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10年前の旧ユーゴスラビア自転車旅行記、走りつかれた夕食後、しかも
不安定なネット環境下で毎日記事UPしたので、手抜きの暫定版のままであった。
コロナで旅行もままならぬ10年後の2021年に、キチンと書き直してみた。
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2011-06/08 モクラゴーラからビシェグラード経由ガッコへ
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今日のハイライトは世界遺産のビシェグラードの橋、メフメットパシャソコロビッチ橋を観光することと、ストジェスカ自然公園内の山岳、峠越えのコースを走ることだ。そして、私的には、ヴィシェグラード発電所を訪問すること。
今回ビシェグラードを訪問するに当たっては、下記の本を読んだり、買ったりしてきた。
ノーベル文学賞を受賞した、アンドリッチの「ドリナの橋(The bridge on the Drina)」は、オスマントルコの時代から第二次大戦までの歴史をつづった長編文学らしい。らしいと言うのは、日本語訳を図書館で借りる元気がなく、まだ読んでないからだ。そこで、今回ベオグラードで英訳本を買った訳だ。
何時読めるかは、かなり疑問だが、まあ宿題としておこう。
一方の、「兵士はどうやってグラモフォンを修理するか」は、アンドリッチの小説に対するオマージュとして、最近ドイツで出版された小説で、12歳だった作者、セルビア人とボスニア人のハーフであるスタニシチのボスニア戦争前、戦争中、そしてドイツ亡命の事を書いた小説だ。
この小説には、日本人を描写した場面が出てくる。2人はボスニア戦争の勃発直前に昨日見たバイナバシュタ発電所の上流、ビシェグラード水力発電所建設で2年ほど町に住んでいたとの設定なので、多分これは私の先輩のTさんとIさんだろう。
ビシェグラード発電所の水車製造では、重さ百トンを超えるランナのステンレス鋳鋼素材の鋳込み立ち合いから、工場完成まで、生産技術課長として関わったので、私としても発電所を見ておきたかったのだ。(据付中の11万kWランナー)
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今日泊まったのは、有名な映画監督クリストリッツァの監修した、ロッジ。二階のダブルベットを使わせていただいたが、天井が低くて往生した。
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今日はセルビアから国境を越えてボスニアに入国するので、自転車は車載のまま国境の検問所へ。国境前の鉄道路線は”Life is miracle"のトロッコシーンに使われたと思われる狭軌の鉄路だ。
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レンタル自転車が新品なので、自転車の輸入/輸出に当たるとかで、書類手続きに1時間かかる。かっては同じ国だったのに、内戦の結果の国境である。
国境通過待ちの旅行客からたっぷりえさを貰い、太ったワンコ。でも車に引かれたのか、後ろ足が不自由だ。
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この渓谷に沿って走る鉄道は、渓谷美もあってSL観光列車が走るらしい。鉄チャンのTさんはうらやましそう。
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本当は自転車で下りたかったが、交通量も多いし、今日の走行距離を考え、この部分は車載でパス。20年前、先輩のTさん、Iさんが2年間住んでいた、ヴィシェグラードの町に入る。小さな町だが、15年前の戦争で、住民の過半は入れ替わっているらしい。
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着きました、世界遺産ヴィシェグラードの橋。ヨーロッパとアジアの接点、キリスト教とイスラム教がせめぎ合った場所、そして15年前の内戦であやうく破壊されそうになった橋。
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ドライバーはランチ調達に出かけているので、我々は観光タイムへ。
橋を背景に。
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橋の上からヴィシェグラードの町を背景に。
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橋を渡る観光客にも日本人のサイクリスト集団は珍しいらしく、呼び止められる。
ドライバーが昼食を買出しに行ってくれたのだが、なかなか車が戻ってこない。
ドリナ川を眺めぼんやりとする一行。
ようやく昼食調達、車載で走り出したが、発電所で10秒で良いから停車してと頼んではいたものの、GPSがトンネルで電波を失い、ヴィシェグラード発電所を通り過ぎられてしまった。
残念ながら私も製造に多いに関ったヴィシェグラード発電所は遠くから眺められたのみ。
小さな町の公園で昼食後、少し歩くとTさんが、あれ!弾痕では?と指差す。
確かに、弾痕だ。
美しいバラが咲き誇っているが、15年前はここで戦争があったのだ。
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走り抜けただけなので、良くは判らないが、多くの家の壁面に銃撃跡を修復したと思われる模様が残っている。ゴラジュデもまた、あの戦争で激戦地であった場所だ。
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これも弾痕だろう。
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ドリナ川を渡り、いよいよ山に入っていく。道路標識は2ヶ国語で書かれている。サライエボと反対のトレビニエの方向へ。
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今日は朝ご飯1時間遅れ、国境通過1時間遅れ、ヴィシェグラード橋30分遅れと、スケジュールが押したため、3時を過ぎてPrijedel峠からようやく走行開始。眼下にこれから下る道、そして登らねばならない山が見える。
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路面はそれほど良くないがMTBならどうってことない楽しいダウンヒル。車があまり通らず、ストレス無しに走れる道だ。但し事故っては元も子もないので35km/hキープを旨とする。
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ダウンヒルが終わると、行く手に雪の残る山が見える。モンテネグロの山だそうだ。
渓谷を一旦抜け出して平原に入ると、強烈な逆風が吹いてきた。先頭を引かされている私には辛い。
ユーゴー時代に築かれ、今も国民的には人気があるらしい、パルチザン戦争を記念する巨大なオブジェ。でもこれって個人崇拝ぽい。ユーゴー時代の遺物にはスターリンと対立しながらも、みずからも国民統合の象徴となったチトーの事大主義が感じられ、幻滅。
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あれほど激しかった風も収まり、周りは半高原の牧草地帯、ここを一直線に貫く道路を快調に登る。
平原を抜け、渓谷の中に入ってきた。ふと見上げると、岩峰の上に1本松が。
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多分氷食地形と思われる岩山、ストジェスカ国立公園。
雰囲気がヨセミテの入口あたりと良く似ている。
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両側を断崖が囲み、その中をドリナ川が流れている。
車も少なく、楽しく走れる道だ。
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少し傾斜がきつくなってきたが、まだこの頃は景色を眺め、雑談しながら登る余裕があった。
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いよいよ急坂となり岩峰が目前に迫ってきたのでたまらず休憩。
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しかし、道が荒れてきて、傾斜も急になると、皆無口で、集団がばらけて来る。
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だいぶ道が細くなってきて、車も通らなくなった上に、空模様も怪しい。
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残念ながら時間も18時近くなり、その上降雨と雷鳴が始まったので、この辺で走行中止の判断をする。
向こうにはまたモンテネグロの山が見えている。この後強烈な雨が降ってきて、早く撤収判断をしてよかった。でもあのダウンヒルはもったいなかった。
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車で山を越え、見渡す限り大草原の高原のホテルにようやく到着、ここもロッジ風。嵐をもたらした前線が東に去り、わずかな青空に日が暮れていく。
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内戦被害の傷も生々しい街中の大部分は車で走ったが、車の少ない自然公園をサイクリングした一日。こんな場所を走った。(地図ダブルクリックで詳細へ)
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