12月3日 NHK「おはよう日本」
NATOをめぐって今アメリカとロシアは“新冷戦”と言われるほど関係が悪化している。
去年3月 国内外のメディアの前に行った演説で
プーチン大統領はロシア軍の次世代兵器を紹介。
このなかで核弾頭を搭載したミサイルが発射される動画が流れたが
飛行した先はアメリカのフロリダ半島にそっくり。
フロリダはトランプ大統領の別荘があることで知られている。
こうなった背景にあるのは“NATOの拡大”である。
冷戦の終結直後はNATOの加盟国は16か国だったが
今では29か国にまで増えていて
ロシアとの国境に接するまでになっている。
ロシアはアメリカを中心とする軍事同盟が迫ってきていることを非常に強く警戒している。
その中でカギを握っているのがウクライナである。
1989年12月3日
(当時の米ブッシュ大統領)
「ソビエトでの改革が進み
新しい時代を迎えることができた。」
(当時のソビエト ゴルバチョフ大統領)
「冷戦時代とははっきり決別すべきだ。」
固く握手を交わすふたり。
冷戦終結の喜びに世界が酔いしれるなか
水面下ではアメリカとロシアの間で
ウクライナを取り込もうと
軋みが生じ始めていた。
冷戦終結から2年後の1991年
ソビエトが崩壊しロシアに。
この時ウクライナは独立し
初代大統領にクラフチューク氏が就任した。
クラフチューク氏は
ウクライナに対するロシアの姿勢に当初から不満を持っていたことを明らかにした。
(ウクライナ初代大統領 クラフチューク氏)
「ロシアはウクライナを対等な相手とはみなさずに
単なる年下の弟ぐらいにしか見ていませんでした。」
NHKが入手したウクライナ政府の機密文書には
ロシア側への不満の一端が見て取れる。
1993年9月 ウクライナの外相がクラフチューク大統領に送った文書。
そこには
“ソビエト時代に配備されていた核兵器を
ウクライナがロシアに引き渡す際の巨額の補償金の支払いをロシアが拒否している”
と記されていた。
さらにクラフチューク氏は
ロシアからあからさまな圧力を受けたというエピソードを明かした。
1993年
モスクワでロシアのエリツィン大統領と食事をしたとき
エリツィン大統領はロシアの外交戦略文書を示しながらこう話したという。
(当時 エリツィン大統領)
「ウクライナがロシアから離れて親ヨーロッパに動くなんて
大統領であるあなたがそんなこと思っていないだろうね。」
(ウクライナ初代大統領 クラフチューク氏)
「ロシアはウクライナが自由に国内・外交政策を進めるのを許さないと分かりました。
そこでNATOへの加盟について考え始めたのです。」
アメリカをはじめとする西側諸国が共産主義諸国に対抗するためつくったNATO。
1993年に誕生したアメリカのクリントン政権は
このNATOをウクライナも取り込む形で拡大することに関心を抱き始めていた。
ただクリントン大統領はロシア側に
“NATOの拡大はロシアに影響しない
むしろ両者はいいパートナーになれる”と強調して理解を求めた。
しかしこうした言葉とは裏腹に
アメリカはロシア勢力圏の封じ込めを課題としていたことが
1994年のウクライナの機密文書で明らかになった。
(在米ウクライナ大使館よりウクライナ大統領補佐官にあてた文書)
ロシアがヨーロッパの一体性を脅かす恐れがあるとアメリカは考えている。
ロシアが勢力圏を作ろうとするのをアメリカは拒否しようとしている。
当時ウクライナの外交官としてワシントンに駐在しこの文書を作ったスメシコ氏。
(元駐ワシントン外交官 スメシコ氏)
「米国は
300年も続いたロシア帝国の野望は
遅かれ早かれ脅威になると認識していました。
私が書いた報告書は
アメリカの国防総省や国務省の一部のエリートの見方を反映していました。」
スメシコ氏の見立てどおり
NATOはその後
ロシアを封じ込めるかのように東に拡大している。
冷戦終結から10年後の1999年
チェコ ポーランド ハンガリーが加盟。
2004年には旧ソビエトのバルト3国までが加わる。
ロシアのプーチン大統領は当初アメリカとの関係改善を意識していた。
しかしNATOの拡大を受けて
2007年
欧米の政府関係者を前に怒りをぶちまけた。
(ロシア プーチン大統領)
「我々は条約を守っているのに
NATOは条約を破り国境に迫ってきている。」
この演説は欧米への対抗姿勢を一気に強める分岐点となった。
翌年
ロシアはNATO加盟を目指していた当時のグルジアに軍事進攻。
2014年には新米路線を強めるウクライナに対してクリミア併合に踏み切った。
国営テレビではアメリカへの敵意をあらわにした発言も頻繁に聞かれるようになった。
(11月20日 ロシア国営テレビ)
「略奪者のアメリカは国際法を無視し
強い者の減速で行動している。
アメリカがそうくるなら
同じようにやってやろうじゃないか。」
アメリカへの不信感は国民にも浸透した。
(市民)
「アメリカとの関係は冷え込んでいて修復不可能です。」
「アメリカはいつだって敵です。
これからも変わりません。」
ロシアの外交専門家は
NATOの拡大を許した苦い経験はプーチン政権や国民に広く共有されていると指摘。
アメリカとの関係については悲観的な見方をした。
(ロシア外交に詳しい コージン氏)
「ロシアとアメリカの関係は
停滞というより深刻な崩壊状態にあります。
かつての冷戦よりさらに冷たい戦争なのです。」