杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

農の本質、書く本質

2009-11-17 10:55:21 | NPO

 前回の記事で杉井酒造さんが手掛けた焼酎のことを紹介したところ、「とどのいも子」で検索する人だけが異様に増え、何かあるのかなぁと思ったら、今朝(17日)の静岡新聞朝刊24面に、とどのいも子の原料の芋を栽培する社会福祉法人ピロスさんのことがカラーでデカデカ掲載されていました。

 

 私自身はピロスさんのことも、とどのいも子のことも直接詳しくは知らなかったので(知らずに紹介してしまったことに多少の罪悪感もあったので)、とてもラッキーだったのと、杉井酒造さんの地道な取り組みや、福祉現場で汗を流す人々の苦労にこうしてスポットが当たることが無性に嬉しかった。やっぱり新聞の情報発信力はハンパじゃないですからね。フリーライターの私的日記ブログなんぞ足のツメの垢にも及びません。

 

 ・・・ただこういうニュースの発信に多少なりとも関われたことは、とても幸せだなと思います。ふだんコピーライターとして企業や団体の広告制作に携わっていると、クリエイティブなものを要求されるのに(下請ゆえに)大きな機械の部品の一つにすぎず、その“機械”が結局どんな効果を生み、消費者にこちらが意図したメッセージが届いているのかどうかもわからず終いだからです。結局自分は一匹狼なので、大きな組織に対峙し部品として飲みこまれるよりも、相手の顔や考えがよくわかる対象―どちらかというとその人も組織に組み込まれるより、一匹狼で世間とバトルしながらも渡り合う、そんな相手と向き合っているほうが性に合うようです。

 杉井さんやピロスさんがそうだというわけではありませんが、世間が関心を持たない、関心があってもなかなか行動に起こせない領域で一生懸命努力する人々を応援したい、と改めて思いました。

 

 

 一昨日(15日)は安東米店さんが主催するカミアカリドリーム勉強会に参加しました。

Imgp1693  カミアカリというのはご存知の方も多いと思いますが、喜久醉松下米でおなじみ藤枝市の稲作農家松下明弘さんが開発した玄米食専用巨大胚芽米です。詳しいことは安東米店さんのホームページをご覧いただくとして、カミアカリは現在、静岡藤枝の松下さん、栃木奥久慈の大久保さん、福島会津の菅井さんの3名が栽培に取り組み、来年から山形湯沢の斎藤さんが加わります。

 “変人”松下明弘が作った稲だけに、誰もが簡単に作れる品種じゃないだろうことは素人にも想像できますが、それ以上に、農の本質に真正面から対峙した米作り職人たちの思いがなければカミアカリは育たない。・・・まるで稲が作り手を選ぶような米のようです。

 

 

 

 日本の農業は食糧増産の時代、米ならコシヒカリ、お茶ならヤブキタ、りんごは紅玉、なしは二十世紀というように代表的な推奨品種をみんなこぞって作って、栽培技術の向上や大量流通の仕組みを築いてきました。それはそれで時代が必要とした農の在り方だったと思います。

 

 

 今は量から質へとニーズが変わり、アルコールの世界だって日本酒しかなかった時代から、多種多様な酒が流通する時代になり、今や日本酒の消費シェアは1割以下。そんな小市場になってしまった中で、大手銘柄一辺倒ではなく全国の多種多様な地酒がしのぎを削り合っています。杉井さんのように、地域の小さなニーズにもきめ細かく対応する“御用聞き”のような酒蔵も現れました。小市場には小市場なりの知恵や創意工夫が必要なわけです。

 

 

 

 酒造家よりも危機感が薄い?と思われる農家の中にも、海外経験のある人や、異業種から参入してきた人には、“みんなこぞっておんなじやり方”に違和感を覚え、独自の取り組みを始めた人が現れ始めました。

Imgp1697  15日の勉強会のゲスト講師・平野正俊さんは、まさにそのパイオニアのお一人。掛川市でキウイフルーツカントリーJAPANという世界に通じる体験学習農園と、キウイ新品種を続々と生み出す創造農業を実践される方です。過去、何度となく取材でお世話になった平野さんと松下さんが一緒に語り合うということで、締切過ぎの原稿をほったらかして、はせ参じたのでした。

