潮風を気持ちよく浴びたあと、海岸に沿って続く唐津街道に出て東に向かいました。唐津街道というのは邪馬台国の時代から人々が往来し、秀吉が朝鮮侵攻したときも多くの武将が通り、幕末には高杉晋作や西郷隆盛も歩いた歴史ファンには見逃せない街道です。地図好きの私としてはじっくり歩いてみたい道の一つでしたが、今回初めて歩いてみて、国道1号線と併用された東海道みたいに、歩きにくい自動車道と車じゃ通りにくい生活道路が混在することがわかり、時代は変われども人々に必要とされる大事な道なんだと実感しました。

 

 とりあえず、生の松原の入口だったJR下山門駅から、2駅東の地下鉄室見駅まで歩こうと、街道てくてく旅をスタート。・・・時計を見ると10時30分でしたが、朝、コーヒーと野菜ジュースしか胃に入れていなかったのでお腹がグー。トイレにも行きたくなり、ちょうど通りにあった24時間営業の博多ラーメン『一蘭』というお店に入りました。入ってみたらビックリ。カウンターが一席ずつ、選挙の投票所みたいに仕切られていて、目の前のカウンターにも仕切りがあって、店員さんの顔が見えない・・・。投票アンケートみたいなオーダー紙に麺の硬さ、こってり度、ネギの量、チャーシューの有無などを記入し、呼び出しボタンを押して紙を差し出します。

 初めての客にはスタンダードがわからないから書きようがないじゃんと戸惑いつつも、こってり度=超こってりとか、麺の硬さ=超やわ、なんて選んだらどんなラーメンが出てくるのか想像すると面白くなってきます。なんでも“世界初の味集中カウンター方式”で、周囲の雰囲気に一切邪魔されずに、ラーメン1杯に集中してもらうためだそうです。

 店主と会話を楽しんだり、他のお客さんをウォッチングするのが好きな私にはとても落ち着けない作りですが、これはこれでラーメン好きの支持があるんでしょうね・・・。味のほうは、オーダー用紙の項目ほとんどを「基本」でオーダーしたせいか、わりとフツウでした(苦笑)。

 

 

 

 唐津街道を東へ進むと、ありました、やっぱり歴史街道だけあっImgp1607て古いお寺や神社が。

 まずは、元と戦った時の執権・北条時宗が創建した興徳寺。禅僧としては初めて国師の称号をいただいた大応国師が開山。庭をぐるっと観ただけで、本堂には入れなかったけど、禅宗らしい落ち着いたたたずまいでした。

 

 

 次いで、天平時代に創建されたという住吉神社。海運厄除け、海上安全、交通安全、厄除け、安産、商売繁盛のご利益があります。4年前の福岡西方沖地震の際、大きな被害を受けImgp1610たそうですが、地震発生の1ヶ月後に宮司が『クイズ・ミリオネラ』に出演して全問正解を果たし、1000万円の賞金を修復に充てたのです。縁起のよさを自ら証明して見せたわけですね…!

 

 

 

 姪浜宿に続く商店街を進むと、右側に蔵造りの味噌屋さんを発見。ちょうど冷蔵庫の味噌が切れかかっていたから買ってこ、と何気なく入ったら、奥に古Imgp1611 い木樽が見え、おくさんに「醸造元ですか?」と訊いたら、「主人が亡くなって、今残っている味噌を売りきったら廃業するんですよ」とのこと。もったいないなぁ、とつぶやいたら、「奥を見ますか?昔は造り酒屋だったんですよ」とおくさん。ありゃりゃ、私ってどーしてこうもカンタンに酒にお呼ばれしちゃうんだろうと苦笑いしながら、仕込み蔵の中を案内してもらいました。

 

 聞けば、この姪浜一帯は屋根瓦の町屋が軒を連ね、ここマイヅル味噌は数少ない蔵造りの町家。国の登録有形文化財に指定されたそうです。今ではパン職人の息子さんが一角でパン屋を営み、蔵ではコンサートやギャラリートーImgp1615 ク等が開かれるなど、町の寄り合い場になっているとか。来る11月14日~21日には、『博多っ子純情』でおなじみ漫画家の長谷川法世さんの作品展が開かれ、14日14時からはトークショーも予定されています。…私は行けそうにありませんが、もしこの時期福岡へ行く予定がある方は、ぜひ立ち寄ってみてくださいね!(問い合わせ=唐津街道姪浜まちづくり協議会・大塚さんottu-masa@iwk.bbiq.jp マイヅル味噌・白水さん TEL092-881-0413)

 

 

 

 地下鉄空港線・姪浜駅の次の室見駅まで歩いていくうちに、(革靴のせいか)早くも足が疲れ、天神・博多駅方面行きのバスが通りかかったので飛び乗ってしまいました。

 

 

