長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

275. 木口木版画の蔵書票を摺る日々。

2017-01-07 18:21:45 | 版画
11月のブログに投稿したが、版の彫りを続けてきたN氏、オーダーによる蔵書票の木口木版画だが、その後、5回ほどの試し刷りを経て、ご本人にもGOサインをいただいたので、先月末より本摺りの作業に入った。摺り枚数はトータルで350枚。僕がオーダーを受けた版画の枚数としては2番目に多い数である。

毎日、この版画の摺りだけをやっているわけではなく、他の仕事の合間合間に摺っているのだが、午後から始めて夕飯の時間まで半日で僕のペースで、丁寧に摺ってせいぜい40-50枚ほど。トータルで1週間ほどかかるだろうか。それ以上摺れないこともないのだが、今回細かい彫りの部分が多く、油性インクでの摺り増しによる版の「つぶれ」を避けるため50枚程度で終了している。そこで版面のインクを掃除して一旦、休憩をとる。

摺りの手順としては、まずインクの準備から始まる。硬い活版用の製版インク、木版画用のチューブ入り油性インク、乾燥剤などをガラス板の上で金属のインクべらで練り上げて行く(数十分)。このインクをゴムローラーでガラス板上に慎重に、薄く、薄く伸ばしていく。板上に伸ばされたインクが厚ぼったいとこれも細かい彫りがつぶれて醜く摺りあがる原因となるからだ。それから彫りあがった木口の原板に、これも慎重に薄く、薄く盛っていく。そしてインクが盛れたらその上に摺るべき紙(今回は厚口のがんぴ紙)を周囲の余白が木製のガイドによってそろう位置に合わせて置き、バレンと木製のヘラを何回もこすって摺りあげて行く。これを半日で50回繰り返す(道具類は画像を参照)。

版画家にとって摺りの作業というのは「過酷な労働」である。それ以外の何物でもない。おそらく現役の版画家100人にアンケートをとったとして「摺りは嫌い、彫りの方が好き」と答える人は99%ではないだろうか。ただ、今回のようにオーダーによるラージ・エディション(摺り枚数が多いこと)となってくると、それだけの枚数が確実に人の手に渡っていくことに対する妙な快感も覚えてしまうのだが。

摺りの作業の間は「摺り三昧・すりざんんまい」に入る音楽をBGMとしてかけることにしている。以前はワーク・ソングとして「シカゴ・ブルース」をかけていたが、最近は画像にアップしたバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタと組曲」である。これをかけていると不思議と労働の辛さを忘れて摺りに没頭することができる。うまくはまったので、いろいろなソリストのCDをかけている。

大晦日から元旦もこの版画の摺りを行っていた。ここ、二日ぐらいは休んで別の仕事に集中しているのだが、現在、摺りあがりの枚数が245枚となった。失敗摺りは依然と比べてかなり減ったがここまで15枚ほど出している。なので、あと120枚摺らなければならない。あと3日ぐらいかな。成果品の納品が3月中旬なので、ここからは焦らずじっくりと摺りあげることにしよう。

画像はトップが摺りあがった木口木版画の蔵書票(この画面で30枚ほど)。下が向かって左から摺りあがった蔵書票のアップ、今回の版木、版木をガイドにセットしたところ、ガラス板にのばした油性インクとゴムローラー、愛用のバレン、BGMのバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタと組曲」のCD盤。


          


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1 コメント

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ご訪問いただきありがとうございました。 (uccello)
2017-01-16 23:53:26
ブロガーのみなさん、いつもマイブログにお立ち寄りいただきありがとうございます。いいね!やコメントをいただいた方々、感謝します。
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