 

 

 「僕は小学生のころから近所では有名な“行方不明児”で、ロビンソンクルーソーに憧れ、未知の土地を一人で放浪してきた。高知の桂浜に辿り着いたとき、坂本龍馬に倣って“これからは世界だ”と決心してアメリカで2年農業修行をした」と楽しそうに語る平野さん。

 父の茶園の一部を潰してキウイ栽培を始め、30歳の時に父をがんで亡くした後は収入源の茶畑を売り払ってしまい、周囲から呆れられたという話は、松下さんも(同じく若いころやんちゃで、30代で両親を病気で亡くしただけに)大いに共鳴したようで、「昔からこの人に会いたいと思っていたし、いつか会えると思っていた。想像通りの人だった」と感無量の顔でした。

 

 

 平野さんは日本で初めてキウイの本格栽培に成功しただけでなく、現在80Imgp1695 種余の品種を手掛けています。キウイの既存種はもともと68種ほどだったそうですから、新たにオリジナル品種を創り出しているわけです。

 

 

 素人なのでよくわかりませんが、新しい品種を創り出すのは個人農家にとっては大きなリスクと時間を要する大変な作業だと思います。でも品種を一から生み出すことによって、つまりマニュアルなしで土の育て方や肥料の作り方や蒔き方や生育経過や摘果時期など、試行錯誤を繰り返すことによって、はじめて農の本質というものを会得した…!と実感できたのではないでしょうか。この実感を持った農家と持たない農家では、おのずと生き方も変わってくるのではないかしら。

 

 先週のニュービジネス大賞選考表彰式でスポットが当たった技術系起業家たちの活動も素晴らしいと思いますが、人間の生命にかかわる食料というものを担う農業の領域で、既存の常識から抜け出し、しかも目新しいものに飛びつくだけの浮付いたやり方ではなく農の本質にしっかり根ざした仕事をしている人々や、そういう人々を下支えする安東米店のような商業者が、しかるべき評価をされる社会であってほしいと思いました。彼らは他人から評価されようがされまいが関係なく己の信じた道を進むでしょうけど…。

 

 

 平野さんは30数年前、アメリカで修業していたころ、「日本では勉強しないと百姓ぐらいにしかなれないと教育されるのに、アメリカではプロスポーツ選手や校長先生だった人が“いつかは自分の農場を持ちたい”という夢を持つほど、農業はあこがれの職業、カッコいい仕事だった。自信と誇りを持って主体的に農業に取り組む人は、自分にとって農業とは何かをしっかり考えている」ことに気付いたそうです。

 農業もそうだし、酒造業もそうでしょう。私ならば書くこととは何だろうか。…考え、悩み、それで終わらずちゃんと実践する人間でありたいと、大いに刺激をもらった勉強会でした。安東米店の長坂さん、素敵な学び&気付きの機会をくださってありがとうございました。


幻のニュービジネス大賞推薦論文

2009-11-14 19:01:31 | 地酒

 前回の記事でご紹介した静岡県ニュービジネス大賞。実は私も1件、推薦論文を提出したのです。最終審査には残れなかったので申し訳なかったのですが、改めて読み返してみて、(ちょっと未練たらしいけど)ニュービジネスの審査員のハートは射止めずとも、この内容にグッと来てくれる人が、当ブログ読者ならいるかも・・・と思い、掲載させていただこうと思います。

 論文作成にあたり、推薦させていただいた杉井酒造の杉井均乃介社長には多大なご協力と(落選による)ご迷惑をおかけしました。改めてお詫び&お礼申し上げます。

 

 

 

 

 

 

杉井酒造の地場農産物の再生と循環に貢献する、地域ブランド焼酎の多品種小ロット生産

 

 

1.  会社・事業の概要

◆会社設立年月日 天保3年(1843

◆事業の概要

日本酒・焼酎・みりんの製造販売。販売先の主力は静岡県中部(志太地域)で西部・東部地区にも販売店あり。近年の地酒人気に伴い、北海道、首都圏、名古屋圏、関西、九州地区にも販路拡大中。主力銘柄は清酒「杉錦」、みりん「飛鳥山」、焼酎「才助」。

