(← その4からの続き)
【第5話 クリッシー・チャウの“世界”(ザ・ワールド)】
いよいよ最終日となったプロジェクト運輸。
帰りのフライトは16時ごろだったので、昼ご飯を空港で過ごすことになった。
起きてすぐに荷物の整理をして、チェックアウト、その後荷物をホテルに預けて、お土産を買うことに時間を当てた。
買い物は二手に分かれることにした。
追う者と、追われる者、つまり挟み撃ちになるわけだな?
と承太郎が言ったかどうかはわからないが、とにかく、目的別に別行動となった。
承太郎とジョセフは、本屋に用があると言うことで、チムサァチョイを北上する。
アヴドゥルと花京院は、ワインを買いたいと言うことで、ホテルから南西あたりを散策することにした。
承太郎の目的は、クリッシー(周秀娜)というグラビアアイドルの写真集「キッシー・クリッシー(周秀娜)」を手に入れることだった。
実はこれには長い物語がある。
ここでクリッシーと承太郎の淡い恋の物語を語ろうと思う。
彼と彼女の出会いは、突然思いがけないところだった。
それまで見慣れていたはずのクリッシーに承太郎は恋心を抱いていることに気づいたのだ。
地下鉄にはさまざまな広告が、日本と同じように飾られている。
僕たちはそこを何度も通って、下着の広告「スリムビューティ」のモデルが誰なのかが気になっていた。
あるとき、その広告をよく見てみると、そこには周秀娜と書いてあるではないか。
つまり、その下着を着た女性は、有名なモデルか女優かなのだということを僕たちは初めて知ったのだ。
そうなると、そのクリッシーと書かれた女性がどんな人なのか、気になってくる。
そこで、承太郎は我慢できずに、三日目の深夜、男人街から南下してくる道中で入ったバー(だけれど飲んだのはコーヒー)で、女性店員に聞いてみたのだ。
「ドゥ ユー ノゥ クリッシー?」
伝わらなかったようで、筆談に移り、漢字を書いてようやく気づいてくれた。
「ああ、知っているわよ、香港では人気のあるモデルよ。」
「写真集とか出していないですか?」
「ええ、あるわよ。コンビニとかで聞けば売っているんじゃないかしら? ねぇ、売っているわよね?」
その女性の友達にも話を確認していたようで、とにかくクリッシーは有名らしい。
そして、なんと、そのあたりのコンビニで聞けば写真集が手に入る、ということ。
(ちなみに、その店員は、ウェイトレスをしながら、友達と普通に店内で飲んで話し込んでいた…)
さっそく深夜2時くらいにコンビニを物色して、片っ端からクリッシーの写真集を探し回った。
だが、どの店も、売っていなかった。
知っているし、あったらしいのだが、売り切れのようだった。
そして、承太郎が店員に聞いている間、僕たちはゴシップ誌を物色して、クリッシーのスキャンダラスな記事を目の当たりにしてしまう。
「クリッシー整形疑惑!」
「クリッシーもと彼氏に強姦される!」
「クリッシー豊胸も?!」
おいおい、どんだけ叩かれてんねん。
これはもしかしてすごく人気のある女優なのではないか!
はたまたトンデモ女なのか?
とにかく、コンビニを回るたびに、どんどん僕たちのテンションは上がり、もう、これは明日(最終日)に本屋で探すしかない!
