一昨日午後、ケアハウスへ運営推進会議で出かけたところ、玄関で事務主任に額で測る体温計ガンを向けられ、一瞬ひるんでしまいました。
映画の観過ぎですね。
監督ハワード・ホークス×主演ジョン・ウエインの「赤い河」(1949年)より。
インディアンの襲撃から一人生き残った男の子の銃を取り上げて言う、「誰も信用するんじゃない。」
車を降りたところを、背後から襲われた。
幸い、ドアを閉めた際にミラーに一瞬映り込んだ男ののっぴきならない表情を見て、これはただ事ではないと悟ることができた。
素早くボンネットに這い上がると、頭の上をバットがかすめた。
男と僕は車を間にして向き合った。
「きみは誰だ。」
「あんたの前の宿主だ。」
ああ、そうか。
いつかこんなことが起きるかもしれない、と思っていた。
「なぜそんなに怒っている?」
「わからないか? オレは不幸なんだ。」
「そういう考え方は良くないな。ざしき童子はいつかは去って行く。居てくれた時間に感謝しなくちゃ。きみの作ったまんじゅうはとても美味しかったよ。」
「食べたんですか?」急に丁寧な口調になった。
「うん、繊細な味がした。あのひとが居るうちにきみの腕は確実に上がったのだと思う。それをこれからも真摯に磨かなくちゃ、彼女が泣くよ。」
「あんたは人間ができてるな。」
「いいや、僕も、あのひとに去られたら、次の宿主へねじ込んで行きたいね。実際、今きみの激情をひどくうらやましく感じているから。どうだろう、僕のために、そのバットは置いて行ってくれないか。」
ガールフレンド(ザ・ルースターズ 1981年)
シルクのドレスがよく似合う
あの娘が おいらのガールフレンド
そんなに美人じゃないけど
とってもかわいく 笑ってみせる
いつでも陽気にはしゃいで
あの娘が おいらのガールフレンド
そんなにかしこくないけど
いろんなことが わかってる
*G.I.R.L. GIRL FRIEND
G.I.R.L. GIRL FRIEND
G.I.R.L. GIRL FRIEND
Oh GIRL FRIEND
+すっかりおいら 首ったけ
あの娘なしじゃ血も凍る
もしもあの娘が去ったなら
おいら一日 泣き暮らす
*Repeat
+Repeat
*Repeat
「私が小規模多機能ホームの管理者を務めていた時のことだ、ちょうど夜勤だった深夜1時過ぎ、ふだん通いサービスでホームへいらしている独居の方から電話があった。
今日は利用日ではなかったので終日家にいたのだけれど、夕方からなんとなく体調がすぐれず、不安だと言う。
私はすぐにも駆けつけたかったが、その夜、ホームには泊りサービスを利用されている方が三名いて、オンコール体制の宿直者は隣町在住だった。
私は迷った末に直属の上司のNPO法人なごやか理事長の携帯に電話した。
自称宵っ張りの彼はすぐに出た。
『どうしました?』
私は手短かに経緯を説明した。
『わかりました。その方のもとへ行って差し上げたいから、留守番役で僕に来いということですね?』
彼の声は嬉しそうだった。
『最初に電話をくれてありがとう。お役に立つかどうかは別として、今すぐ行きます。ウチからだと20分、いや25分かな。気がせくでしょうけれど、僕が着くまで準備して待っていてください。』
きっかり20分後に隣町から到着した理事長と入れ替わりに、私はホームを出発した。
幸い、利用者様の様子は特に変わりなく、お話を傾聴するとさらに落ち着きを取り戻した。
明日またまいります、と言い置いてホームへ戻ったところ、ホールに煌々と明かりがついている。
ダイニングテーブルに座っていた理事長が振り向き、ばつが悪そうに言った。
『おかえり。みなさん次々とお手洗いに起きていらしてね、なんでシャチョーさんがいるんだって尋ねられて、管理者の代わりに留守番を務めてるとうっかり答えたら、きみが心配だから帰るまで待っていると。それでみなでトランプをしていたんです。』
『ねえ、君が代さん(私のニックネーム)、シャチョーさんたらひどいのよ、私たちにババ抜きしませんか、ですって。ここにはババしかいないじゃない!(笑)』
