ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

子供の日だョ!全員集合(再掲)

2020年05月05日 | シェイクスピア

 C大と同じ駅が最寄りの東京都立多摩動物公園、通称タマ動で学生時代の4年間、週末にアルバイトとして働いた。

タマ動直接のバイトではなく、納入業者(雪印乳業の下請工場)の雇用で、特設テント内にアイスクリームのストッカーを置き、同社の既製品アイスや動物たちの指人形などを販売する仕事だった。

 4月から10月までの、いわゆるハイシーズンのタマ動の混みようは尋常ではなく、テント脇に置かれたごみ箱は多い時で20回(袋)以上交換することもあった。

さらに大変なのが、入場無料の子供の日だった。

 僕は公園の一番奥、「ライオンバス」(ライオンが放し飼いになっている園内をバスで遊覧するアトラクション)のチケット売り場前が定位置?だったのだが、開園から20分ほどたつと、黒い波のように人が押し寄せてくるのが遠目にもはっきりと見え、やがてそれがだんだんと坂を上ってくる。

初めはぞっとして、映画「黒い絨毯」(軍隊アリの恐怖を扱った元祖パニック映画)や、シェイクスピアの「マクベス」を連想した。

 暗殺によって王位を奪ったものの、不安に怯えるマクベスは魔女たちから「バーナムの森が動いて向かってこない限り安泰だ」という予言を引き出す。

ところがその後、木の枝を隠れ蓑にして進撃してくるイングランド軍の様子がまるで森が動いているかのように見えたため、マクベスは半狂乱に陥ってしまう―。

 

 100円のアイスを買い求めて親子連れが殺到し、ストッカーはテントから押し出されるわ、商品棚は倒されるわ、果てはストッカーへのアイスの補充が間に合わなくなり、後ろに停めていた保冷車の扉を開け、そこで直接売りさばいたこともある。

良くも悪くも急激な右肩上がりの、とんでもない時代だった。

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名誉

2019年04月09日 | シェイクスピア

 ハル王子(のちのヘンリー五世)とともに反乱軍の討伐戦に加わった老騎士フォルスタッフ。

戦いを前に、名誉について皮肉たっぷりな持論を展開する。

この名セリフは、原作では王子が退場してからのモノローグ(独白)だが、「オーソン・ウエルズのフォルスタッフ」では王子を相手にしたダイアローグ(対話)のスタイルにアレンジされていて、シニカルなトーンがさらに増している。

ウエルズの面目躍如だ。

 

 

フォルスタッフ ハル、俺が戦闘中に倒れるのを見て、馬乗りになって守ってくれたら嬉しいね。それが友情ってもんだ。)

王子 そんな友情を発揮できるのは巨人コロッサスくらいなものだ、いまのうちにお祈りを唱えて、別れを告げておけ。)

フォルスタッフ 唱えるなら寝る前のお祈りがいいね、ハル、それなら万々歳だ。

王子 おいおい、まだ神さまに借りが残ってるだろ、死にどきっていう借りが。

                                               (退場)

フォルスタッフ まだ返しどきじやないや。期限が来もしないのに払うのはごめんだね。催促もされないのに先払いする必要がどこにある? 

ま、どっちでもいいや。

名誉が俺をせき立てる。

うん、だがいざとなって名誉の剣を突き立てられたらどうする?どうする?

名誉に、折れた脚の骨接ぎができるか? できない。

じゃあ。腕は? だめだ。

傷の痛みを取れるか? 取れない。

じゃあ、名誉には外科医の腕もないのか? ない。

名誉ってなんだ? ―言葉だ。

名誉って言葉に何がある?

名誉ってやつぁ何だ?

空気だ。結構な結論だ。

名誉の持ち主は誰だ?

この水曜日に死んだやつ。

そいつは名誉にさわれるか? さわれない。

名誉が聞こえるか? 聞こえない。

じやあ、名誉ってのは感じられないんだ。うん、死んだやつにはな。

じゃあ生きてるやつにとって名誉は生きてるのか?

