【公開から随分経ったが、映画「劒岳 点の記」を見た。】
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この映画は、新田次郎のさんの小説を木村大作監督が
映画化した本年度日本映画の最高傑作の一つであると感じた。
『劒岳 点の記』は日露戦争直後、北アルプス剣岳の
登頂を命じられた測量官、柴崎芳太郎氏をモデルにした
小説を映画化したものである。
当時、日本全国の測量は陸軍の参謀本部陸地測量部
(現在の国土地理院)が実施していた。
そして高山の登頂は、修験者によって初登頂された山
(実は剣岳も修験者に初登頂されていた)以外の山は、
ほとんど陸地測量部によって登頂されていたという。
この当時地図はある意味で国家の軍事機密であり、
それゆえ陸軍の管轄だったのだが、ロシアなどは
ソビエト政権が崩壊するまでモスクワの正確な
道路地図を公開していなかったくらいだ。
(日本でも伊能忠敬が作成した日本地図のコピーを
シーボルトに渡した幕府天文方、高橋景保が斬首された)
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映画は剣岳周辺の測量と剣岳登頂を命じられた
柴崎芳太郎氏が、山案内人宇治長次郎とともに
この困難な仕事を成し遂げていく過程を、
自然の厳しさを織り交ぜて撮影されており、
カメラワークはすばらしい。
また人物描写においても、柴崎芳太郎役の浅野忠信や
宇治長次郎役の香川照之が好演しており、
行者役の夏八木薫が風雪に打たれながら
念仏を唱えているシーンは心に残った。
一言で言ってとても好感の持てる映画だ。
撮影はほぼ1年かけて現地ロケを実施されたと聞く。
山岳測量シーンは監督の「これは撮影ではなく『行』である」
との信念に基づいて撮影されたという。
登場人物の目線や感覚を大切にするため、
空撮やCG処理に頼らず山小屋やテントに泊り込みながら
明治の測量官が登った山に実際に登り、
長期間をかけて丁寧に撮影をおこなったそうだ。
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実際、テントが風雪に吹き飛ばされる場面や、
大嵐に襲われる場面は実によくできており、
また当時の登山の方法(ロープはあったが先頭で
岩登りをする人の確保の方法は存在しなかったようだ)が
よく分かって無知の私にも参考になった。
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この映画のできはすばらしく、本年度の
日本アカデミー賞を受賞しても良いと思ったが、
たった一つこの映画には不満がある。
それは撮影が現地ロケで行われているため、
最も困難な登頂の場面がないのである。
正確に言うと柴崎芳太郎一行は現在長次郎谷
(この時の長次郎の偉業を讃えてこのように命名された)と
いわれる雪渓を登っていくのだが、
最後に約60mの垂直の岸壁が立ちはだかる。
ここを四等三角点を作るための資材(3mあまりの丸太)を
長次郎が担ぎ上げたのだが、そのシーンがないのだ。
ここがルートの一番困難な場所で、剣岳に登ったことが
ある人ならカニの横ばいを思い出せば分かるという。
だがそんな危険な場所では、カメラを抱えて
撮影するわけに行かず、その結果山岳映画では
しばしば最も困難な場所の撮影ができないのだ。
この最後の60mが抜けていることはなんとしても
この映画の弱点で「画竜点睛を欠く」思いだ。
こうした場所の撮影は、CGを駆使して
登坂画面を挿入してほしかった。
そう考えるのは、素人の欲張りであろう。
だが、欲張るのはよそう。
この映画は本年度の日本映画の最高傑作の
一つであることは間違いなさそうだ。
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そしてこの映画の基の秘話を知り、また感動した。
それは、剱岳の山頂には長らく
三角点が設置されておらず、
標高を低い精度でしか測量できなかった。
柴崎らは山頂には立ったものの岩場の険しさから
重い三角点標石を運び上げることができず
三等三角点の設置を断念し、標石のない四等三角点とした。
そのため当時、三角点の設置場所を記載する
「点の記」は作成されなかった。
柴崎らは周辺の山からの観測によって
山頂の独立標高点(現在の「標高点」)を
2998mと計算したが、その後の測量により3003mと
された時期もあった。2004年になってようやく
三等三角点が設置され、GPS測量により
三等三角点「剱岳」の標高2997.07mと
剱岳の最高標高2999m(2998.6mを四捨五入)が
求められた。
この折に国土地理院により
作成された三等三角点「剱岳」点の記には
選点日時として「明治40年7月13日」の日付が、
選点者として柴崎の名が記載されていることを
知ったからである。
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人間の一生なんて、宇宙からみればほんとに些細なもの。
でも確実に言えることは、人生はとても素晴らしい。
特に、人生に目的を持つことは宇宙の真理かもしれない。
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【ニオイザクラ。何をしたかではなく、何のためにしたかが重要だ。】
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