◆従業員数 9人(うち男子5人、女子2人、パート2人)

 

 

2.  事業の特徴

    得意とする商品・サービス・ノウハウ・技術(主要特許等を含む)など

主力製品である日本酒は、静岡県内酒造会社が得意とする現代的で洗練された味わいの「吟醸酒」、全国的にも少なくなった古典的製法による「山廃」「生酛」とタイプの異なる日本酒を、社長の杉井氏自らが杜氏となって醸す。酒類の製造において、過度の合理化や大ロット生産では望む味わいが得られないと考え、小仕込みに徹している。

 

 

 

②業態・特色・業界内地位など

 

○創業以来、160年余、「亀川」「杉正宗」「杉錦」と銘柄を変えつつ一貫して酒造業を継続。戦前より全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど品質にも定評があり、戦時中多くの酒造会社が企業統合・廃業する中も独自経営を貫き、戦後、桶売り―地方の中小酒蔵の多くが灘・伏見・新潟の大手の下請けとなって未納税酒をOEM供給する時代も安易に桶売りに走らず、地元で地道に「杉錦」を製造販売し続ける。

 

 

 

○昭和50年代に静岡県が開発した「静岡酵母」によって、県内の吟醸酒造りの技術が飛躍的に向上。高コスト(高価な原料米、高度な職人技術、冷蔵管理等)を要する吟醸酒で脱桶売りの生き残りを図った。それから20年余を経て、県内の酒蔵は職人の高齢化や市場ニーズの多様化等、ふたたび経営環境の変化に直面し、体力に格差が生じ始めた。

杉井酒造では岩手県から招いていた南部杜氏の引退を機に、社長自らが杜氏となり、会社そのものを個人の裁量で製造から販売まで目が行き届くボリュームにスリム化することを決意。「吟醸酒」のほかに「山廃」「生酛」といった個性的な酒を次々に発表する。平成21年静岡県清酒鑑評会では純米の部県知事賞(首位)に輝くなど、技術レベルの高さも証明した。

自身の右腕となる若手製造社員を正規雇用し、6年前より、日本酒造りがひと段落する春から秋にかけ、新規に焼酎製造に参入。焼酎製造ではなかなか受け入れるメーカーが少なかった小ロット・高品質での委託醸造に取り組む。これまで委託を受け、製造した焼酎は以下のとおり。

ブランド

団体

地域

原料作物

富士山幻の瀧

小山町役場産業観光課ほか

小山町

蕎麦

いもおとこ

ながいずみ観光交流協会

長泉町

大和芋

玉楠


静岡県ニュービジネス大賞発表

2009-11-13 13:24:52 | ニュービジネス協議会

 昨日(12日)は浜松駅前のプレスタワーで、静岡県ニュービジネスフォーラム2009IN浜松が開かれました。(社)静岡県ニュービジネス協議会が年1回開催する公開ビジネスフォーラムで、静岡県ニュービジネス大賞の発表・表彰式も行われます。

 

 

 Dsc_0025_2ニュービジネス大賞は今年で18回目。これまで協議会の専門委員によって事前審査・発表が行われ、当日は表彰だけを行っていましたが、今年はフォーラム内で大賞候補の最終審査に残った6社がプレゼンテーションを行い、審査員がその場で審査をして大賞を決めるという方法をとりました。

 審査員も、NB協議会の鴇田勝彦会長(TOKAI会長)、酒井公夫副会長(静岡鉄道社長)のほか、奥村昭博氏(静岡県立大学経営情報学研究科長)、岡本武氏(静岡県産業部商工業局長)、鈴木庸夫氏(静岡キャピタル社長)、山村善敬氏(しずおか産業創造機構副理事長)という外部有識者にお願いし、いかにもコンテストイベントらしくて、スリリングで面白かったです!