という結論にいたったのだった。
(ちなみに、最後に立ち寄ったホテルのすぐそばのコンビニの周りには黒人が数多くたむろしていた。
多分数にして40人以上。
なにやら話し合っていたのだが、怖くって怖くって。
とくに何かを話しかけられるわけではないのだが、異様な雰囲気だった。
早く行こうよ承太郎。写真集よりも自分の命のほうが大切だよぅ! と内心思っていた。
黒人への偏見、というのではなく、時間帯と集まり方が尋常じゃなかった。
ここはもしかしてサムの縄張りか?(「インファナル・アフェア」))
――ということで、待ち人を捜すべく、本屋へ直行したのだ。
結果、残念ながらどの本屋、どのコンビニにもなかったらしい。
もう売り切れと言うことなのか、どうなのか。
日本に帰って確認するしかないなぁ、とクリッシーの“世界(ザ・ワールド)”に完敗した承太郎だった。
一方、そのころ僕らは、ワイン専門店を目指していた。
その前に、ウェルカムスーパーストアに立ち寄って、「お菓子ばっかり買ってきて!」と言っていた同僚と、「変なもんをちょうだい」といっていた同僚へのお土産を物色しに回った。
お菓子は残念ながら、日本からの輸入品が多く、おもしろいものはすくなかった。
とりあえず、黒こしょう味のポテトチップスと、トマト味のポテトチップスを購入しておいた。
変なものといえばやっぱりあの塩豆腐、ということになるだろうが、そこは自粛した。
アワビの絵が入っているカップ麺と、香港ではもっともポピュラーで、店でも普通に食べられる「出前一丁」を購入した。
あと、その他諸々を買ったと、大きな荷物を抱えて、ワイン店へ。
だが、開店時間になっていなかったので、近くのDFSを目指した。
特に何かほしいわけではなかったが、観光しにきたならとりあえずよっておくべきかな、ということで、行ってみたところ、それまでの物価とのギャップにびっくりして、返り討ちにあった。
その通りは大きなショッピングモールがならぶ場所だった。
たとえが難しいが、高級ブランド店が数多くならぶビルをさらに行き来できるようにつないだ構造になっていた。
広すぎて、迷子になりそうだった。
だが、ところどころ、雨に絶対に濡れる構造になっていて、雨の多い香港ではちょっと不親切な作りだった。
まあ、貧乏人のひがみですけどね!
小腹が減ってきた二人は、とりあえず、何かを食べようと目についたバーガーキングへ立ち寄った。
なんで香港まできてファストフードやねん、と思いながらニュージーランドでも食べた「懐かしい味」に舌鼓を打った。
戻ってワイン店へ。
まったく日本語が通じず、英語もままならない店員に、「ノー スウィート!」と言いまくって購入した。
そこのワイン屋ががちんこワイン店で、1ボトル5000香港ドルなんていう商品がならんでいた。
つまり、6万円強の高級ワインだ。
そこまでさすがにかけられないので、ワゴンセールのような樽から200香港ドル程度のワインを二本選んで持って帰った。
僕はアヴドゥルと話をしながら街を歩いた。
距離じたいはそれほどでもない。
通りを三つ四つ歩いただけなので、疲れはなかった。
僕はここで不思議な体験をした。
実際には、ここだけではなく、前日の屋台を歩き回っていたときにも覚えた感覚だった。
そして、僕はこの不思議な感覚にとらわれることが、これまでに幾度とあった。
自分がここにいることを認識しながらも、どこかここにはいないような、実感が失われていく感覚だった。
酔っているからではない。
自分は確かにここにいる。
けれど、ここではないどこかから、妙に冷静にこの不思議な街の光景を見ている。
宙に浮いたような、それは、まさに〈身体〉感覚を伴わないリアルでありながら、リアルとは思えない不思議な感覚だ。
僕はよくこのトランス状態に陥る。
めまいとは全く違うので、病気のたぐいではないだろう。
コンサートなどでよくそうなる。
眼前にある光景を焼き付けておこうと意識しすぎる反面、どこかさめている自分がいる。
不思議な感覚だ。
12時に合流した僕たちは、ホテルの人が運転するバスで、一気に空港へ。
チェックインを済ませて、オクトパスカードを返却、空港の飲食店でご飯を食べた。
中華風のファストフード店だった。
味はかなりいける。
選択肢はバーガーキングとの二択だったので、こちらでよかった…。
慌ただしく本屋(まだまだチェックです)とお土産物店を回って、あれよあれよという間に、もうフライトの時刻に。
帰りのフライトもうやっぱりビールを飲んで、爆睡して日本に帰ってきたのであった。
(→ その6に続く)
【第5話 クリッシー・チャウの“世界”(ザ・ワールド)】
いよいよ最終日となったプロジェクト運輸。
帰りのフライトは16時ごろだったので、昼ご飯を空港で過ごすことになった。
起きてすぐに荷物の整理をして、チェックアウト、その後荷物をホテルに預けて、お土産を買うことに時間を当てた。
買い物は二手に分かれることにした。
追う者と、追われる者、つまり挟み撃ちになるわけだな?
