私の胸には穴が開いていて、どれだけ愛情をもらっても、寂しくて仕方ないのよ。
そう繰り返し話す友達がいた。
その時は正直言ってよくわからず、複雑な生い立ちのせいなのかな、と思っていた。
なごみの復旧復興も、形だけはまもなく終わる。
落ち着いたら、後回しにしてきた、自分の体に開いた穴を埋める努力を少しずつして行こう。
そうすれば、この頭痛も、めまいも、悪寒も耳鳴りも、いつか治まってくれるだろうか。
ショッピングモールのベンチに座っていたところ、向こうからO主任が歩いてきた。
何となくホームでの雰囲気と違うけれど、やはり女性は仕事とプライベートは別だからな、と思っていたら、そのまま通り過ぎて行った。
よく似た別人だったのだろうか、と首をかしげていると、その少しあとからもう一人、O主任が現れた。
当惑した表情に気づいたのか、そしてこういった状況がいつものことで慣れているのか、すみません、妹なんです、と前置きなしで照れくさそうに話してくれた。
学生の頃、お茶の水を歩いていると、新聞社の小旗を手渡された。
もう少しでマラソン大会の先頭集団が通るので、応援してください、と。
間もなく白バイに先導され、テレビの中継車を後ろに従えて、トップランナーがやってきた。
お、日本人選手だ、頑張れ、頑張れ、と声を掛け、さあ、次は?と眺めていたら、今通り過ぎたばかりの選手とそっくりなランナーが走ってきた。
宗兄弟だった。
下北沢から三軒茶屋へと通じる一本道の茶沢通りを、A、B、Cの三人はぶらぶらと歩いていた。
深夜、さすがにもう人通りも絶えて、両側の住宅街は静まり返っていた。
大学生のAとBは終電がなくなったので、Cのアパートに泊めてもらうことになっていた。
そんなことが、これまでも何度かあった。
家に着くと少しだけ音楽の話をして、AとBは居間で、女あるじのCは別室で、それぞれ寝た。
翌朝、簡単な朝食をごちそうになった後、Aはどうしても出席しなくちゃいけない講義があるので、と早々に退出した。
M大生のBは、オレはまだいいや、とじゅうたんの上にごろりと横になった。
それからしばらくして、Aがあるコンサート会場へ行くと、BとCが来ていた。
それもよくあることで、その逆もあったのだが、その日は明らかに様子が違った。
Bの目の中には得意の色が動いていた。
AはCの顔を見ることができなかった。
あの朝のことを、とAは言う。
何年も繰り返し考えた。
でも、ある時気がついたんだ。
自分が逆の立場だったとしても、いつも通りだったろうなって。
長い間、それが分からなくてひどく苦しんだけれど。