 

 

 

 今回のニュービジネス大賞には16社の応募があり、最終審査に残ってプレゼンを行ったのは以下の6社。

 

 

 

イノベーティブ・デザイン&テクノロジー株式会社(浜松市北区都田)

 冷却塔などの循環冷却水系に付着するスケール(水垢などの汚れ)を、電解技術を用いて強力に除去する装置エレクトロライフを開発。従来の薬剤注入、磁石、弱電解などの方法よりも除去効果が飛躍的に高く、スケール除去による熱交換器の効率低下によって大きな省エネ効果が期待できる。

 

 

 

 

株式会社ヴィクトリー(三島市西若町)

 食品残さなど低温で含水率の高い廃棄物でも、連続炭化が可能な新自動炭化装置を開発。還元炭は高カロリーで燃料としてリサイクル可能。

 

 

 

 

有限会社エスビー・エブダブル(浜松市中区肴町)

 浜松市中心部に飲食店(いもくりなんきん・二十世紀酒場・風味絶佳・えびかにたこいか・DRAGON DINING・WaYoDining花壇)を展開。エリア内に多店舗展開し、店舗設計や接客サービスをはじめ、食材・従業員の店舗間移動・予約状況の把握などロスをなくす経営ノウハウをシステム化した。

 

 

 

 

西光エンジニアリング株式会社(藤枝市高柳)

 マイクロ波加熱乾燥機を開発し、水産物や食品の急速乾燥を実現。沖縄都島漁協と連携し、宮古島産乾燥モズク・半生モズクの商品開発販売を手掛け、国の農商工連携事業認定を受ける。

 

 

 

 

大日工業株式会社(静岡市清水区辻)

 業務用エアコンの電子基板づくりで培った技術を活かし、ペルチェ素子を利用した新たな冷暖房装置や、使用条件に応じたLED照明器具を開発し、CO2削減に寄与する。

 

 

 

 

グローバル静岡株式会社(静岡市清水区平川地)

 外国人とのコミュニケーションをサポートする携帯通訳サービスを開発。携帯電話にマイク内蔵の小型スピーカーをセットし、英語・中国語・韓国語は24時間対応、ポルトガル語は11時間、他の言語も予約にて対応可能。

 

 

 

 

 

 

 

Dsc_0033  審査員は6社の事業を、新規性・実現性・市場性・社会性・将来性の観点から審査し、6人の審査員が5点満点で採点。最高得点を獲得したイノベーティブ・デザイン&テクノロジーが今年度のニュービジネス大賞に、次点のエスビー・エヌダブルが特別賞となりました。

 

 

 

審査員長を務めた奥村教授からは「1位と6位では35点差があった。また各企業のプレゼンは、ニュービジネスというよりも技術発表会のようだった。技術的に優れていても市場を拓くマーケティングイノベーションの視点が必要。先進技術もやがて後発企業との競争を余儀なくされるのだから、開発以降の、市場での地位を確立するためのビジネスモデル的な話も聞きたかった」と、やや辛口の講評をいただきました。

 

 

 

 

 

 私には大賞受賞のイノベーション~さんの話は難しすぎて、環境にいい技術Dsc_0069 なんだなぁぐらいしか理解できず、これがダントツの高得点だったというのがピンときませんでした。

 次点のエスビー~さんも、実際に「花壇」という店に行った時、店はオシャレで今風でも、料理やサービスがイマイチで、飲食店なのに肝心なところが二の次じゃぁこの先何年やってけるんだろ~?といじわるオバサン評価(苦笑)しちゃったので・・・。たぶん奥村先生がいわれるマーケティングイノベーションを、製造業ではなく飲食サービス業で実現させたことが評価されたんですね。自分の貧弱なモノサシじゃはかり知れない経営的な魅力があるんだと勉強させてもらいました。

 

 

 

 個人的には、県商工連さんのフルーツふりかけで実際にマイクロ波乾燥を担当してもらっている西光エンジニアリングさんに注目していましたが、審査員の先生方の琴線には触れなかったようで残念です・・・。

 

 

 

 

 表彰式の後は交流会で楽しいひと時を過ごしました。初亀さんをお招きした今週月曜日のNBサロンについて多くの会員さんから声をかけられ、「過去最高の参加人数だったんだって?」「自分は早く申し込んだんだが席が足りないから遠慮してくれと言われたよ」「別の蔵元を招いて第二弾をやってくれ」「普通会員で申し訳ないがカンパさせてくれ」等など嬉しい感想をいただきました。

 

 

 このところの出張疲れか、体調イマイチでしんどかったのですが、褒められると元気が出てきますね!ご厚情をくださったみなさま、本当にありがとうございました。

 私がちょこっと褒められていい気になるのとは次元が違いますが、大賞を受賞されたイノベーティブ・デザイン&テクノロジー㈱さんは大きな励みになったと思います。ますますの発展をお祈りしています!

