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日常の語り部

2011-05-16 11:48:37 | 編集手帳

  5月11日付 読売新聞編集手帳


  落語の柳家小三治さんが師匠の人間国宝、
  五代目小さんさんとタクシーに乗ったときという。
  目を閉じ、
  ラジオから流れる声に黙って耳を傾けていた師匠が、
  ぼそっと言った――
  「これが現代の落語ってもんだよな…」。

  TBSラジオ『小沢昭一の小沢昭一的こころ』(月~金曜)であったと、
  小三治さんがエッセーに書いている。
  番組の名前を聞いただけで、
  あのお囃子(はやし)と小沢昭一さん(82)の軽妙な語りが耳によみがえる方も多かろう。

  世相を風刺する毒もあれば、
  お色気談議もある。
  緩急自在にして硬軟自在の話芸が小さんさんをうならせたのだろう。
  番組がはじまって38年余、
  あさって13日に放送1万回を迎える。

  なじみの土地を久しぶりに訪ねたときなど、
  道路や街並みは変わり果てていても、
  神社の境内であったり、  
  地蔵堂であったり、
  昔ながらのたたずまいに触れて心の落ち着くときがある。
  空間のみならず、
  時間のなかにもそういう場所はあるのだろう。

  その時刻、
  ラジオをつければその人がいて、
  いつもの時間が流れている。
  変わらぬ日常が何よりも愛(いと)おしい今、
  「鎮守の森」のような語り部である。
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