いいや、悪口が生かしておきゃしない。

従って俺には関係ない。名誉なんて紋章つきのちゃちな盾にすぎん。

以上、俺の教義間答はこれにて終了。              (退場)

                                                 (ちくま文庫版「ヘンリー四世 第二部」新訳より)

 

下は「完璧」についてのウエルズの教義問答だ。(1976年)

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「オーソン・ウエルズのフォルスタッフ」

2019年03月25日 | シェイクスピア

 オーソン・ウエルズが1966年に監督・主演し、日本では20年後の1986年に公開された「オーソン・ウエルズのフォルスタッフ」(原題は「真夜中の鐘」)を、僕は20代の半ばに六本木シネ・ヴィヴァンで観て、心底驚愕した。すでに10代でいっぱしのウエルズマニアを自負していた自分は、この作品を観ないでそんな大それたことを思っていたのか、と。ウエルズの作品中でも、シェイクスピア戯曲の映画化作品の中でも、稀有の大傑作である。さらに、天衣無縫という形容も付け加えたい。

 ウエルズは1939年に「FIVE KINGS」というタイトルでシェイクスピアの「リチャード二世」、「ヘンリー四世 第一部・第二部」、「ヘンリー五世」、「ヘンリー六世 第一部・第二部・第三部」、「リチャード三世」を一本の演劇に織り上げて上演したと伝記等に記されている(この企画はまさに、イギリスで2012年から2016年にかけて制作されたテレビ映画「ホロウ・クラウン」だ)が、この「フォルスタッフ」は、「ヘンリー四世」、「ヘンリー五世」、「ウィンザーの陽気な女房たち」に登場する名脇役キャラクター、大酒呑みで女たらし、さらにはホラ吹きで巨漢の老騎士フォルスタッフのエピソードを織り上げ、主役に据えた野心作である。

 国王ヘンリー四世の放蕩息子ハル王子と田舎のあやしげな宿でふざけ暮らすフォルスタッフ。ハル王子は不仲の父王に呼び戻され、王位継承を巡っての戦いに出陣する。そこで敵の猛将ヘンリー・パーシーを見事倒した王子はまもなくヘンリー5世として即位する。その新王は、出世を期待して戴冠式に乱入したかつての悪友フォルスタッフを冷たく拒絶し、追放処分とする―。いつにも増して斬新かつダイナミックなカメラワーク、かつてないほどリアルな戦闘シーン、セリフの大胆な取捨選択、そして胸にしみる結末の余韻。見どころは枚挙にいとまがない。

  

フォルスタッフ:万歳、ハル陛下、我が国王ハル!

          万歳、俺のかわいい坊や!

                   俺の王様! 俺の宝石!

                 俺はあんたに話しているんだ!

王: 私はおまえなど知らない、老人よ。

    毎日を祈りに捧げなさい。

    その白髪は阿呆や道化には似合わない。

    私は長いあいだこういう男の夢を見ていた、

    こういうふうにぶくぶく太り、年老いて、下品だった。

    だが目覚めてみると、思い出すのもいやな夢だ。

    これからは目方を減らし、善行を積め。

    暴飲暴食はやめろ、分かるな、並の人間用の三倍はある

    墓穴があんぐり口を開けておまえを待っている──

    馬鹿丸出しの冗談で口答えしようとするな、

    今の私をこれまでの私と思ってはならない、

    神はご存じだし、世間にも知らせるつもりだが、

    私はかつての自分を捨てたのだ、

    付き合っていた仲間も捨てる、

    私が昔の私に戻ったと聞いたなら、

    そのときやって来い、おまえを昔ながらのお前として、

    私の放蕩無頼の育ての親、師匠として迎えよう。

    それまでお前を追放に処す。かつての悪友たちには

    すでに申し渡したが、我が身辺十マイル以内に

    近づけば即刻死刑だ。

              (「ヘンリー四世 第二部」第五幕 第五場より)

 

Falstaff Saue thy Grace, King Hall, my Royall Hall

            'Saue thee my sweet Boy

            My King, my joue; I speake to thee, my heart

King I know thee not, old man: Fall to thy Prayers:

  How ill white haires become a Foole, and Iester?

