杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

2011秋・古都の旅その1~奈良古社めぐり

2011-10-24 20:58:42 | アート・文化

 先週末、奈良・京都に行ってきました。いつものようにJR夜行バスを使ったんですが、今回、「早割21」というお得なチケットがあることを知り、平日ネット予約なら静岡―京都間が片道2940円!土日分も3820円でゲットできました。席数限定で1ヶ月前の朝10時から予約購入ができるので、関西方面への出張・旅行には賢く利用したいですね!詳しくはこちらを(ワタシはJRバスの広報の回し者か・・・)

 夜行バス利用者にとっての悩みの種は、朝5時に京都に着いて、どこで時間を潰すか。また帰りは京都発23時59分発だから、深夜まで(なるべく浪費せずに)どうやって時間を潰すか。

 私の場合は、当ブログでも何度か書いたように、早朝発のローカル鉄道に乗るか、早朝営業の銭湯へ行きます。今回は、30日に開催を控える玉露の里『酒と匠の文化祭Ⅱ』の成功祈願に、奈良の大神神社へ行こうと5時30分過ぎの近鉄の各駅停車に乗って、終点の天理まで、夜明けの平城盆地を車窓から楽しみました。大神神社の最寄駅・JR三輪には、天理で乗り換えが便利です。

 

 

 天理に着いたのがちょうど7時過ぎ。駅前ならファストフードか喫茶店でモーニングでもやっているかなと思ったら、天理駅前ってそれらしい店がまったくなくて、見かけるのは道路を清掃する天理教の信者らしき方や、天理教総本部の前をきちんと一礼する通学途中の学生たち。フツウの地方都市とは雰囲気が違い、ここはまるごと信仰の町なんだなあと実感しました。

 

 

 携帯ネットで「天理 喫茶店 モーニング」で検索してみたら、駅から徒歩20~30分ぐらいの石上神宮(いそのかみじんぐう)に隣接したカフェレストラン「カフェ・ド・レーヴ」が8時からモーニング営業していると判り、とりあえずブラブラ歩いて石上神宮へ。

 

 

 石上神宮は『日本書紀』に2つしか出てこない神社の一つ(もう一つは伊勢神宮)、つまり日本最古の神社の一つ。当世風に言えば日本最強のパワースポットの一つ、という感じかな。

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 境内に入ろうとしたら、鶏が放し飼いになっていて、「コケコッコー」とけたたましいモーニングコール。鶏がこれほどハッキリ、コケコッコーって鳴くの、子どもの頃に母の田舎で聞いて以来かなあ。こちらが近寄っても、ぜんぜんビビらなくって、思わずこっちが「すみません、入らせてもらいやす・・・」と低姿勢になっちゃうくらいの威勢の良さでした。

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 早朝の神社の境内って、人はいないし清々しい空気に満ち溢れて、鶏の鳴き声だけが響いている・・・本当にパワースポットの霊気を独り占めしたように気持ちがいいですね。思わず絵馬に「心願成就」って書いてお納めしました。

 

 

 

 

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 8時を待って、カフェ・ド・レーヴへ。外観は和の古民家だけど、中はお洒落なホールで、レストランウエディングやパーティーも出来そうな、素敵なカフェでした。バターの香りたっぷりの、厚めのトースト・・・喫茶店メニューならではのぜいたくです。いつも朝食はパサパサの雑穀パンに何も塗らずに食べるので、食パンってこんなに美味しいのか~と感激しちゃいます。

 

 

 

 

 

 

 天理駅へ戻ってJRに乗り換え、三輪で下車して、徒歩5分の大神神社へ。30日の玉露の里での『酒と匠の文化祭Ⅱ』の成功と、協力してくださる岡部のみなさんのご多幸をお祈りしました。岡部には大神神社の分霊である神(みわ)神社があり、初亀醸造の橋本社長が篤く信仰されているご縁で、『吟醸王国しずおか』の映像でも紹介しているんです。