と承太郎が言ったかどうかはわからないが、とにかく、目的別に別行動となった。
承太郎とジョセフは、本屋に用があると言うことで、チムサァチョイを北上する。
アヴドゥルと花京院は、ワインを買いたいと言うことで、ホテルから南西あたりを散策することにした。
承太郎の目的は、クリッシー(周秀娜)というグラビアアイドルの写真集「キッシー・クリッシー(周秀娜)」を手に入れることだった。
実はこれには長い物語がある。
ここでクリッシーと承太郎の淡い恋の物語を語ろうと思う。
彼と彼女の出会いは、突然思いがけないところだった。
それまで見慣れていたはずのクリッシーに承太郎は恋心を抱いていることに気づいたのだ。
地下鉄にはさまざまな広告が、日本と同じように飾られている。
僕たちはそこを何度も通って、下着の広告「スリムビューティ」のモデルが誰なのかが気になっていた。
あるとき、その広告をよく見てみると、そこには周秀娜と書いてあるではないか。
つまり、その下着を着た女性は、有名なモデルか女優かなのだということを僕たちは初めて知ったのだ。
そうなると、そのクリッシーと書かれた女性がどんな人なのか、気になってくる。
そこで、承太郎は我慢できずに、三日目の深夜、男人街から南下してくる道中で入ったバー(だけれど飲んだのはコーヒー)で、女性店員に聞いてみたのだ。
「ドゥ ユー ノゥ クリッシー?」
伝わらなかったようで、筆談に移り、漢字を書いてようやく気づいてくれた。
「ああ、知っているわよ、香港では人気のあるモデルよ。」
「写真集とか出していないですか?」
「ええ、あるわよ。コンビニとかで聞けば売っているんじゃないかしら? ねぇ、売っているわよね?」
その女性の友達にも話を確認していたようで、とにかくクリッシーは有名らしい。
そして、なんと、そのあたりのコンビニで聞けば写真集が手に入る、ということ。
(ちなみに、その店員は、ウェイトレスをしながら、友達と普通に店内で飲んで話し込んでいた…)
さっそく深夜2時くらいにコンビニを物色して、片っ端からクリッシーの写真集を探し回った。
だが、どの店も、売っていなかった。
知っているし、あったらしいのだが、売り切れのようだった。
そして、承太郎が店員に聞いている間、僕たちはゴシップ誌を物色して、クリッシーのスキャンダラスな記事を目の当たりにしてしまう。
「クリッシー整形疑惑!」
「クリッシーもと彼氏に強姦される!」
「クリッシー豊胸も?!」
おいおい、どんだけ叩かれてんねん。
これはもしかしてすごく人気のある女優なのではないか!
はたまたトンデモ女なのか?
とにかく、コンビニを回るたびに、どんどん僕たちのテンションは上がり、もう、これは明日(最終日)に本屋で探すしかない!