  I haue long dream'd of such a kinde of man,

  So surfeit-swell'd, so old, and so prophane:

  But being awake, I do despise my dreame.

  Make lesse thy body (hence) and more thy Grace,

  Leaue gourmandizing; Know the Graue doth gape

  For thee, thrice wider then for other men.

  Reply not to me, with a Foole-borne Iest,

  Presume not, that I am the thing I was,

  For heauen doth know (so shall the world perceiue)

  That I haue turn'd away my former Selfe,

  So will I those that kept me Companie.

  When thou dost heare I am, as I haue bin,

  Approach me, and thou shalt be as thou was't

  The Tutor and the Feeder of my Riots:

  Till then, I banish thee, on paine of death,

  As I haue done the rest of my Misleaders,

  Not to come neere our Person, by ten mile.

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「ヘンリー五世」

2019年03月22日 | シェイクスピア

 上の映像は5歳の男の子が暗唱する「聖クリスピアンの祭日の演説」。

とてもほほえましく、一方で終始ハラハラさせられながらも、やがて胸打たれる。

この小さな王になら、三倍のフランス軍と対峙しても、16メートルの津波が来襲しても、喜んでついて行くだろう。

 先日観た松坂桃李の舞台「ヘンリー五世」は文系の生真面目な悩み多い王で、非常に好感が持てた。

演出は吉田鋼太郎。劇の冒頭に老騎士フォルスタッフ役で登場・退場したあとは、コーラス(説明役)を演じていた。

 この舞台では、「聖クリスピアンの祭日の演説」がほぼ丸ごとカットされていた。

それは演出家が決めることだし、満員の客席の9割が女性だったことから分りやすさの追求という点でいたしかたないのかもしれないが、カットできるんだ、とそこに驚いた。

ちなみに、フォルスタッフの登場シーン(即位した新王にかつての悪友の彼が捨てられる)は松坂と吉田が5年前に演じた「ヘンリー四世」の見せ場の一つなので、カットは上演時間の関係ではない。

 繊細な松坂とは対照的に、脇を固める実力派の男優たちは喉が心配になるほど大声でセリフを叫び、アジンコートの戦闘場面では舞台を飛び出し客席通路を駆け巡っての大熱演で、全体としてはかなり男臭い活劇だった。

 

オリヴィエ版(1945年)のコーラス

 

 

「もう一人のシェイクスピア」(2011年)のコーラス

  

コーラス登場:

おお 輝かしい創造の天空に炎を燃え上がらせる

詩神ミューズよ なにとぞ与えたまえ

この舞台には王国を 役者には貴族たちを

そして壮大なシーンの観客には帝王たちを!

さすれば勇猛果敢なハリーが 王にふさわしく

軍神マルスの姿をとって現れ その足元には

皮ひもでつながれた犬のように 飢餓と剣と炎が

控えることでしょう だが皆様 どうかお許しを

平凡な大根役者たちが このちっぽけな舞台で

壮大なドラマを演じようとすることを

この闘鶏場のような狭い空間に フランスの広大な国土を

再現できるでしょうか あるいはまた

木でできたこの円形の空間に アジンコートの大気を振るわせた

あの兜の数々を納め切れるでしょうか

おお なにとぞご寛大に

この円のゼロも 取り散らかせば百万ともなりましょう、

さすれば、この偉大な総計に対してゼロであるわたしどもは、

皆様の想像力におすがりするばかり

いま二大王国が閉じ込められました、

高く、聳え立つ、隣接する二つの前線、

この上なく危険な海峡が引き分けております。

わたしどもの足りないところは 皆様の想像力で補ってください

一人の男を見たら そこには千人の兵士がいるものと思ってください

馬と言えば、ご覧いただきたい

威風堂々のひづめの跡を大地にしるしている乗馬を。

王侯の衣装も皆様方のご想像で、

役者がそこかしこ移動するのを 時を跳び越えるのを

長年の出来事を変えるのも

砂時計のわずかな時間。すべて皆様のご想像を、

わたくしコーラスめが 物語のご案内役を務めます

皆様にはどうか 辛抱強い気持ちで

わたしどもの芝居をご覧になるよう お願い申し上げます

   

 O For a Muse of Fire, that would ascend

 The brightest Heaven of Invention:

 A Kingdom for a Stage, Princes to Act,

 And Monarchs to behold the swelling Scene.