 

 

 

 

 

 

 


NBサロン「しずおか吟醸ものがたり」御礼

2009-11-10 10:54:52 | しずおか地酒研究会

 昨夜(9日)は、(社)静岡県ニュービジネス協議会中部部会定例サロン「NBサロン中部~しずおか吟醸ものがたり」が開かれました。NB協議会の活動は、協議会の広報担当として、当ブログでも再三ご紹介していますが、昨日は自分が講師役をおおせつかり、しかもDVD機器の不備でせっかくの『吟醸王国しずおかパイロット版』のお披露目が不完全燃焼・・・。大慌てでプログラムを組みP1060881直したりしたので、無我夢中で、きちんとしたご報告ができそうにありません。まずは、参加してくださったみなさまにお詫びと御礼を申し上げます。

 

 

 昨日は私一人では心もとないので、静岡県酒造組合副会長で初亀醸造の橋本謹嗣社長をゲストにお招きし、掛け合いトークを行いました。

 おかけさまで50名近い参加者で、会場のTOKAIインターネットサロンは席が足りなくなるほど。昼間、会場スタッフの女性に試飲酒を預けに行ったとき、「あぁ、お酒の試飲があるから(いつもに比べて)すごい人数なのねぇ」と笑われました。初亀さんって企業人や経営者クラスの方にとくに人気があって、「初亀の社長の話を聞きたい」「試飲したい」というリクエストが多かったんですよね。

 

 

 ・・・そうはいっても、百戦錬磨の起業家や県内トップ企業の実務担当者が講師を務めるサロンで、私のような小物が講師役では参加者は少ないだろうし、Imgp1680 バーや当ブログでも一般参加を呼び掛けたのでした。フタを開けてみたら、TOKAIのCEOに就任されたばかりの鴇田勝彦会長はじめ、NB会員の中でも最近ご無沙汰していた方々が来てくださったりで、橋本さんに面目がたちました。ありがとうございました!

 

 

 

 

 当初はまず『吟醸王国しずおかパイロット版』を観ていただいた後、映像に出てきた酒造り現場のお話を中心に、と考えていたところ、機器の不備で音声が出なかったため、やむをえず、先に簡単に酒の話と「亀」「岡部Imgp1689 丸」の試飲をしていただき、映像上映ではオーディオコメンタリーのように私が即興で解説をしながら映像を観ていただく方法を採りました。

 パイロット版(20分バージョン)はもともとナレーションがなく、文字テロップも必要最小限にして、映像をじっくり観ていただこうと編集したので、音がなくてもなんとか観られるのですが、橋本さんのメッセージや、青島さんの「生まれました」の名言を聴いていただけなかったのはなんとも口惜しい限り。その代わり、パイロット版を観たことのある地酒研メンバーが、はじめて観るNB会員に耳元でチョコチョコッと解説してくれたりして、メンバーを呼んでおいてヨカッタ!と胸をなでおろしました。

 

 

 

 上映後のトークでは、橋本さんが提供してくれた初亀大吟醸・愛2005年をみなさんに試飲していただきながら、主に、映像に出てきた酒造り職人の技術が静岡という酒どころのイメージのない地域ではぐくまれた背景や、酒造業独特Imgp1681 の雇用体系、後継者を育てる価値などに触れ、何気なく飲む一杯の酒に、造り手の信念が込められていることを率直に伝えようと努めました。

 私も、(失礼ながら)橋本さんも、NB起業家のようにお金儲けや市場開拓のテクニックを器用に話せるわけがないので、NBサロンだからといって背伸びせず、ふだんのペースで進めたつもりでしたが、具体的に何をしゃべったのか忘れてしまいました(苦笑)。ブログをご覧の参加者のかた、よかったら感想コメントください(願)。

 

 

 

