画像は同じ生徒の筆記サンプルです。左が初回。右が最終です。右は表に収まりきらず、裏面にも記述が及んでいます。
中国五県造形教育研究会で授業公開した出雲市立光中学校3年生の2回目の筆記サンプルが届いたので、変化をまとめてみました。
この筆記サンプルはVTSJを受講した際にも紹介されたもので、VTSJのSTEP③に向けては、実践対象者の対話型鑑賞受講前後に必ず実施するように義務付けられていたものです。
同じ作品を対話型鑑賞を体験する前と後で、どのような変化があるのかを知ることで、鑑賞者の美的発達を知ることもできるし、ナビは、自分のナビが鑑賞者の鑑賞力をUPさせることができているのかを知る手がかりにもなるという、ナビにとっては怖いような、しかし、知らずにはおられないような、そんな取り組みです。
VTSについては、日本語訳「学力をのばす美術鑑賞」(淡交社)がそろそろ発売になるので、ぜひ、入手して読んでいただきたいと思います。私もまだ、手に入れてないのですが、筆記サンプルに触れた記述があるなら、そこをみてもらうと、この取り組みについての理解が深まると思います。
さて、光中学校の3年生には、対話型鑑賞を始める前に1回目を取りました。10分くらいで記述してもらったので、十分な時間を与えたとは言えませんが、書きかけの生徒は2名くらいでした。
プリントに印刷されている作品をみて、
①みえているものは何か?
②どこからそう思うのか?
③そこからさらに考えられることは?
について書くように指示しても、初めてのことだから、「何をどう書けばいいのか。」さえも分からないと思います。ここで、スラスラ書ける生徒がいたとしたら、その生徒の美的発達段階は、指導者の私より上ということになります。さすがに、そんな生徒はいませんでした。だから、時間も10分もあれば十分なのです。それ以上時間を与えても書けることはないのです。それは、大人だって同じです。そこをスタートにして、どこまで、書けるようになるか、どんな風に書けるようになるかが、この後の鑑賞活動にかかっているのです。さて、5回の対話型鑑賞を終えての生徒の変化はどうだったのでしょう?
まず、当然といえば当然なのですが、記述量は飛躍的に増えます。文字数が増えていない生徒は一人もいませんでした。
その一つとして、みえるものが増えます。同じ作品なので、みえているものは同じはずなのに、細かいところまで気付けるようになります。初回に比べると、自分の気になったもの、目に付いたものだけでなく、作品全体を隈なくみているし、身なりだったり、表情や仕草、色使い、細かい描写までみられるようになっています。それだからこそ、ここに描かれた人たちにどんな関係があるのかを考えようとすることができるというか、関係性を考えるために、もっとよくみることができるようになるのかも知れません。
また、記述の仕方も、授業で繰り返し問いかけた「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」に答えたときのように書かれています。「~~のようにみえるので、○○だと思う。」「~~だと思ったので、〇〇ではないかと思いました。」のように根拠を示しながら自説を展開する記述に変化しています。この記述法を強いたことは一度もありません。でも、生徒は、このような記述のスタイルを取るようになります。それは、筆記サンプルを取るときだけではなく、鑑賞後のワークシートへの記述の時も同様のスタイルを取るようになります。思考が根拠をもとにしながら構築されている結果だと言えるのではないでしょうか。また、自説を構築するために、もっとよくみるのだと思います。そこには「どうして?」「どこから?」という問いを常に自分自身に問いかけている姿勢があると思います。
5回の実践を終えて、生徒に5回を振り返っての感想を書いてもらいましたが、その時一人の生徒が
やはり、春日先生は、今までの先生とは違って「どうしてそう思うのか」「どこからそう思うのか」を深く問われるので、春日先生の授業の時は意識して自分の発表の中に「どうして、どこから」を取り入れようとしていました。次第に自然と自分の考えを頭で考える時に(ここ、春日先生につっこまれそうだな。こう答えよう。)と答えを準備してから発表ができるようになりました。私はこの5回の対話型鑑賞で学んだ中で1番これからに活かしたいのは「どうして、どこから」精神です。だから、これからは今まで以上に「どうして、どこから」精神を大切にしていきたいです。
と記述していました。この鑑賞活動から、美術作品の鑑賞にとどまらず「どうして、どこから」精神で、自ら学ぶ姿勢が身についたのなら、いつも感じることですが、対話型鑑賞の活動は、鑑賞にとどまらない、これからの未来を生きていく子どもたちに求められている力をつけることができると考えています。
ナビとしては、一定の効果はあったのではないかと感じているところです。もっとやりようはあったのではないかという反省はもちろんありますが、生徒に成長をもたらすことは出来たという手応えは感じています。
この後は筆記サンプルをさらに詳細に検証し、生徒一人一人の変容を今後はみていこうと思います。ハウゼンの美的発達段階のステージが上がった生徒もいると思います。VTSJのセミナーを受講して3年が経過しますが、あの時に学んだ手法を思い出しながら、自分のナビをさらにUPさせるためにできることは何かを考えたいと思います。
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