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 今回は御神水の井戸で霊水をいただきました。生水なので持って帰ることはできませんでしたが、パワースポット中のスポットのパワーをしっかり体内に注水しておきました。

 

 

 

 

 お昼に奈良市街へ戻って、奈良市内に住む高校時代の同級生と久しぶりに再会。東大寺~春日大社の間に広がる緑の木立の中にあるラ・テラスというフレンチレストランでランチをいただきました。前夜の夜行バスからほとんど寝ていなかったせいか、スパークリングワインを2杯飲んだらほんわかイイ気分。オープンテラスの席で、このままお昼寝したくなりました。ここは、1300年前は最先端の国際文化センターみたいな場所で、異文化の人もたくさんいた訳ですよね・・・。そんな場所でいただくフレンチ&ワイン、なかなかオツなものです。

 

 

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 次いで今月オープンした東大寺ミュージアム で、これも久しぶりに日光・月光菩薩さまと再会しました。

 1300年以上、お住まいだった東大寺法華堂から、博物館の展示場に移られて、なんとなく別人のような感じ・・・。法華堂でお会いするときは、いつもこちらを叱咤されるような厳しさを感じたものですが、ここではやわらかく、ふっくらおだやかに見えます。暗い法華堂の中では、菩薩さまのお顔やお姿にも陰影があって、それがこちらの心の映し鏡のように思えたんですね。・・・本当に、こちらの心の持ちようによって、仏さまの顔って違って見えるんです。

 

 

 

 ミュージアムでは俳優の国村隼さんが音声解説を担当されていて、そのお声が雰囲気にとてもマッチしていて、さすがドラマで聖武天皇を演じられただけある!と感じ入りました。

 神さまと仏さまが共生する古都。和風と洋風、伝統とモダンが融合する暮らし。日本人は二極化をくっきり分けてしまうのではなく、上手に、複雑に、巧みに噛み合わせる能力に長けている民族だなあと改めて実感した奈良の一日でした。

 

 


静岡グルメ王国フェストで『駿府いなり』をご試食を!

2011-10-20 17:30:58 | 地酒

 10月21日(金)から23日(日)まで、静岡市中心部の葵スクエア&青葉シンボルロードで『静岡グルメ王国フェスト』という食イベントが開かれます。静岡新聞に広告記事が出ていますので、ご存知の方も多いでしょう。

 

 なんでも、7月に開かれた“静岡の食を考えるサミット”で、田辺市長、県大の木苗学長、銀座小十の奥田さん、海ぼうずの藤嶋さん(県飲食業生活衛生同業組合静岡支部長)などが静岡の食のPR方法について話し合い、『徳川家康公』をテーマにしたしずおかグルメ大賞コンテストを行うことが決まったそう。その大賞作のお披露目と、食文化交流セッションや地産地消料理の屋台等で街のにぎわいにもつなげるイベントになるようです。

 

 その中で、私がお世話になっている人宿町の寿し市さんが、『駿府いなり』というオリジナルの3色いなり&静岡の地酒を販売することになりました。イベント実行委員会の主力団体である県飲食業生活衛生同業組合静岡支部の一員として、今回、地元食材を使った創作いなりを出品することになったそうです。

 

 『駿府いなり』は、わさび味・緑茶味・桜えび味の3種類セット。いかにも、って思われるでしょうが、使う食材がとびきり上級のオール静岡産。味付けも、寿し市大将の井木裕さんが吟味に吟味を重ね、オンリーワンのプロの味に仕上げてあります。

 

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 私はその駿府いなりのパッケージイラストを描くことになり、17日夜に試食させてもらったんですが、本当にどこに出しても自慢できる静岡らしいおいなりさん。食材が安定入手できれば、店の定番メニューにしてもいいくらいです。

 

 

 

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 待っている間、磯自慢と喜久醉をチビチビやっていたら、井木さんが、焼津港から取り寄せた豆あじの素揚げ&から揚げをササッと出してくれて、これがまた、泣けるほど静岡の酒の肴らしくて、カウンターにいた知らないお客さんと、酒談議や魚談義で盛り上がってしまいました。

 

 

 私は残念ながら当日参加はできませんが、21日~23日の静岡グルメ王国フェストに参加できる方は、ぜひ試食してみてくださいね!


