みなさん、こんにちは。ただいまご紹介にあずかりました、K市・M町介護人材確保協議会会長の井浦です。
入職おめでとうございます。ようこそ介護福祉の世界へ。
この会は、合同入職式という名目ではありますが、みなさんの入職を祝うのはもちろんのこと、ここにいるすべての方々が、この世界に希望と勇気を持って飛び込んできてくれたみなさんを歓迎するとともに、心からの感謝の念を伝える場だと私は考えています。
本当にありがとう。
私からは、社会人としての第一歩を踏み出したみなさんへのエールとして、特にこの場でお話ししたいことがいくつかあります。
まず、利用者様・ご家族様の信頼にこたえることが大切です。私たちのサービスを利用いただけるのは、相手の信頼があってこそです。誠実に仕事に励み、利用者様・ご家族様に対してストレスフリーなサービスを提供して行きましょう。
次に、仲間からの信頼です。組織の中で働く以上、上司、部下、仲間からの信頼を得ることも、同じように大切です。
そのためには、「相手の立場になって考える」ことです。この仕事は、すべて、人との関わり合いの中から産み出されます。自分の考えを理解してもらうために、相手が何を感じ、何を求めているのか、先回りして対応出来るほどに相手を理解する。そのためには、日頃から公私ともに密なコミュニケーションを心掛け、柔軟な思考能力を磨くことが大切ですし、相手を尊重し、常に「相手の立場になって考える」ことが重要です。
そして最後に、心身共に健康であることが大事です。自分自身の健康に向き合い、学生時代とは違う次元での自己管理を実践してください。
それぞれの会社はみなさんの成長と成功を全力で支援します。みなさんが、仕事を通じて経験を積み、教養を深め、人格を磨いてこのM県、K市、M町の未来を担う、立派な社会人となることをわれわれは期待してやみません。本日は誠におめでとうございます。
当て職の肩書の関係で、弘前市で開催される学会へ出席することになった。
半年ほど前にあちらにいる法人職員OGから近況報告のメールをいただいていたのを思い出し、弘前名物と言われるレトロなカフェのどれかへ案内してくれないかと依頼したところ、少し間があってあまり気乗りしないような雰囲気の、それでも承知したとの返信があった。
どうもしくじったかな、と思っていたのだが、その理由は当日明らかになった。
指定されたお店の入り口までたどり着いたその時、見覚えのある軽自動車が駐車スペースに停まり、当のOGが下りてきた。
それが、右足を引きずっており、マスクを着けた小さな顔の左側がはれ上がっている。
お久しぶりです、こんなありさまですみません、と頭を下げた彼女は大儀そうに店内に入り、席に着いた。
驚きを隠せないでいた僕は思わず尋ねてしまった。
ねえ、きみ、それまさかDVじゃないよね?
メニュー表から顔を上げた彼女はやっと笑顔を見せた。
「相手もいないのに?」
弘前に戻って間もなく感じ始めていた体の違和感が日に日に大きくなり、受診したところ、リューマチの症状によく似た血液の病気と判明したという。
あごは顎関節症が進んでひびが入ったそう。
そういうわけで、こちらで見つけた仕事も辞めざるをえず、両親と子供たちと、ひっそり暮らしています。情けなくて、と彼女は大粒の涙をこぼした。
照る日もあれば曇る日もある、土砂降りの日だって。でも、全体的に晴れの日が多ければオーケーなので、そうなるよう心がけて行こうよ。大丈夫だから。
「理事長の大丈夫だから、を久しぶりにいただきました。何の根拠もないのに、相変わらずほっとします。」
マスクの上のまなざしがいくぶん和らいだ。
ちょっと顔を直してきます。
ゆっくり慎重に立ちあがると彼女は化粧室へ消えて行った。
僕は財布に入っていた札を全部取り出し、二つ折りにして手早くイスの上の彼女のバッグへ深く押し込んだ。化粧ポーチを戻しても気づかれないように。
カウンターの中の店員と目が合ってしまったので、照れ隠しに言った。
「こちらの支払いはカード使えますよね?」
「もちろんです。」
店のドアを開け、車のドアを開けてOGを帰路につかせた僕は大きく背伸びした。
旅費も尽きたし、さあ、けせもい市に帰るか、学会なんぞサボって。
「みなさんごぶさたしております、社会福祉法人千優会理事長の井浦でございます。
