5月17日付 読売新聞編集手帳
森鴎外は『ウィタ・セクスアリス』(岩波文庫)で述べている。
〈世間の人は性欲の虎を放し飼いにして、
どうかすると、その背に騎(の)って、滅亡の谷に落ちる〉と。
その人の場合はどうなのだろう。
肩書が肩書なので、谷から舞い上がる土ぼこりも並大抵ではないらしい。
国際通貨基金(IMF)のトップ、
フランス人のドミニク・ストロスカーン専務理事(62)が米国で逮捕された。
宿泊していたニューヨーク市のホテルで、
部屋の清掃に入った女性従業員に性的暴行を加えた疑いが持たれている。
専務理事は容疑を否認しているという。
〈この国(=フランス)の人々は愛国者と愛人に関してはすこぶる寛大なんです…〉
(ロバート・ラドラム『暗殺者』)という考察もあるように、
フランス世論は政治家をめぐる異性関係の醜聞には比較的寛容だった。
今回は、しかし、強姦(ごうかん)未遂、監禁など禍々(まがまが)しい容疑の前に、
次期大統領“本命”といわれた人の政治生命は風前の灯(ともしび)という。
世界経済が多難の折に、
主役の一人が何をしておるのやら。
IMFとは
「いい歳(とし)をして、もっと分別を」の略ではないので、念のため。