 博多どんたくや祇園山笠ゆかりの櫛田神社を見てみようと、運転手さんに聞いて最寄りのバス停・博多中洲川端で降りたら、目の前にアジア美術館が。同じビルの1階でプロの写真家たち13名の森づくりメッセージ&チャリティー写真展“TOUCH WOOD”の看板を見つけ、立ち寄りました。思いがけず、広告写真の第一人者・広川泰士さんやフォトジャーナリスト森住卓さんの作品に出会い、すごーく得した気分になりました。

 

 

 

 昭和の雰囲気が残るアーケード街の川端商店街を進み、昔ながらのフルーImgp1622 ツ&八百屋店で店頭売りしていた手作りミックスジュースで喉をうるおし、櫛田神社へ。ちょうど観光ツアーのおばさま一行とかちあって、境内は大賑わいでした。その隣の町家を改装した物産館『博多町家ふるさと館』ものぞいてみましたが、入館有料と聞いてパス(苦笑)。歩いて数分のところにある、ショッピングモール『キャナルシティ博多』をのぞいてみました。

 

 

 ちょっと前、夕方の情報番組でキャナルシティ博多のラーメンスタジアムを観たことがあり、『初代だるま』という有名店を紹介していたので、『一蘭』とどう違うのか試してみようと思ったら、『初代だるま』だけ大行列。並ぼうかどうか迷っているうちに、フロア一帯に立ち込める獣臭のような匂いが耐えられなくなり、引き上げてしまいました。いろんな店のスープだしの匂いがミックスしたような、バックヤードから漂ってくるような匂いがなんとも・・・。以前、台湾の屋台街でも同じような匂いにやられたことがあります。とんこつスープは嫌いじゃありませんが・・・。

 

 

 

 キャナルシティ博多では結局、足揉み店に入って30分の昼寝をしただけで、大通りに出て、『かろのうろん』という老舗っぽいうどん屋さんに入って、胃に優しそうな卵とじうどんをいただきました。このうどん、麺もしこしこ歯ごたえのある手打ちで、スープは上品な昆布だし。全部飲み干したくなるほどの美味しさ! やっぱり日本人のだしはかつお&昆布に限る!と納得したのでした。

 

 

 

 疲労回復したところで、ふたたびてくてく歩きをし、博多駅近くの承天禅寺を訪ねました。静岡―福岡線利用者なら一度は訪ねておきたい、静岡市出身の聖一国師が開いた禅寺です。

Imgp1629  京都のように拝観料を払えば誰でも見られるシステムではなく、基本的には檀家さんしか中に入れないみたいですが、「静岡から来た」といえば入れてくれるかも、と半ば強引に寺務所を訪ねたら、「どうぞおまいりください」とあっさり。本堂前に広がる枯山水の石庭にしばし見入りました。

 時折、檀家さんらしい人が墓地のほうへ行き交うのが見えるぐらいで、駅前とは思えない静けさ。博多という町には、鎌倉武士に支持された禅宗文化が息づいていることをしかと確認できました。

 

 

 

 てくてく歩きのフィニッシュは、やっぱり酒蔵。承天禅寺かImgp1630ら歩いて10分ほど、福岡市内唯一の造り酒屋・石蔵酒造を訪ねました。街中の酒蔵らしく、完全に観光蔵になっていて、静岡でいえば浜松の天神蔵(浜松酒造)のように、 蔵造りを活かしたショップやレストランが整備されていました。銘柄は『如水』。吟醸、純米、原酒、しぼりたて、梅酒、甘酒の6種が店頭で試飲できます。全部試飲しようと意気込んだはいいけど、途中で「やば、静岡に着いたら空港から運転して帰らなきゃならなかったんだ」と気づき、ごっくん飲み干すのは甘酒だけで我慢しました(苦笑)。

 

 

Imgp1633  博多駅に戻り、地下鉄に乗って空港へ。駅のプラットホームでJALの静岡便広告を見つけました。…これで見おさめかも、と思い、記念に1枚パチリ。

 

 

 

 17時すぎに福岡空港へ着き、搭乗ゲートが開くまで展望室で飛行機の離発着をぼんやり眺めました。夕陽が落ちるマジックアワーの瞬間、飛び立つ飛行機の雄姿は絵画のように美しく、滑走路という舞台で着陸機と主役の座を交互に入れ替える構図は、機能的でもあり、人間的でもありました。

 

Imgp1639  

 

 搭乗機は滑走路から直接乗り込むスタイルで、機体のすぐそばから乗れるとあって、さかんにカメラのシャッターを切る観光客がいます。福岡でJALに乗って静岡へ帰るのはこれが最初で最後になるかも、と思うと、私も記念に1枚。・・・満席の機内には観光ツアーのおじさま&おばさまたちがハバを利かせていましたが、景気が上向かずビジネスユースが期待できないうちは、こういう中高年の観光客こそ搭乗率UPの要だ、大事にせねば、と、なんだか空港職員みたいな気分になりました(苦笑)。