グランシップ文楽公演鑑賞

2011-10-19 15:02:36 | アート・文化

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 10月17日(月)はグランシップで開催された文楽公演を鑑賞しました。文楽は東京と大阪の国立劇場に観に行きますが、静岡で観るのは初めてです。

 なんとな~く、グランシップって伝統芸能の公演会場としてどうなのかなあと思っていたんですが、前から3列目の非常に見やすい席をゲットできて、人形遣いの技を間近に堪能できました!

 

 

 演目は2つあり、最初の『双蝶々曲輪日記・八幡里引窓の弾』は、大阪の相撲取りの長五郎が恩ある人を助けるために殺人を犯し、逃亡し、中秋の名月の夜、産みの母の再婚先の八幡の家にやってきます。年老いた母に心配させまいと事件のことは内緒にしていた長五郎ですが、ちょうど不在だった老母の継子・十次兵衛は、亡父を継いで代官職に就いたばかり。初仕事がおたずね者・長五郎の捕縛でした。

 

 事情を知り、実子・長五郎をなんとか助けたいという老母。育ての母の思いを知って初手柄をあきらめて、長五郎を逃がそうとする十次兵衛。継子の思いやりに胸を打たれ、長五郎を引窓の縄で縛る老母と、その思いを受け止めて捕縛される長五郎。窓が開いて明るい月光が射し込んだとき、十次兵衛は、「夜が明ければ自分の役目は終わるから」と、深夜にもかからわず長五郎を逃がす・・・という義理人情の物語です。

 

 

 実際に大阪で相撲取りが侍を殺した事件が題材になっていて、“双蝶々”とは、主人公長五郎と、彼と兄弟盃を交わした草相撲力士・長吉のこと。2人の交流は、今回のお話の前段で語られているようで、大阪の勧進相撲の大関を務めた長五郎と、草相撲の長吉のプロアマ対戦は当時の相撲ファンにとっても垂涎のビッグマッチだったそうです。格式を重んじる江戸の相撲ではありえない対戦だそうですが、大阪では相撲番付に草相撲の力士まで載せていたようで、江戸と大阪の文化の違いって、そんなところにも表れているんですね・・・。

 『引窓の段』で、長五郎が侠客のようなキャラクターで登場し、当時の人々の義理人情の描かれ方をみると、今も昔も、日本人の娯楽に対する感性って変わらないんだなあと実感します・・・。

 

 

 2つめの演目は『新版歌祭文・野崎村の段』。野崎村の久作は、侍から預かった養子・久松と、後妻の連れ子お光を夫婦にさせることが長年の夢で、久松が奉公先の大阪の油屋から戻ってきたタイミングを見計らい、祝言を挙げることに。重病の母を介護し、継父久作にも孝行を尽くす働き者のお光は、慕い続けてきた久松といきなり祝言を挙げることになって大喜びしますが、大阪からは、久松と深い仲になっていた油屋の娘・お染が追いかけてきたのです。

 

 久松とお染は心中を覚悟していたのですが、久作が必死になだめ、懐柔させ、2人は互いの非を悟って別れを決意します。ところが、心中を覚悟していた2人の深い絆を察したお光は、身を引く覚悟をし、剃髪し、出家すると宣言。花嫁衣装の綿帽子を取ると、髪を下ろした姿になっていました。大阪からはお染の母が駆けつけて、お染を船で、久松を駕籠に乗せ、別々に帰すのでした。

