箕面三中もと校長から〜教育関係者のつぶやき〜

2015年度から2018年度に大阪府の箕面三中の校長を務めました。おもに学校教育と子育てに関する情報をのせています。

生きていることとは

2021年12月03日 08時05分00秒 | 教育・子育てあれこれ

この頃の寒さが増す夕暮れの夕焼けは、しみじみとその美しさを増すように思います。

空気がピンと張り詰め、オレンジ色も心なしかその色を増すようにも思います。

さて、日本では19歳以下の自殺者の数は、1998年(平成元年)以降で最も多くなりました。

コロナ災禍も関係しているのかもしれません。

これは他の諸外国では見られない傾向です。

なぜ、日本では若い人が生きづらいのでしょうか。

死に急ぐ若者がよく口にするのが「生きている価値がない」です。

わたしは、よく教職員に「いまの中学生は自分に自信をもてない子が多い。だから、自分も周りに役立つという実感を深めるようサポートしてください」と説いてきました。

中学校の職場体験学習などは、仕事を体験して、お客さんから「ありがとう」と言ってもらったり、お店や事業所の人から「よくやってくれた。助かったよ」と言ってもらえます。

それが中学生の役立ち感を高めることになり、自分も将来社会に貢献することができるという実感をもち、自分への自信を高めることにつながる。

このように説明してきました。

それは真実ですが、では役立ち感を感じずに学校へ戻ってくる生徒にとって、職場体験は無駄なことだったのかといえばそうではありません。

自分が働く主体として、人として生きていくことを経験するだけでも大きな意味があるのです。

しかしいまは、過剰なほど世間や社会が若い人に「まわりや社会に役立つ」ことを求めすぎているのではないでしょうか。

文科省も、経済産業省の要請を受け、society5.0社会を見据え、学校教育に社会に役立つ人材の育成の役割に重きを置いています。

でも、人間は社会に役立たないと生きていてはダメなのでしょうか。

そんなことはありません。人は生きているだけで尊いのです。

生きていて、周りの風景を見て、きれいな夕焼けを見ることができる。そのような生きている価値に気がついてほしいのです。

周りの大人は、もっと「今日の夕焼けはきれいだったね」「彼岸花が燃えるように咲き誇っている」「星が降るように見えている」・・・のような言葉を中学生にかけるのです。

自然や動物・植物など、この世界のすべてのものを見たり、聞いたり、感じたりする。

それらの対象物と自分との関係の中で自分が生きていることを感受するのです。

桜が満開な中、正門をくぐると、桜が「いらっしゃい。入学おめでとう」と、満面の笑みでささやいているように感受する。そのような関係性の中で、自分が生きていることを味わうという感覚です。

自然だけではなく、心がいろいろなしがらみから解放され自由であるという実感も生きている価値を味わえると思います。

生きるということはそういうことだと思います。