6月14日 キャッチ!
オーストラリアには現在人口の約3%の先住民がいる。
2つの系統があり
1つは数万年前から大陸にいるアボリジニと
もう1つは数千年前から北東部のトレス諸島に暮らしている人たちである。
しかしヨーロッパからの入植者によりオーストラリアが1901年に建国されて以降
同化政策のもとで先住民の権利はないがしろにされてきた。
オーストラリア政府はいま国をあげて先住民の生活向上を目指しているが
先住民の人たちはかなり深刻な状況に置かれている。
5月27日 メルボルンであるイベントが開かれた。
先住民の文化に関心を持ってもらおうとNPOが開催したものである。
この日はオーストラリアの先住民が憲法で国民と認められた50年目の記念日だった。
ターンブル首相もイベントに参加。
先住民の生活向上を目指す姿勢を示した。
(先住民)
「こうした行事を通じて先住民問題についてメッセージを発信できる。」
オーストラリア政府は先住民のための関連予算として毎年5,000億円近くを投入している。
予算には
遠隔地に暮らす先住民のための医療サービスの充実や
識字率向上のための学習支援などが含まれている。
2008年には教育と健康など7つの分野で具体的な改善目標を設定し
その進捗状況を報告書にまとめているが
改善が見られたのは高校を卒業する生徒の割合が増えたことのみである。
(オーストラリア ターンブル首相)
「非先住民との格差解消は国の責任です。
すべての国民が協力して取り組んでこそ
初めて達成可能なのです。」
格差解消の障害となっているのが先住民への差別である。
大学の調査によると
半数以上の先住民が学校や職場 街なかで差別を受けてきたという。
また去年8月
シドニーにあるNPOの調査では
オーストラリアの先住民の自殺率はかなり深刻だとしている。
(若者支援団体 代表 ケイティ―・アチェソンさん)
「とても衝撃的ですが
25歳から29歳の先住民男性の自殺率が世界で最も高いんです。」
自殺率が高い理由の1つが
仕事に就けないこと。
先住民の就業率は48%余で
非先住民より24ポイントも低くなっている。
社会からの疎外感から薬物に手を出し
その乱用の末に自殺に至るというケースが少なくないと言われている。
5月のイベントで司会を務めたジョー・ウィリアムズさん(33)。
10代のころからアルコールを飲み
薬物にも手を染めたウィリアムズさん。
かつてはプロのラグビー選手として活躍したが
20代の後半には5年間連れ添った妻と離婚。
将来を悲観して自殺を図った。
(ジョー・ウィリアムズさん)
「離婚など良くないことが人生の中でいくつかあった。
それらに耐えきれなかった。」
ウィリアムズさんは自分のような目に合う若者を1人でも減らすために
全国各地を回って
先住民の若者たちにもっと目を向けるよう呼びかけている。
(ジョー・ウィリアムズさん)
「自殺を防ぐための方法は何か。
入植前に自殺がなかったのはみんながいたわり合っていたからです。」
(参加者)
「彼は多くの人の心を打ちました。」
若者を救う活動は地域社会でも地道に行われている。
首都キャンベラから160km内陸の町ワガワガ。
先住民が良く集まるというコミュニティーセンター。
ボクシングを通じて若者とのコミュニケーションを深めている。
指導しているのは施設職員のクライブ・ライオンズさん(46)。
毎日のようにトレーニングをするスティービー・チャールズさん(22)。
飲酒による暴力でたびたび問題を起こしていたところを
ライオンズさんの誘いでジムに通うようになった。
(スティービー・チャールズさん)
「練習で忙しいと薬をやらなくてすむよ。
プロになってタイトルを取るのが夢だよ。」
ライオンズさんの親戚の20代の男性が薬物中毒が現認で自殺した。
ライオンズさんは「1人でも多くの若者を救いたい」と決意を新たにしている。
(ボクシングトレーナー クライブ・ライオンズさん)
「この町の最大の問題は酒と薬物で
先住民に雇用がないのが原因だ。
若者に心配する人がいることを伝えたい。」
先住民の若者が自殺する問題をオーストラリア政府は深刻に受け止めている。
(先住民健康担当相 ケン・ワイアット氏)
「私の選挙区でも多くの若者が自殺している。
先住民の組織と政府が一緒になって自殺の原因について究明している。」
背景となる雇用や飲酒 薬物の対策を行うことが急務となっている。
先住民の就業率の低さは
先住民が現代の情報化社会になじみにくいという点も指摘されている。
将来に希望が持てない親が犯罪に犯して刑務所に服役する割合が年々増加している。
親子が一緒に過ごす時間が短くなり
子どもたちが将来について考えられないという悪循環も生じている。
国民的スポーツであるラグビーのプロリーグで
先住民チームと非先住民チームが対決する試合が行われるなど
関心を持とうと呼び掛ける動きはある。
しかし学校の授業では先住民の歴史をあまり習わないという指摘もある。
また人口の3%程度であるために選挙の争点になりにくく
先住民の問題について関心を持つ政治家は多くない。
オーストラリアで1960年代まで続いた先住民同化政策では
先住民の家庭から大勢の子どもたちが引き離され
白人の家庭などに住まわされた。
これについて政府は2008年になってようやく当時のラッド首相がアボリジニに謝罪するが
それまでのオーストラリア政府には先住民に対する敬意が欠如していたと言わざるを得ない。
同じ先住民でも隣のニュージーランドでは状況が異なる。
ニュージーランド国歌を公式の場で歌う時は
英語だけでなく先住民の言葉でも歌われるなど敬意がはらわれている。
シリアから難民を受け入れたり
世界中から難民を受け入れたりと
多民族・多文化社会になってきたオーストラリアだが
同じ国民である先住民についてきちんと話し合おうという社会の雰囲気はまだ造成されていない。
オーストラリアの先住民でつくる組織は5月
自分たちの見解を政策により反映させるため
住民の代表組織を作ることを政府に求めていくことを決めた。
先住民が何を望むかというのが大事である。
7月5日 編集手帳
その会話は球場のマイクが拾い、
放送で流れた。
金子鋭(とし)プロ野球コミッショナー「この僕が頭を下げて頼んでいるんだ」。
阪急・上田利治(としはる)監督「それがどうしたのですか」
1978年(昭和53年)、
ヤクルト―阪急の日本シリーズ第7戦である。
ヤクルトの大杉勝男選手が放った左翼ポール際の飛球を本塁打と認めた判定に、
上田監督はファウルを主張して譲らない。
線審の交代まで要求し、
抗議は1時間19分に及んだ。
ファン置き去りの抗議は、
当然ながら非難の十字砲火を浴びた。
内容といい、
時間といい、
むちゃな抗議であり、
執念を褒めるわけにはいかない。
いかないのだが、
いまでも何かの時にふと、
その人の背中を思い浮かべることがある。
こらッ、
早く再開しろ!
テレビ桟敷では、
おそらく列島の何百万人かが毒づいたことだろう。
孤立無援のグラウンドに立ち、
無言の罵声を1時間19分にわたって受け止めつづけた背中である。
阪急を三度の日本一に導いた名将、
上田さんが80歳で亡くなった。
〈われ生かす信(しん)はわれには唯一(ゆいつ)なり評する者のあらば我(われ)のみ〉(窪田空(うつ)穂(ぼ))。
あの日の、
男の背中よ。