 

 

 私はこの演目は過去に大阪で鑑賞したことがあり、そのときは、後の段もあって、お染が実は妊娠していたことや、野崎村を別々に去った2人が、お光に犠牲を強いて自分たちだけが幸せにはなれないと思い詰め、結局は心中するという哀しい結末でした。

 

 

 今回のグランシップ公演では、お光が、お染に再三嫌がらせをしたり、ラストシーンで、お染が乗った船の船頭がひょうきんな仕草をして笑いを誘うなど、悲恋物語のイメージとはちょっと違うような・・・。終演後は「あれがラストなんてねえ・・・」と苦笑する人もいました。私は私で、演者によって演出をアレンジすることもあるんだなあと感心しました。

若干、違和感は残ったものの、とにかく現在、演目として残っている物語は、どれも本当にストーリーが素晴らしく、一人で語り部&登場人物すべてを演じる太夫の迫力といい、人形遣いのしなやかな動きといい、舞台上にいるのは「人形」なんだけど、生身の人間のチカラや熱をまざまざと感じます。

 

 

 太夫や人形遣いのみなさんのお名前や顔を覚えられるぐらい“ツウ”になれたら・・・ですが、まだまだ遠~い話。ちょっとずつでも鑑賞の機会を増やしていきたいと思います。


初参戦!酒と茶の同好会

2011-10-17 11:20:55 | しずおか地酒研究会

 先週末(10月15・16日)は、2日続けて静岡市内の同好会の集まりにお呼ばれし、いろ~んな趣味人たちがいろ~んな活動をしているんだなあ、静岡の文化レベルって捨てたもんじゃないなあって実感しました。と同時に自分の人間の器のちっちゃさを思い知らされました・・・。

 

 

 まず15日(土)夜は、清水区のスノドカフェで開催された日本酒同好会「うわばみの集い」で『吟醸王国しずおかパイロット版』の試写会を催していただきました。うわばみの会というのは、スノドカフェを会場に年2~3回開いている20~30代中心の日本酒愛好会で、私は今まで接点がなかったのですが、スノドカフェのオーナー柚木康裕さん  が試写会を無理やり?ブッキングしてくださったのです。こんなふうに別のご縁で知り合った人が、吟醸王国のことを支援してくださるなんて本当に嬉しい

 

 準備もあろうかと少し早めに行ったら、すでに大勢集まっていて、とくに始まりの挨拶とか決まったプログラムもないまま、ダラダラと呑んだりしゃべったりで、主催者が誰で何をする会なのかわからず(苦笑)。長年この業界にかかわっていると、どうしても、どこの酒屋or飲食店が仕掛けているのか、な~んて“ウラ”を読もうとしてしまうのですが、1時間ぐらい経ってから、何のウラもない純粋な日本酒ファンの主催者(一般人)が自分の好みの酒と、料理達人の友人の手料理を仲間内で楽しむホームパーティーのような飲み会だとわかりました。

 

 お酒は残念ながら県外酒ばかりで、今のトレンドのカプロン酸系の酒が多く、「自分の好きな酒なんで」「酒はしょせん趣向品だから」「やっぱり静岡より新潟」な~んて言われてしまうと何もいえず、日本酒の味の幅や奥の深さを伝えるって難しいなあって改めて感じました。

 

 味の好みはそれこそ趣向品なんで、個人の価値観を押し付けるわけにはいきません。私の場合は、取材者という立場を活かして、身近にいる造り手や売り手の姿勢を伝え、まず人間に惚れてもらおうと考え、しずおか地酒研究会では参加者に相互理解を深めてもらう工夫を心掛けていますが、今の若い消費者には面倒臭いと思われるかもしれませんね。