今年4月1日を持ちまして、当法人が本施設を引き受けて満1年になりました。
個人的には、赤字施設の立て直しに全力を傾注した1年間で、あっという間だったとの感覚しかありませんが、みなさんは変わらないスタッフと穏やかに春夏秋冬を過ごしていただけたのではないかと思います。
また、それが黒子役の私にとってはなによりのやりがいでもあります。
そのみなさんの日々のご利用があったればこそ、おかげさまで、こうして一周年を迎えることができました。
本当にありがとうございました。
以前もお話しいたしましたが、よくニュースで老舗デパートや鉄道や地域の小中学校が惜しまれつつ閉店したり廃止される映像を目にすると思います。
島内の主要な介護サービス事業所であり、大切なインフラともいえる当施設がそうならないよう、もちろん私も引き続き努力いたしますが、ぜひみなさんには、これからもぽらんのサービスを積極的に使っていただきたい、と本日も再度お願いしてまいります。また、それにより、みなさんとなじみの関係にある職員たちの雇用も維持されます。どうぞよろしくお聞き届けください。
それでは、このあと職員たちによる楽しいアトラクションも準備しておりますので、お楽しみいただけましたら幸いです。」
NPO法人なごやかの理事長が珍しく東日本大震災以降の活動状況に関するインタビューに応じることになった。
相手は県都センダード市の研究機関職員で、法人のHPを見て理事長へ直にコンタクトを取ってきたのだそうだ。
コーヒーを出す際にちらりと見ただけだが、事務室のソファに端然と座った理事長はいつも以上に落ち着いているように見えた。
実際、質問に対して簡潔かつ丁寧に答えている。
インタビュアーもソファに浅く腰掛け、理事長の返答から見事なほどの間合いを取って次の質問を投げかけている。
真紅のセーターにツイードのパンツの彼女は、非常に顔の輪郭が濃く、深いまなざしをしていた。
終了後、インタビュアーとカメラマンを送り出した理事長は、額にうっすらと汗を浮かべていた。
長時間、真摯に対応されてお疲れになったのでは、と声を掛けると、彼はネクタイを緩めながら頭を振った。
いいや、質問へそれなりに答えるたび、相手はそうですね、と品の良い声で相槌を打つのだけれど、そのアーモンドアイがね、まったく違うことを語っているんだ。
もっと本当のことを言え、心の奥底を話してしまえ、と訴えかけてきて、頭の芯がしびれ始めた。
彼女はショートボブのメドゥーサだ。本当に恐ろしかった。
「みなさん、こんにちは。
まずはじめに、本日3年ぶりに『介護職員と高校生による介護ミーティング』を開催することができましたのは、校長先生はじめ、教職員のみなさまのご理解とご支援のたまものだと心より感謝いたします。ありがとうございます。また、生徒のみなさんも、このようにたくさん集まっていただき、本当にありがとう。
われわれの、けせもい圏域介護人材確保協議会と長い名前の会は、県、けせもい市、南三陸町、ハローワーク、それに福法組の5者で構成されています。私はその最後の福法組という、市内の介護サービス事業者のほとんどが加盟する組合の長を務めている、NPO法人なごやか理事長の井浦と申します。
さて、そちらにみなさんのお兄さん、お姉さんの年代の若い介護・看護職員さんたちが座っていますが、このあと、少人数のグループに分かれて、この方々が、みなさんの日ごろの疑問や、進路に関する質問について、どんなことでも的確に答えてくれます。ぜひ、この機会を逃さずに、さまざまな質問をぶつけ、将来の設計や判断に役立ててください。
この、若い介護・看護職員たちは、なにも特別な人間ではありません。お休みになれば、ドライブしたり、音楽を聴いたり、釣りをしたりと、ごく普通の青年たちです。でも、彼らがたった一つだけ違うのは、相手のことを思いやれるひと、ほかのひとのために働けるひと、だということです。そうですよね?(笑)
みなさんも、今はわからないかもしれないけれど、年齢を重ねる中で、目の前にいる相手、家族、それから大切なひと、職場、会社、だんだんには自分たちが住んでいる街、市、県、そして社会のことを考えることができるようになれば、世の中は今より少しだけ良くなるのではないかと思います。
長くなりましたが、このあともどうぞよろしくお願いします。」