 ただ、NB中部の重鎮・井越の長谷川総一会長が、「今日のように、いろんな世代や肩書の人が集まるのが本来のNB交流らしくてよかった」と感想をくださったことが心に残り、やっぱり酒というのは人と人をつなげる力があるんだなぁと実感しました。

 

 

 終了後は鴇田会長とNB中部部会の桜井敏雄顧問ほか主だったメンバーが橋本さんと私を慰労してくださいました。サロン自体は不完全な出来でしたが最後までおつきあいくださったみなさま、本当にありがとうございました。

 

 

 NBサロンはこんなふうに飲みながら食べながらのざっくばらんな雰囲気で、(昨日はともかく)ふだんはとっても面白いビジネストークや人的交流が楽しめますので、よかったらぜひNB協議会のお仲間になってください&『吟醸王国しずおか映像製作委員会』へのご入会も何とぞよろしくお願いいたします!!

 

 


真鶴日帰りの旅取材

2009-11-07 11:30:33 | 旅行記

 このところ毎週のように遠出をしています。ふだんは部屋に閉じこもって原稿を書く地味な暮らしをしているせいか、知らない町を探るときは五感全身をフル稼働するので、かえってストレス解消になるみたいです。帰ってくるとドッと疲れますけど(苦笑)。

 今週はお天気とにらめっこしながら、晴天に恵まれた3日と6日、2日間にわたって真鶴町を取材しました。東京新聞購読者紙『暮らすめいと』1月号の仕事です。

  

 

 真鶴町には、10数年前、中川一政美術館を訊ねて以来。町をじっくり見るのは初めてです。紹介する記事が、“東京からローカル線を使った日帰り旅”なので、自分も同じ条件で移動してみようと、まず3日は静岡からJR東海道線に乗って、熱海で乗り換え、つごう1時間50分弱の電車旅。11時前に真鶴駅に着き、駅前の観光案内所でマップをもらって港方面にブラブラ歩きをスタートしました。

 

 まず駅前通り沿いで美味しそうな鮮魚や干物やお総菜が並ぶ二藤商店という魚屋さんを見つけました。こういう店がふだん近所にあったら幸せだろうなぁ~と思いつつ、いきなりここで生モノを買ってしまっては荷になるとあDsc_0003きらめ(帰宅後、ネットで調べたら、ここの『あじの押し寿司』が人気だと知って、ありゃ~、押し寿司なら買って持っていってもよかった~と後悔しました)、そのまま通り沿いに進み、大道商店街を抜けると、コミュニティ真鶴という表札のレトロ なお屋敷を発見。名前から想像して公民館みたいな施設のようですが、祝日のせいか閉まっていて中に入ることはできませんでした。観光マップには「真鶴の“美の基準“モデルハウス」と紹介されていました。

 

 

 小学生下というバス停のすぐ横に、海に向かって下る階段や路地が続いていて、幹線道路より歩きやすそう!とそちらへ。昭和のまんま時間が止まったDsc_0004 ような静かな路地から西仲商店街という小さな通りへ。途中で酒屋さんを見つけ、つい癖で「地酒は売ってますか~?」と訊ね、「小田原の酒なら1種類だけ置いてあるけど…このへんには酒蔵がないからねぇ」とご主人。田んぼがなさそうな町だから造り酒屋がないのも道理だとあきらめ、美味しい魚と地酒が味わえそうな飲食店を訊ねるも、「港のほうへ行けば何軒かあるよ、店の外にメニュー看板が置いてある店なら値段がわかって安心だよ」とのお応え。・・・酒屋さんというのは町内の事情通なんだから、もうちょっと各店の特徴を説明するとか、その町の美味しい情報の案内役・整理役になれるのにモッタイナイなぁと思いつつ、ここで酒屋商売について云々と講釈しても仕方ないと、とにかく港方面に向かいました。

 

 

 港に着いたら、釣り客でにぎわっていました。休日らしいのんびりとした空気が漂い、こちらも仕事で来ていることを忘れて大きく背伸びをし、しばし休憩。Dsc_0015 港のすぐそばでひもの専門高橋水産本店という看板を見つけ、入ってみると、店頭で七輪を使って試食用の干物を焼いています。旨そうだなぁとモノ欲しそうに眺めていると、中から若旦那さんらしき人が出てきて、「試食してみてください」と気さくに声をかけてくれました。

