日暮しの種 

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夏休みが始まる

2017-07-29 19:00:00 | 編集手帳

7月23日 編集手帳

 

 大勢の子供が歓声を上げて校門を出てくる。
〈夏休みが始まるのだ。
 生徒たちの前には、
 自由な、
 楽しい二カ月が待っている〉

ヴェルヌの『十五少年漂流記』(波多野完治訳)である。
19世紀にフランスの作家が著した少年冒険小説に、
21世紀の日本の少年少女も共感するところ大であるに違いない。
各地の小中学校で先週、
1学期の終業式が行われた。

2か月には及ばずとも先は長い。
この時期の子供にとって休みの終わりは大海の水平線のようなものだろう。
行く手は茫(ぼう)として、
それこそどんな冒険が待ち受けるとも知れない。

子供の学力向上を旗印に、
授業日数増加の方針を打ち出した自治体が静岡県にある。
夏休みの大幅な短縮も念頭に置くという。
動きの広がり次第で人が夏休みに抱く心持ちも変わって来よう。

夏になると私はこころのなかに船をつくる。
積み荷は酒とさまざまな記憶だけ――詩人の木原孝一は「ちいさな船」という作品に綴(つづ)った。
〈私のちいさな船は時の運河をさかのぼり
 こころのなかの七ツの海を漕(こ)いでゆくのだ〉。
誰の胸中にもある追憶の海は、
海のままであり続けるだろうか。



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この母にして、 この子あり

2017-07-29 05:00:00 | 編集手帳

7月22日 編集手帳

 

 元関脇北勝力(ほくとうりき)、
いまの谷川親方は「勝てば賜杯」の一番に負けた。
2004年夏場所。
相手は当時19歳、
新入幕の白鵬である。
二度の“待った”でじらされ、
立ち合いの変化にしてやられた。

谷川親方に後日談をうかがったことがある。
その一番から4年後、
2008年のモンゴル巡業で一人の婦人に声をかけられた。
「あの相撲はあなたが勝っていました。
 ごめんなさい」。
白鵬関の母、タミルさんだった。

4年前の息子の取り口を恥じ、
覚えていて相手に謝る。
何とまあ、
すごいお母様だろう。
「越権行為ですね。
 でも、
 おふくろはありがたい」。
伝え聞いた白鵬関は苦笑いしたという。

きのうの「スポーツ報知」でタミルさんの手記を読んだ。
帰化する道を息子が選ぶのなら、
その意見を尊重する。
なぜなら、
ここまで成長させてもらい、
〈息子は「相撲」に恩返しをしなければいけない〉からだ、
と。

前人未到の1048勝を成し遂げた人がテレビに映っている。
この日の勝ち相撲ではなく前々日の負け相撲に触れ、
ポツリとつぶやいた言葉が耳に残った。
「相撲は奥が深い」。
この母にして、
この子あり。



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