12月15日 NHK「おはよう日本」
世界各地で相次ぐハリケーンや洪水などの災害。
温暖化との関連も指摘され
対策を求める声が高まっている。
スペインで行われた温暖化の対策会議 COP25。
危機感を強める世界の若者たちも声を上げた。
そこで注目されたのは“アパルトヘイト”というキーワードだった。
「私たちからみれば温暖化は環境の人種差別であり
アパルトヘイトです。」
人種差別に使われる“アパルトヘイト”がなぜ温暖化の会議で出てきたのか。
“アパルトヘイト”という言葉は
今年国連が出した地球温暖化についての報告書
“Climate change and poverty(気候変動と貧困)”で使われた言葉である。
温暖化が貧困を生み格差を広げていると指摘していて
このままでは人種差別と同じような事態となりかねないと
強い危機感を表した言葉である。
この言葉はいま途上国だけでなく先進国でも強く意識されるようになってきている。
去年 大規模な山火事に相次いで襲われた米カリフォルニア。
1年間で7,000回以上の山火事が起き
死者は100人にものぼった。
火事のあった地域は今もその焼け跡が生々しく残っている。
ところがその山火事に襲われた一角に
何事もなかったかのように立ち並ぶ高級住宅街がある。
住人はラップ歌手のカニエ・ウェストさんとキム・カーダシアンさん夫婦などの
いわゆるセレブ。
その高級住宅を守るのに一役買ったとっされるのが・・・。
今アメリカでは“プライベートの消防隊”が富裕層の間で人気を集めている。
山火事が発生すれば
住宅の周りの木を切って延焼を食い止めたり
燃えない特殊な物質を散布したりして
高級住宅を迫り来る火の手から守る。
しかし1年で100万円ともいわれる保険料を払えればの話である。
一般の住民からは冷ややかな声も聴かれる。
「お金を持っている人は消防隊を呼べるが
お金がなければあきらめるしかない。」
それでもこうしたサービスを始める保険会社は増えていて
業界団体は今後も需要は増えるとみている。
(保険情報機関)
「山火事などを防ぎ食い止めるサービスは
より高い関心を集めていると思います。
高級住宅の所有者は被害を防ぐ方法を探していますから。」
“温暖化は経済活動によって引き起こされているのに
守られるのは富裕層ばかりで
貧しい人々は放置されている。”
アメリカではいま若者を中心にこうした格差の拡大に怒りの声が広がっている。
(高校生)
「気候変動はお金のある人よりもお金のない人に影響します。
貧しい人はより貧しくなって
格差は拡大するでしょう。」
デモの主催者の1人でニューヨークに住む大学生のアイーシャさん。
スウェーデンの活動家 グレタさんともデモを行うなど
アメリカ政府に温暖化対策をとるよう呼びかけを続けている。
(温暖化対策求める大学生 アイーシャさん)
「もう待てません。
待っていれば手遅れになってしまいます。」
アイーシャさんが気候変動と貧困の因果関係を痛感したのは
7年前にアメリカを襲ったハリケーン“サンディ”がきっかけだった。
ニューヨークを直撃し
市内だけでも50人以上が死亡した。
アイーシャさんが暮らすコニーアイランド地区は
海岸に近く海抜の低い地域。
住民の3割近くは移民などの貧困層である。
自宅はハリケーンによる高潮で壊れるなど大きな被害を受けた。
(アイーシャさん)
「家に水が入ってきて
1階が半分まで水につかり
家具など全て壊れてしまいました。」
その後ニューヨークの他の地区が輝きを取り戻すなかで
アイーシャさんの地区は
住民に経済力も政治力がないことなどから復旧工事も遅れがちになっているという。
(アイーシャん)
「すでに貧しい街だったのがさらに貧しくなりました。
復旧工事は何年経っても終わりません。
そのまま放置されています。
まるで捨てられた街のように感じています。」
住民の多くは災害が不安でも家賃が高い他の地域に移ることができない。
“財産”の有無によって人が差別され
繰り返し気候変動の影響にさらされている。
アイーシャさんはその理不尽さは“アパルトヘイトのような差別に近い”と感じている。
(温暖化対策を求める大学生 アイーシャさん)
「住んでいる人が悪いのではありません。
財産がないだけです。
これは不正義です。
完全に不正義です。
被害にあった人を忘れてしまうのは人だと思っていないからです。
同じ人間だと考えるなら後回しにはできないはずです。」
国連に専門家によると
こうした同じようなことは他の国でも起きていると指摘する。
国連の報告書で最初に“気候アパルトヘイト”を指摘した
ニューヨーク大学のオーストン教授は
“再生可能エネルギーなどへの転換などとともに
温暖化で被害を受けた人たちへの補償も必要だ”と指摘している。
(国連特別報告者ニューヨーク大学 フィリップ・オーストン教授)
「裕福なエリートが何もせず
化石燃料への投資から利益を得続けている限り
われわれは“気候アパルトヘイト”という体制のもとにあります。
しかし重要なのは
南アのアパルトヘイトが崩壊したのと同じく持続不可能だということです。
政府は化石燃料から再生可能エネルギーに転換する計画を進めなければなりません。
温暖化が進めば財産を失ってしまう人たちに
何らかの保証を与えることもできるのです。
これには本当に大きな経済再編が必要です。」