このところ毎週のように遠出をしています。ふだんは部屋に閉じこもって原稿を書く地味な暮らしをしているせいか、知らない町を探るときは五感全身をフル稼働するので、かえってストレス解消になるみたいです。帰ってくるとドッと疲れますけど(苦笑)。
今週はお天気とにらめっこしながら、晴天に恵まれた3日と6日、2日間にわたって真鶴町を取材しました。東京新聞購読者紙『暮らすめいと』1月号の仕事です。
真鶴町には、10数年前、中川一政美術館を訊ねて以来。町をじっくり見るのは初めてです。紹介する記事が、“東京からローカル線を使った日帰り旅”なので、自分も同じ条件で移動してみようと、まず3日は静岡からJR東海道線に乗って、熱海で乗り換え、つごう1時間50分弱の電車旅。11時前に真鶴駅に着き、駅前の観光案内所でマップをもらって港方面にブラブラ歩きをスタートしました。
まず駅前通り沿いで美味しそうな鮮魚や干物やお総菜が並ぶ二藤商店という魚屋さんを見つけました。こういう店がふだん近所にあったら幸せだろうなぁ~と思いつつ、いきなりここで生モノを買ってしまっては荷になるとあきらめ(帰宅後、ネットで調べたら、ここの『あじの押し寿司』が人気だと知って、ありゃ~、押し寿司なら買って持っていってもよかった~と後悔しました)、そのまま通り沿いに進み、大道商店街を抜けると、コミュニティ真鶴という表札のレトロ なお屋敷を発見。名前から想像して公民館みたいな施設のようですが、祝日のせいか閉まっていて中に入ることはできませんでした。観光マップには「真鶴の“美の基準“モデルハウス」と紹介されていました。
小学生下というバス停のすぐ横に、海に向かって下る階段や路地が続いていて、幹線道路より歩きやすそう!とそちらへ。昭和のまんま時間が止まった ような静かな路地から西仲商店街という小さな通りへ。途中で酒屋さんを見つけ、つい癖で「地酒は売ってますか~?」と訊ね、「小田原の酒なら1種類だけ置いてあるけど…このへんには酒蔵がないからねぇ」とご主人。田んぼがなさそうな町だから造り酒屋がないのも道理だとあきらめ、美味しい魚と地酒が味わえそうな飲食店を訊ねるも、「港のほうへ行けば何軒かあるよ、店の外にメニュー看板が置いてある店なら値段がわかって安心だよ」とのお応え。・・・酒屋さんというのは町内の事情通なんだから、もうちょっと各店の特徴を説明するとか、その町の美味しい情報の案内役・整理役になれるのにモッタイナイなぁと思いつつ、ここで酒屋商売について云々と講釈しても仕方ないと、とにかく港方面に向かいました。
港に着いたら、釣り客でにぎわっていました。休日らしいのんびりとした空気が漂い、こちらも仕事で来ていることを忘れて大きく背伸びをし、しばし休憩。 港のすぐそばでひもの専門高橋水産本店という看板を見つけ、入ってみると、店頭で七輪を使って試食用の干物を焼いています。旨そうだなぁとモノ欲しそうに眺めていると、中から若旦那さんらしき人が出てきて、「試食してみてください」と気さくに声をかけてくれました。
七輪に乗っていたのは、『塩うずめ』と『さんまの干物』。うずめとは西相地方でソウダガツオのことを指し、秋に獲れたカツオを塩漬けにし、お正月用に保存していたという伝統食だそうです。見た目以上に塩っ辛くて、「これはお酒が進むなぁ~」と一人で唸り、若旦那に笑われてしまいました。
さんまはみりん干しと塩干しの2種類あって、今年は例のエチゼンクラゲの影響か、漁が少なく、干物にする量も少なくて、とても貴重な干物だそうです。いずれにしても、試食させてもらったみりん干しは、やっぱり鮮度のいいさんまを使っているせいか身がふっくらしていて、さんまらしい味もしっかり残っていて、「うん、これはご飯がすすむ!」と大納得。試食もGOOで、若旦那の応対がとても爽やかだったので、こちらの身分を明かし、紙面に取り上げさせてくださいとお願いしました。
真鶴港が一望できる魚市場。2階には大水槽で泳ぐ魚が見学できたり、獲れたての魚料理が味わえる『真鶴魚座』という町営観光施設が併設されていま す。ここで昼食をとろうかと思ったら、やっぱり休日のせいか大変な混雑。外まで行列してました。市場駐車場に沿って建つ長屋の丼店や定食屋さんも、混雑していました。
町営施設なら放っておいても客は集まるだろうから、できれば民営で頑張っているお店を紹介したいと思いなおし、周辺の魚料理店を何軒か物色し、市場から少し離れたところにある磯料理店に入りました。
お昼時なのに、お客さんは一組だけ。メニューを見ると3000円以内で食べられるのはアジのたたき定食、焼魚定食、刺身定食の3種類ぐらいで、あとは豪華船盛りやコース料理など高級料亭なみのメニューばかり。…気軽にランチする店じゃなかったと後悔しましたが、キャンセルするわけにもいかず、とりあえず焼魚定食をオーダー。「魚は何ですか?」と訊くも、女性店員さんは「さぁ~、何かしら、奥に聞いてみましょうか?」。答えを待ったところでキャンセルしようがないので、「いいです」と制して待ちました。