 

 

Dsc_0010  七輪に乗っていたのは、『塩うずめ』と『さんまの干物』。うずめとは西相地方でソウダガツオのことを指し、秋に獲れたカツオを塩漬けにし、お正月用に保存していたという伝統食だそうです。見た目以上に塩っ辛くて、「これはお酒が進むなぁ~」と一人で唸り、若旦那に笑われてしまいました。

 さんまはみりん干しと塩干しの2種類あって、今年は例のエチゼンクラゲの影響か、漁が少なく、干物にする量も少なくて、とても貴重な干物だそうです。いずれにしても、試食させてもらったみりん干しは、やっぱり鮮度のいいさんまを使っているせいか身がふっくらしていて、さんまらしい味もしっかり残っていて、「うん、これはご飯がすすむ!」と大納得。試食もGOOで、若旦那の応対がとても爽やかだったので、こちらの身分を明かし、紙面に取り上げさせてくださいとお願いしました。

 

 

 真鶴港が一望できる魚市場。2階には大水槽で泳ぐ魚が見学できたり、獲れたての魚料理が味わえる『真鶴魚座』という町営観光施設が併設されていまDsc_0024 す。ここで昼食をとろうかと思ったら、やっぱり休日のせいか大変な混雑。外まで行列してました。市場駐車場に沿って建つ長屋の丼店や定食屋さんも、混雑していました。

 町営施設なら放っておいても客は集まるだろうから、できれば民営で頑張っているお店を紹介したいと思いなおし、周辺の魚料理店を何軒か物色し、市場から少し離れたところにある磯料理店に入りました。

 

 

 お昼時なのに、お客さんは一組だけ。メニューを見ると3000円以内で食べられるのはアジのたたき定食、焼魚定食、刺身定食の3種類ぐらいで、あとは豪華船盛りやコース料理など高級料亭なみのメニューばかり。…気軽にランチする店じゃなかったと後悔しましたが、キャンセルするわけにもいかず、とりあえず焼魚定食をオーダー。「魚は何ですか?」と訊くも、女性店員さんは「さぁ~、何かしら、奥に聞いてみましょうか?」。答えを待ったところでキャンセルしようがないので、「いいです」と制して待ちました。

 ・・・見たところは私のほかに1組しかいないのに、30分経っても出てきません。2階に宴会でも入っているのかとイラつきはじめたころ、店の主人と思われる白衣の年配男性が「今日はエボ鯛とブリのかまが入りましたので」と運んできました。・・・まさか焼魚定食を頼んでブリかまが出てくるとは!と仰天。じっくり時間をかけて上品に焼き上げたかまは、素材のブリが新鮮で脂も乗ってい2009110312370000_2 たせいか、身がふっくらジューシ ーで、ブリがこんなに美味しい魚だったとは、と目からうろこ状態でした。エボ鯛も身が厚くてホクホク。炊きたてのご飯に磯の風味満点の味噌汁、もずくが付いて2100円。この内容ならお高くないとナットクでした。

 もうひと組の熟年夫婦組は、だんなさんが刺身定食、おくさんが焼魚定食をいただいていて、だんなさんは「うん、魚は(ふだん食べる刺身よりも鮮度や味が)ぜんぜん違うな」と満足そうに唸っていました。

 

 

 ・・・他の店を何軒も試したわけではありませんが、たぶん市場周辺にある磯料理店は、料理で勝負できる、都会の店との差別化ができるため、店のサービスとかホスピタリティに気を配る必要もなく、ここまで来てしまっているのではと思います。

 今の観光客は無知ではありませんから、いろんな情報を収集し、美味しいものを少しでも安く、気軽に、楽しみながら味わえる場所を探します。周辺店が閑散としていて、市場の町営施設が大混雑していたのを見ると一目瞭然です。いただいたエボ鯛やブリかまが絶品だっただけに、これをもっと気軽に大勢の人が楽しめる方法はないのかなぁと口惜しく思いました。・・・難しいことではありません。人として、ちょっとしたもてなし方や気配りがあるかないか、なんですよね。あのときも店員さんが即座にひとこと「今日はブリのかまが入ったので少し時間がかかりますが、お待ちください」と言ってくれれば大分印象が変わったし、楽しく待てたのにね・・・。