 Then should the Warlike Harry, like himself,

 Assume the Port of Mars, and at his heeles

  ( Leasht in, like Hounds) should Famine, Sword, and Fire

 Crouch for employment. But pardon, Gentles all:

 The flat unraysed Spirits, that hath dar'd,

 On this unworthy Scaffold, to bring forth

 So great an Obiect. Can this Cock-Pit hold

 The vastie fields of France? Or may we cramme

 Within this Woodden O. the very Caskes

 That did affright the Ayre at Agincourt?

 O pardon: since a crooked Figure may

 Attest in little place a Million,

 And let us, Cyphers to this great Accompt,

 On your imaginarie Forces worke.

 Suppose within the Girdle of these Walls

 Are now confin'd two mightie Monarchies,

 Whose high, up-reared, and abutting Fronts,

 The perillous narrow Ocean parts asunder.

 Peece out our imperfections with your thoughts:

 Into a thousand parts divide one Man,

 And make imaginarie Puissance.

 Think when we talke of Horses, that you see them

 Printing their prowd Hoofes i'th' receiuing Earth:

 For 'tis your thoughts that now must deck our Kings,

 Carry them here and there: umping o're Times;

 Turning th'accomplishment of many yeeres

 Into an Howre-glasse: for the which supplie,

 Admit me Chorus to this Historie;

 Who Prologue-like, your humble patience pray,

 Gently to hear, kindly to judge our Play.

 

 

 

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千本ノック

2019年03月15日 | シェイクスピア

 施設の駐車場で車止めにつまづいて、盛大に転んでしまった。

メガネがどこかへ飛んで行き、周囲を見回そうにもぼやけてよく見えない。

ともあれ、誰が見ているかわからないので早く起き上がらないと。

「大丈夫?」

後ろから声がした。

ざしき童子だ。

僕が困った時に現れるのはありがたいけれど、よりによってこんな状況を目撃されるなんて、とさすがに少しいまいましく思えた。

僕はやけになり、アスファルトの上にごろんと横になって大声を上げた。

どうにもこうにも、うまく行かなくて、いやになった。

もう、全部放り出したい。

見上げると、青い空の隅に彼女の顔があった。

スカートからはすらりと長い足が伸びている。

「そんな投げやりなことを言わないの。

それに、どうせ叫ぶなら、好きなシェイクスピアでも吟じたら?」

それはいい、と思った。

「馬をくれ!国をやる!」(リチャード三世)

「もう一度!」

「馬をくれ!国をやる!」

「次!」

「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ!」(ハムレット)

「次!」

「マクベスは眠りを殺した!」

「もっと!」

「落ちめになったと悟るのは、自分で落ちたなと感ずるより早く、他人の目がそれと教えてくれるのだ!」(トロイラスとクレシダ)

「そのとおりね!」

「『今が最悪』と言える間は、最悪ではない!」(リア王)

「ホント、そのとおり!」

「お気をつけなさい、将軍、嫉妬というやつに。

こいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌食とし、それをもてあそぶのです!」(オセロー)

涙と鼻水と、降ってきた自分のつばでひどく汚れた顔をハンカチで拭くと、僕はゆっくり転がって、額を彼女の靴のつま先に載せた。

「―われわれはかつて真夜中の鐘を聞いたものですな、シャロー君、、、。」(ヘンリー四世第二部)

くすくすと笑い声が頭上から聞こえた。

「落ち着いた?」

「、、、ええ。でも、『弱き者よ、汝の名は女なり』って言うけれど、違いますね。くやしいので、このまま上を向こうかな。」

キャッと声を上げてざしき童子は飛びのき、僕は額を地面に打ち付けるはめになった。 

 映画「オーソン・ウエルズのフォルスタッフ」(1966年)より

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