風のように

ゆらり 気ままに 過ごすとき
頭の中は妄想がいっぱい
錯覚の中で生きるのが楽しみ

銀杏

2019-11-30 23:03:21 | こころ
銀杏の葉が今年も舞い始めた
さらさらと飛び交う黄色い吹雪

山里の立派なお寺の境内の一角で
樹齢何百年の銀杏の大木が空を覆い

本堂から裏門に続く庭一面を
黄色い葉が埋め尽くそうとしていた

一人の青年がこの村に来てから
半世紀を過ぎようとしていた

秋の深まった晴れた日に彼がこの村を
通ったのは行き先のない自転車旅の途中だった

寺の大きなの瓦屋根と大きな銀杏の木
それだけが向こうの山に光って見えた

青年はワクワクしながら自転車をこいだ
急坂はこぎきれずに押して登った

大木に残った銀杏の葉が
太陽を反射して風に耐えている

「おお~」と歓声を上げた青年は
寺の土塀に自転車を持たれ掛けさせ裏庭に走り込んだ

こんな大きな銀杏の木は見たことがない
大木の周り一面に敷き詰められた黄色い絨毯

たすきに掛けた帆布の頭陀袋から
取り出したスケッチブックに目の前の木を描くと

頭陀袋を枕に大木の根元に転がり落葉に包まれて
そのまま日が西に沈むまで眠り込んでしまった

かすかな温かさで包まれていた体が肌寒さを感じて
青年は起き上がり大きな伸びを一つした
コメント
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