Dsc_0065  

 

 

 昼食後は岬の写真を撮るため、遊覧船に乗って30分のクルージング体験です。海は結構波立っていましたが、初日の出の名所として名高い景勝三ツ石を、海から間近に見られ、岩に当ってくだける波しぶきも迫力がありました。・・・こういう景色を楽しむには、寒いけど冬のほうがクリアで迫力あるなぁと実感します。

 

 

 船から降りたら、ちょうど岬先端まで行くバスが来ていたので、それに飛び乗Dsc_0087 って、今度は陸から三ツ石に迫ってみました。ゴツゴツした海岸はヒールのある靴では歩けませんので、ここに来る時はぜひ動きやすい格好&スニーカーで!

 

 

 

 

 

 

 

Dsc_0101  

 海岸周辺の散策でひと汗かいた後は、真鶴半島原生林の一角にある中川一政美術館を訪問。以前訪ねたときには記憶になかった隣接のお林展望公Dsc_0100 園や、その一角に中川画伯のアトリエが再現された施設など、見どころポイントも豊富です。駅前で『あじの押し寿司』やお総菜類を買って、この展望公園で食べるのもいいなぁ~と思いました。

 

 

 

 バスで真鶴駅まで戻り、『暮らすめいと』の旅コーナーでは不可欠の日帰り温泉スポットを体験取材です。真鶴町のお隣・湯河原町に、真鶴駅前からコミュニティバスで20分ぐらいで行ける日帰り温泉施設があり、バスを探そうと思ったら、平日のみの運転とわかり、ガッカリ。やむなくタクシーで向かいました。外観は和風旅館のような落ち着いたたたずまいで、雰囲気よさそう。ところが休日のせいか内部は大変な混雑で、脱衣場も浴場も日帰り温泉施設にしては狭くて窮屈で、蛇口シャワーコーナーも順番待ち。露天風呂のレイアウトはなかなかよかったのですが、とにかく人が多く、イモ洗い状態で、とてもゆったり温泉気分は味わえず、早々に出てきてしまいました。

 

 

 帰りのタクシー運転手に、「今の温泉、ちっとも温泉気分になれなかった、湯河原には他に日帰り入浴できるところないですか?」と訊いたところ、奥湯河原に町営の日帰り温泉施設があるとのこと。湯河原駅からバスで15分ぐらいだが、休日もバスの本数はたくさんあるからと勧められ、タクシーで湯河原駅まで行ってもらい、ちょうど駅前にとまっていた奥湯河原行きのバスに飛び乗Dsc_0111 って、町営温泉『こごめの湯』へ。こごめって珍しい言葉だと思ったら、湯河原温泉はもともと鎌倉時代には「こごめの湯」と呼ばれ、室町時代には「こごみの湯」、江戸時代には「小梅の湯」と呼ばれた歴史があるそうです。奥地にひそむ秘湯という意味と、“子込め=子を産める=子宝に恵まれる”という語呂合わせもあるとか。温泉らしい、いい名前ですよね。

 

 

 さっきの温泉と違って、ここは脱衣場も浴場も広々としていて、40畳の無料休憩室も整っています。泉質そのものは差がありませんが、やっぱり脱衣場が広くて使いやすいのは女性にとってポイント高いですよね。

 

 

 温泉をはしごして、すっかり暗くなってしまって、この日は取材終了。初めての町で、移動手段や移動時間を確認しながらの取材ですから、やっぱり観光パンフやネット情報のうのみでは記事にならないし、1日じゃ無理。昨日(6日)、今度は車で真鶴入りし、補足取材を行いました。『暮らすめいと』紙面で実際にどんな場所を取り上げるかは、来月中旬の発行をお待ちくださいね!

 

 

 なお、同紙は首都圏の東京新聞購読者しかご覧いただけませんので、興味のある方は鈴木までご一報ください。鈴木の取材記事の掲載号を進呈します。ちなみに今月中旬発行号では、「日本酒特集」を担当しています。