7月23日 編集手帳
大勢の子供が歓声を上げて校門を出てくる。
〈夏休みが始まるのだ。
生徒たちの前には、
自由な、
楽しい二カ月が待っている〉
ヴェルヌの『十五少年漂流記』(波多野完治訳)である。
19世紀にフランスの作家が著した少年冒険小説に、
21世紀の日本の少年少女も共感するところ大であるに違いない。
各地の小中学校で先週、
1学期の終業式が行われた。
2か月には及ばずとも先は長い。
この時期の子供にとって休みの終わりは大海の水平線のようなものだろう。
行く手は茫(ぼう)として、
それこそどんな冒険が待ち受けるとも知れない。
子供の学力向上を旗印に、
授業日数増加の方針を打ち出した自治体が静岡県にある。
夏休みの大幅な短縮も念頭に置くという。
動きの広がり次第で人が夏休みに抱く心持ちも変わって来よう。
夏になると私はこころのなかに船をつくる。
積み荷は酒とさまざまな記憶だけ――詩人の木原孝一は「ちいさな船」という作品に綴(つづ)った。
〈私のちいさな船は時の運河をさかのぼり
こころのなかの七ツの海を漕(こ)いでゆくのだ〉。
誰の胸中にもある追憶の海は、
海のままであり続けるだろうか。