という結論にいたったのだった。
(ちなみに、最後に立ち寄ったホテルのすぐそばのコンビニの周りには黒人が数多くたむろしていた。
多分数にして40人以上。
なにやら話し合っていたのだが、怖くって怖くって。
とくに何かを話しかけられるわけではないのだが、異様な雰囲気だった。
早く行こうよ承太郎。写真集よりも自分の命のほうが大切だよぅ! と内心思っていた。
黒人への偏見、というのではなく、時間帯と集まり方が尋常じゃなかった。
ここはもしかしてサムの縄張りか?(「インファナル・アフェア」))
――ということで、待ち人を捜すべく、本屋へ直行したのだ。
結果、残念ながらどの本屋、どのコンビニにもなかったらしい。
もう売り切れと言うことなのか、どうなのか。
日本に帰って確認するしかないなぁ、とクリッシーの“世界(ザ・ワールド)”に完敗した承太郎だった。
一方、そのころ僕らは、ワイン専門店を目指していた。
その前に、ウェルカムスーパーストアに立ち寄って、「お菓子ばっかり買ってきて!」と言っていた同僚と、「変なもんをちょうだい」といっていた同僚へのお土産を物色しに回った。
お菓子は残念ながら、日本からの輸入品が多く、おもしろいものはすくなかった。
とりあえず、黒こしょう味のポテトチップスと、トマト味のポテトチップスを購入しておいた。
変なものといえばやっぱりあの塩豆腐、ということになるだろうが、そこは自粛した。
アワビの絵が入っているカップ麺と、香港ではもっともポピュラーで、店でも普通に食べられる「出前一丁」を購入した。
あと、その他諸々を買ったと、大きな荷物を抱えて、ワイン店へ。
だが、開店時間になっていなかったので、近くのDFSを目指した。
特に何かほしいわけではなかったが、観光しにきたならとりあえずよっておくべきかな、ということで、行ってみたところ、それまでの物価とのギャップにびっくりして、返り討ちにあった。
その通りは大きなショッピングモールがならぶ場所だった。
たとえが難しいが、高級ブランド店が数多くならぶビルをさらに行き来できるようにつないだ構造になっていた。
広すぎて、迷子になりそうだった。
だが、ところどころ、雨に絶対に濡れる構造になっていて、雨の多い香港ではちょっと不親切な作りだった。
まあ、貧乏人のひがみですけどね!
小腹が減ってきた二人は、とりあえず、何かを食べようと目についたバーガーキングへ立ち寄った。
なんで香港まできてファストフードやねん、と思いながらニュージーランドでも食べた「懐かしい味」に舌鼓を打った。
戻ってワイン店へ。
まったく日本語が通じず、英語もままならない店員に、「ノー スウィート!」と言いまくって購入した。
そこのワイン屋ががちんこワイン店で、1ボトル5000香港ドルなんていう商品がならんでいた。
つまり、6万円強の高級ワインだ。
そこまでさすがにかけられないので、ワゴンセールのような樽から200香港ドル程度のワインを二本選んで持って帰った。
僕はアヴドゥルと話をしながら街を歩いた。
距離じたいはそれほどでもない。
通りを三つ四つ歩いただけなので、疲れはなかった。
僕はここで不思議な体験をした。
実際には、ここだけではなく、前日の屋台を歩き回っていたときにも覚えた感覚だった。
そして、僕はこの不思議な感覚にとらわれることが、これまでに幾度とあった。
自分がここにいることを認識しながらも、どこかここにはいないような、実感が失われていく感覚だった。
酔っているからではない。
自分は確かにここにいる。
けれど、ここではないどこかから、妙に冷静にこの不思議な街の光景を見ている。
宙に浮いたような、それは、まさに〈身体〉感覚を伴わないリアルでありながら、リアルとは思えない不思議な感覚だ。
僕はよくこのトランス状態に陥る。
めまいとは全く違うので、病気のたぐいではないだろう。
コンサートなどでよくそうなる。
眼前にある光景を焼き付けておこうと意識しすぎる反面、どこかさめている自分がいる。
不思議な感覚だ。
12時に合流した僕たちは、ホテルの人が運転するバスで、一気に空港へ。
チェックインを済ませて、オクトパスカードを返却、空港の飲食店でご飯を食べた。
中華風のファストフード店だった。
味はかなりいける。
選択肢はバーガーキングとの二択だったので、こちらでよかった…。
慌ただしく本屋(まだまだチェックです)とお土産物店を回って、あれよあれよという間に、もうフライトの時刻に。
帰りのフライトもうやっぱりビールを飲んで、爆睡して日本に帰ってきたのであった。
(→ その6に続く)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます