父親は若いころから入退院を繰り返し、僕が都落ちすることになったのもそんな理由からだったが、ある時、深夜に救急で病院を受診した際に、ICUの前のベンチで待っていると、ナースから着ていた服をきれいに畳んだうえでビニール袋に詰めた形で返却された。メガネや指輪も入っていた。
ああ、これが遺品になるかもな、と思った。
幸いにも、その回も無事退院できたのだが、以来僕は自分の身にもいつ何があるかわからないから、身なりはきちんとしていないと、と一層強く思うようになった。
実際、交通事故を起こして救急車で搬送されたこともあり、その日はたまたま仕事の出張だったため、面談相手に見劣りしないようなスーツや靴を身に着けていて事なき?を得ている。
「たとえば昼のウォーキングの途中で倒れた時に、擦り切れたコートや穴の開いたシャツなど着ていたらいやだなあ。でも、あと何年、自分をコントロールできるかなあ。」
熱心にクローゼットを整理している僕に、そこなの?と家人はあきれ顔をして立ち去った。
本当にそのとおりだと思います。
お気に入りの服を長く着て、袖口が擦り切れてもお庭の手入れの際などに着用出来たら素敵ですね。