 いろんな意味で、少々ジェネレーションギャップを感じた会ですが、それでも日本酒を目的に、業界臭のない若い消費者が集まる機会って大変貴重です。また料理は日本酒に合うよう、上品に味付けたおでん、漬物、焼き物類が素晴らしかった。パイロット版試写の後は温かい拍手をいただき、12人から1000円ずつ寄付をいただきました。

 柚木さん、うわばみの集いのみなさん、本当にありがとうございました。ぜひとも長続きさせ、できるだけ広い選択肢の中から、日本酒の味の奥深さを発掘・冒険してみてください。

 

 

 

 

 16日(日)は駿府公園紅葉山庭園茶室で開かれた『羅漢会』の茶会に、望月静雄先生と末永和代さんとご一緒しました。まだまだ、まったくお茶の作法を会得していない自分が、いきなりお茶会なんて冒険が過ぎるかと思いましたが、やっぱり異次元の冒険でした(苦笑)。

 

 『羅漢会』というのは、県内で活動する男性茶道家有志による会で、毎月第3日曜に紅葉山庭園で茶会を開いているそうです。流派にこだわらない、堅苦しくない趣味人の会だからと望月先生にお声掛けいただいたのですが、行ってみたら着物をビシッと着こんだ女性たちがズラリ。なんでも亭主を務めた粟野淳さんの亡きお母様が有名なお茶の師範で、その縁で市内で茶道教室を主宰する先生方がお弟子さんを伴って続々と集まり、本席に通されるまで待ち合い広間で2時間も待つことに・・・。

 

 でも待ち合いの間にも、ちゃんとおもてなしがあって、冬瓜の生姜風味のお吸い物と梅茶が出てきたんです。これがビックリするほど美味しかった・・・! お箸の持ち方、お椀の取り方、お椀の蓋の置き方、いただいた後に懐紙でお椀の中を軽く拭く等、ちゃんとお作法があって、いちいち感心させられました。

 

 待ち合いの広間の床には、芳賀幸四郎氏(芳賀徹静岡県立美術館長のお父様)が書かれた般若心経の軸が。以前、芳賀幸四郎氏が大学の恩師だという北村欽哉先生(朝鮮通信使研究家)を県美の芳賀館長の元へご案内し、お父様の思い出話をご一緒にうかがったことがあったので、軸を拝見し、お会いしたことはないのになんだか懐かしい人がそこに居るような思いがしました。

 

 本席の床には李白の詩『松高白鶴眠』(まつたかくして はっかくねむる)が。すっと伸びた老松の枝に白鶴が一羽とまって眠る清々しい情景を謳ったものです。じっくり鑑賞したかったけど、狭い茶室に13人も押し込まれて(苦笑)、私は出入り口の角で小さくなって、まともにお辞儀もできない状態。隣の末永さんに逐一手ほどきをしていただいて、なんとかお菓子とお茶をいただくことができましたが、緊張&正座の辛さのせいか、ただ順番に食べて飲んだだけで終わってしまった・・・。

 一方、望月先生はじめ茶席に慣れたみなさんは、亭主粟野さんが心を尽くされた道具類やお菓子についてじっくり味わっておられるようでした。茶の素人かつ取材を生業としている私としては、わからないことはその場で聞いておきたいのに、さすがにお稽古ではなく本番の茶席というのは、気軽に質問できる雰囲気ではありません・・・。

 

 

 前夜の酒の会では、聞いてほしい、詳しく伝えたいことが山ほどあるのに、誰も質問してこないストレスを感じ、お茶会ではこちらが聞きたい、教えてもらいたいことが山ほどあるのに質問できないストレスを感じました。・・・でもこんなストレスでも、上手に受け止めて消化できるようになれば、本来心を豊かにしてくれるはずのお酒やお茶との出会いを、心底楽しめるようになるんですね。

 

 

 いやはや、人間を鍛える意味でも大変勉強になった、価値ある2日間でした。写真を撮る余裕がなかったので、文字だけの報告でスミマセン。

 


