12月8日 読売新聞「編集手帳」
つれづれなるままに…で始まる「徒然草」の序段はなぜ珠玉の名文だと言えるのか。
灘中・高校で教え、
伝説の国語教師の異名を取った橋本武さんは、
わずか60字ほどの段を九つのパーツに分解、
図式化して、
兼好法師の工夫や思いを鮮やかに解き明かす。
中学時代に出会ってから大切に読み続け、
古希近くに成果を『解説 徒然草』(ちくま学芸文庫)としてまとめた。
教科書は使わずに中勘助の小説「銀の匙さじ」を3年かけて読み解く。
型破りな授業で知られたが、
古典も独特だった。
草仮名で綴(つづ)られた原本を自らなぞり、
ガリ版刷りで教材を作る。
グループでの共同研究を課題に出す。
「味わいつくし、
調べつくす。
読書が自分の体験になると一生の財産になる」。
そんな言葉を遺(のこ)している。
読解力とか試験の見直しとか。
先生の働き方も含め、
ここ数日、
耳にする難題は一つの輪っかでつながるようにも思える。
先の書の解説で教育学者の斎藤孝さんが説いていた。
橋本先生の徒然草への熱いあこがれが生徒に伝播(でんぱ)し、
彼らも深い洞察にあこがれる。
<教育の原理とは、
「あこがれにあこがれる関係性」>だと。