5月13日付 読売新聞編集手帳
雨の朝、天使が仲間の天使に弾んだ声で言った。
「やったね!きょうは座って遊べるよ」――
西洋の小咄(こばなし)にある。
晴れ渡る空を飛び回るのも楽しいが、
たまにはのんびり雨雲の上で座って過ごしたいときもあるらしい。
5月半ばといえば地上はまだ、
木々の若葉越しに抜けるような青空を仰いでいたい季節である。
座って遊ぶのはもうひと月ほど待ってほしいところだが、
ここ何日か、列島は梅雨のはしりのような雨雲に覆われている。
思えばこの春ほど、
自分の住んでいない地域の気象情報に耳を傾け、
目を凝らした春もない。
きょうの寒さはいかほどか。
晴れているのか、いないのか…。
大きな本震と、
たび重なる余震で地盤のゆるんだ被災地では、
土砂崩れが起きやすくなっている。
ただでさえ不自由な生活のなかで、
心配の種が増えるのはつらかろう。
天使もきっと、雨雲の上ではしゃいではいまい。
『雨のことば辞典』(倉嶋厚監修、講談社)に
〈天(てん)泣(きゅう)〉という言葉を教わった。
いわゆる天気雨の異称という。
天が泣く。
天気雨に限らず、
被災地に降る雨という雨を〈天泣〉と呼んでみたい5月である。