1月11日 読売新聞「編集手帳」
経済小説を切り開いた城山三郎さんに『隠し芸の男』という短編がある。
銀行のきまじめな課長を主人公にしている。
ただ隠し芸は持っていた。
下腹に墨で顔を描いて踊る裸踊りだ。
行員人生に必要だと、
長年苦い思いをかみ殺して演じてきた。
そして新課長となって初めての新年会。
部下の心をつかもうと披露するが、
若者らは「ボウリングに行きたい」などと言って去ってしまう。
物語は昭和40年代を舞台とする。
いまの若い人たちの宴会離れはこれ以上だろう…と、
てっきり思っていたところ、
過日、
意外な記事を読んだ。
民間の外食調査機関の調べで今シーズン、
忘年会と新年会に参加すると答えた人が45%となり、
過去最高を更新したという。
20代の参加も高めに出た。
会社が費用を補助する取り組みのほか、
場所や時間にとらわれない働き方が増えて、
仲間意識を築くことへの関心が高まったためともいわれる。
なるほどと頷うなずきつつ、
別の理由もよぎる。
宴会がかつてより節度を保つことも大きいのではと。
隠し芸に沸く職場がまだあるだろうか。
安心して宴会に行けるのはなにも若い人たちに限らない。