中日新聞富士山特集「富士山湧水の恵み」

2011-10-15 14:03:29 | 地酒

 本日10月15日(土)の中日新聞朝刊に、富士山特集第7弾「富士山湧水が育む産業と人のいとなみ」が掲載されました。

 

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 今回は、私が個人的に信頼し、当ブログでも再三ご紹介している柿島養鱒の岩本いづみさんと富士錦酒造の清信一さんに、ずばり富士山湧水の恵みについて語っていただきました。また富士常葉大学水環境デザイン研究室の藤川格司教授に、学術的な解説をお願いしました。

 

 ニジマス養殖の岩本さんと酒造りの清さん・・・富士山湧水の価値を語るにどんぴしゃりのお2人でしょう。藤川先生のゼミでも、学生たちが本当に貴重な水質調査をしています。世界文化遺産登録の盛り上がりの一方で、お膝元の環境調査をないがしろにしてはいけない、と強く実感します。

 

 

 

 本当はお一人ずつじっくり紹介しても、紹介し足りない取材対象ですが、自分にそれだけ書ける力が蓄積されて、書かせてもらえる媒体を得られたらぜひ!。

 

 

〈富士山の水の恵み〉 富士山湧水が育む産業と人のいとなみ<o:p></o:p>

 

<o:p> </o:p>先月末、富士山の世界文化遺産登録推薦書草案がユネスコ世界遺産委員会に提出され、これから約1年をかけて、文化遺産としての審査を受ける。今回は、文化を育む源泉となった自然の価値―とりわけ水の恵みと産業について焦点を当て、湧水にかかわる人々を訪ねてみた。 <o:p></o:p>

 

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白糸の滝の魅力<o:p></o:p>

  富士山の名水といえば、この光景を思い浮かぶ人も多いだろう。高さ約20メートルの溶岩の隙間から、糸のように無数の滝が流れ落ちる『白糸の滝』。この地に巻狩りに出向いた源頼朝が、おだまき(麻糸の玉)を手にした女性にたとえて「この上に いかなる姫や おはすらん おだまき流す 白糸の滝」と詠んだように、古来、多くの詩歌に歌われ、文字通り“文化の源泉”になった国名勝・天然記念物指定の名瀑である。<o:p></o:p>

  富士常葉大学水環境デザイン研究室の藤川格司教授によると、白糸の滝の湧水は約10万年前の古富士泥流層の溶岩と、その上に積もった約1万年前の新富士溶岩層の間から湧き出しているという。今も、高さ2025メートル、幅約200メートルの溶岩壁から1日10万トンの水が湧き出し、水温は年間を通して15℃前後で一定している。<o:p></o:p>

 「富士山の湧水ポイントは、古富士火山噴出物泥流と、新富士火山旧期の溶岩流の分布に関係している。異なる地質から異なる年代の地下水が流出する」と藤川教授。「研究者にとって富士山の地下水は未解明の分野。実に複雑で面白い研究対象です」と熱く語る。<o:p></o:p>

 

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湧水に育まれるニジマス養殖<o:p></o:p>

 『白糸の滝』の北、芝川の上流に広がる『猪之頭湧水群』はニジマス養殖で知られる。昭和11年に静岡県水産試験場富士養鱒場が設立したのを機に、猪之頭一帯で養殖池が作られ、一大養鱒地に。戦後は冷凍ニジマスが北米に輸出され、国内需要も右肩上がりに伸びた。<o:p></o:p>

  産業は成長・発展とともにリスクも伴う。台風や水害等の影響でしばしば変化する湧水量。加えて高度成長期には周辺に工場や事業所が進出し、水量は相対的に減少し始めた。リスクを避けた養鱒業者は市外・県外へ移転し、川魚消費の伸び悩みも手伝って、現在、猪之頭の養鱒業者は30軒足らずとなった。<o:p></o:p>

 