・・・見たところは私のほかに1組しかいないのに、30分経っても出てきません。2階に宴会でも入っているのかとイラつきはじめたころ、店の主人と思われる白衣の年配男性が「今日はエボ鯛とブリのかまが入りましたので」と運んできました。・・・まさか焼魚定食を頼んでブリかまが出てくるとは!と仰天。じっくり時間をかけて上品に焼き上げたかまは、素材のブリが新鮮で脂も乗ってい たせいか、身がふっくらジューシ ーで、ブリがこんなに美味しい魚だったとは、と目からうろこ状態でした。エボ鯛も身が厚くてホクホク。炊きたてのご飯に磯の風味満点の味噌汁、もずくが付いて2100円。この内容ならお高くないとナットクでした。
もうひと組の熟年夫婦組は、だんなさんが刺身定食、おくさんが焼魚定食をいただいていて、だんなさんは「うん、魚は(ふだん食べる刺身よりも鮮度や味が)ぜんぜん違うな」と満足そうに唸っていました。
・・・他の店を何軒も試したわけではありませんが、たぶん市場周辺にある磯料理店は、料理で勝負できる、都会の店との差別化ができるため、店のサービスとかホスピタリティに気を配る必要もなく、ここまで来てしまっているのではと思います。
今の観光客は無知ではありませんから、いろんな情報を収集し、美味しいものを少しでも安く、気軽に、楽しみながら味わえる場所を探します。周辺店が閑散としていて、市場の町営施設が大混雑していたのを見ると一目瞭然です。いただいたエボ鯛やブリかまが絶品だっただけに、これをもっと気軽に大勢の人が楽しめる方法はないのかなぁと口惜しく思いました。・・・難しいことではありません。人として、ちょっとしたもてなし方や気配りがあるかないか、なんですよね。あのときも店員さんが即座にひとこと「今日はブリのかまが入ったので少し時間がかかりますが、お待ちください」と言ってくれれば大分印象が変わったし、楽しく待てたのにね・・・。
昼食後は岬の写真を撮るため、遊覧船に乗って30分のクルージング体験です。海は結構波立っていましたが、初日の出の名所として名高い景勝三ツ石を、海から間近に見られ、岩に当ってくだける波しぶきも迫力がありました。・・・こういう景色を楽しむには、寒いけど冬のほうがクリアで迫力あるなぁと実感します。
船から降りたら、ちょうど岬先端まで行くバスが来ていたので、それに飛び乗 って、今度は陸から三ツ石に迫ってみました。ゴツゴツした海岸はヒールのある靴では歩けませんので、ここに来る時はぜひ動きやすい格好&スニーカーで!
海岸周辺の散策でひと汗かいた後は、真鶴半島原生林の一角にある中川一政美術館を訪問。以前訪ねたときには記憶になかった隣接のお林展望公 園や、その一角に中川画伯のアトリエが再現された施設など、見どころポイントも豊富です。駅前で『あじの押し寿司』やお総菜類を買って、この展望公園で食べるのもいいなぁ~と思いました。
バスで真鶴駅まで戻り、『暮らすめいと』の旅コーナーでは不可欠の日帰り温泉スポットを体験取材です。真鶴町のお隣・湯河原町に、真鶴駅前からコミュニティバスで20分ぐらいで行ける日帰り温泉施設があり、バスを探そうと思ったら、平日のみの運転とわかり、ガッカリ。やむなくタクシーで向かいました。外観は和風旅館のような落ち着いたたたずまいで、雰囲気よさそう。ところが休日のせいか内部は大変な混雑で、脱衣場も浴場も日帰り温泉施設にしては狭くて窮屈で、蛇口シャワーコーナーも順番待ち。露天風呂のレイアウトはなかなかよかったのですが、とにかく人が多く、イモ洗い状態で、とてもゆったり温泉気分は味わえず、早々に出てきてしまいました。
帰りのタクシー運転手に、「今の温泉、ちっとも温泉気分になれなかった、湯河原には他に日帰り入浴できるところないですか?」と訊いたところ、奥湯河原に町営の日帰り温泉施設があるとのこと。湯河原駅からバスで15分ぐらいだが、休日もバスの本数はたくさんあるからと勧められ、タクシーで湯河原駅まで行ってもらい、ちょうど駅前にとまっていた奥湯河原行きのバスに飛び乗 って、町営温泉『こごめの湯』へ。こごめって珍しい言葉だと思ったら、湯河原温泉はもともと鎌倉時代には「こごめの湯」と呼ばれ、室町時代には「こごみの湯」、江戸時代には「小梅の湯」と呼ばれた歴史があるそうです。奥地にひそむ秘湯という意味と、“子込め=子を産める=子宝に恵まれる”という語呂合わせもあるとか。温泉らしい、いい名前ですよね。
さっきの温泉と違って、ここは脱衣場も浴場も広々としていて、40畳の無料休憩室も整っています。泉質そのものは差がありませんが、やっぱり脱衣場が広くて使いやすいのは女性にとってポイント高いですよね。
温泉をはしごして、すっかり暗くなってしまって、この日は取材終了。初めての町で、移動手段や移動時間を確認しながらの取材ですから、やっぱり観光パンフやネット情報のうのみでは記事にならないし、1日じゃ無理。昨日(6日)、今度は車で真鶴入りし、補足取材を行いました。『暮らすめいと』紙面で実際にどんな場所を取り上げるかは、来月中旬の発行をお待ちくださいね!
なお、同紙は首都圏の東京新聞購読者しかご覧いただけませんので、興味のある方は鈴木までご一報ください。鈴木の取材記事の掲載号を進呈します。ちなみに今月中旬発行号では、「日本酒特集」を担当しています。