柿島養鱒の岩本いづみ社長は、ニジマス本来の美味しさを見直してもらおうと、飼料添加物や人工色素に頼らない天然素材の餌を毎日作って与える。3児の母でもある岩本社長の考えは「色素を添加した、脂肪が不自然に多い魚は育てたくない」と明快。餌の自家製造は養鱒業では極めて珍しいという。<o:p></o:p>

  「魚が川の中で長い時間をかけ、自然に育つ環境を再現したい。それには豊富な流水量が不可欠」と案内してくれたのは、養殖池のすぐそばにある湧水ポイント。猪之頭はかつて「井之頭」と表記されていたそうだが、その名を象徴するような滝が水のカーテンのように岩肌を厚く覆い、川の各所で水がボコボコと湧き上がっている。今では国内外の名のある料理人や流通業者が視察にくる。<o:p></o:p>

  養鱒業の未来は、この豊かな水の恵みを、食文化として発信できるか、或いは文化として語れる内容が伴っているかに懸っているようだ。<o:p></o:p>

 

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 酒蔵の伝統を支える源泉<o:p></o:p>

  名水が必要不可欠である酒造業。猪之頭の南西、芝川町柚野地区にある富士錦酒造は創業300年超という県内屈指の老舗酒蔵だ。<o:p></o:p>

  18代目当主の清信一社長は神奈川県出身。妻朋子さんの実家である富士錦酒造に婿入りしたとき、井戸水を当たり前のように飲料にしていることに驚いた。一方、朋子さんは東京の大学に通っていた頃、水道水をそのまま飲もうとして注意されたことがあるという。「水を扱う事業者として、毎年2回欠かさず水質検査を行っていますが、まったく変化がない。富士山のろ過機能というのは凄いと日々実感します」と清社長。酒造家から見た富士山の湧水は「あたり(角)がない、やわらかで馴染みやすい」という。<o:p></o:p>

  

 近年、酒質の高さが評価されている静岡県の吟醸酒は、洗米から始まる仕込み工程で大量の水を使う。仕込み水を道具洗いにもふんだんに使えることに、県外出身の杜氏や蔵人が感心する。「原料米や職人は外から調達することもできるが、水だけは持ってこれない。この地で酒造業を続けられるのは、この水があってこそ」と清社長は噛み締める。国際食品コンテストでも高く評価される『富士錦』には、「富士山湧水仕込」の文字が勲章のように輝いていた。<o:p></o:p>

 

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 「世界文化遺産」と共生するために<o:p></o:p>

  富士常葉大学水環境デザイン室では、「いのちを育む水の旅」と称して定期的に富士山周辺の水量・水質を調査し、人の暮らしと水環境のかかわりについて研究している。今年8月には富士山南麓の富士市今泉湧水群・田宿川周辺を調査した。同地区は明治初期に富士の製糸業の発祥地となった湧水地帯。今も工場稼働期には深層の地下水が過剰に揚水され、水位が低下し、駿河湾の海水が入り込んで塩水化に傾いたり、湧水が枯渇するなど水環境にしばしば変化が見られる。<o:p></o:p>

  田宿川本流は1秒間に1トンもの流量があり、毎年7月にはたらい流し祭りも行われる。高度成長期にヘドロで汚染された苦い経験があり、地域住民が一丸となって浄化に努めた成果だ。その田宿川には絶滅危惧種の『ナガエミクリ』という貴重な水藻が群生している。これがしばしば異常発生して水位を上げる。富士山麓の茶畑で使用される化学肥料が原因で藻が育ち過ぎるからではないかとみられ、住民が川の清掃時にナガエミクリを伐採すると、水位はもとに戻る。<o:p></o:p>

 

「湧水や川の保全を考えるということのは、その流域全体の暮らしと産業の在り方に向き合うこと」と藤川教授。世界文化遺産と共生することになる富士山麓の人々にとって、避けて通れないテーマになりそうだ。(文・鈴木真弓)

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