私はつられて笑いそうになったが、壁の時計の針は午前3時を回っており、一刻も早く理事長に戻って休んでもらわなければ、と内心ひどく焦ってもいた。
笑いをこらえて変な顔になっているのを意識しながら、私は理事長をわざとじゃけんに追い立てた。
そんな私の心の中などお見通しだったに違いない、彼は黙ってにやにや笑いながら帰って行った。
あの夜のことは、もちろん業務日誌には簡潔に記入したが、ニュアンスについては私たち二人のほかは誰も知らない。
私は理事長を信じてついてきた。
困り事が起こっても必ず彼が解決してくれる。
SOSを発したら、どこにいても必ず駆け付けてくれる。
私は彼の本気を常に信じていた。
あの夜は、職務に対する彼の本気と私の本気の度合いが見事に同じだと再確認できた。
こんなに嬉しいことはなかった。」
確か中学三年の時だ、同級生に映画「サウンド・オブ・ミュージック」の輸入盤サウンドトラックLPを買い取ってくれないかと頼まれた。
ついでにビートルズの「ヘイ・ジュード」(アメリカ編集盤)や青盤(後期ベストアルバム)も。
僕はそんなにお金を持っている方ではなかったし、レコードは明らかに彼の姉たちのものだったけれど、交友関係で出費が多い様子の彼を見かねて、まとめて引き受けた。
「サウンド」は大学生になって間もなく、中古レコード屋に売った。二束三文だった。輸入盤は安いのだ。
その同級生は僕同様に進学で上京し、証券マンになったと聞いていたのだが、一度だけ、明大前駅での乗り換え時に見かけたことがある。
バブルの入り口の頃で、デビュー時の吉川晃司顔負けの、派手なダブルのスーツを着ていた。僕もそこそこの会社に勤めていたが、なんだか気後れして声を掛けなかった。
その後、家庭の事情で僕は都落ちし、何年かしてその彼も、東京で結婚した同級生の元バレリーナとともにUターンしていた。
それが2011年3月、彼らはお子さんたちとともに大津波にのまれ、亡くなった。
あの長尺の映画を再見することはもうないが、「エーデルワイス」や「私のお気に入り」の映像を観ると、胸の奥からなにかが飛び出しそうになる。
キム・ノヴァク。なんとなく自分と名前が似ているという、きっかけはただそれだけなのだけれど、昔からひいきの女優である。コロンビア社がリタ・ヘイワースに代わる看板スターにすべく総力を挙げてプッシュしたことで、「ピクニック」、「黄金の腕」、「愛情物語」、「夜の豹」、「逢う時はいつも他人」などよく知られたヒット作も多い。
このキム・ノヴァクと、ジェームス・スチュアートがコンビを組んだ作品が、二本ある。ヒッチコックの「めまい」(57年)と翌年の「媚薬」だ。
ニューヨーク、グリニッヂ・ヴィレッジのクリスマス・イヴ。小さなプリミティヴ・アート・ショップの女主人(ノヴァク)は魔女。恋に恋する彼女は階上の住人で出版社を経営するスチュアートをお相手に選ぶ―。
「媚薬」はなんとも他愛のないラヴストーリーで、実際、今ではすっかり忘れ去られてしまっているけれど、隅から隅までとにかくしゃれててチャーミング。一度観たら愛さずにはいられない佳品である。パーカッシヴでユーモラスなタイトル曲は妙に耳から離れないし、名手ジェームズ・ウォン・ホウ独特の、陰影に富んだ濃い目の色調の映像はストーリーによくマッチしている。スチュアートの上品な大人の着こなしも素敵だ。さらに、当時売り出し中だったジャック・レモンがノヴァクの弟のダメ魔法使いを演じていて、これまたいい味を出している。次作に「お熱いのがお好き」があり、「アパートの鍵貸します」(59年)、「酒とバラの日々」(60年)と傑作が続く。
一方はサンフランシスコを舞台にしたダークで精緻な心理サスペンス、もう一方はブロードウエイのヒット戯曲を映画化したソフィスティケイテッド・コメディと180度、タイプも設定もまったく異なるこの二本がなぜ同じ二人で続けて作られたかというと、パラマウント社で「めまい」を撮るヒッチが主演女優にコロンビア社専属のノヴァクを望んだため、貸し出しの代償として同社はスチュアートで二本映画を撮るという条件を提示した。「媚薬」はそのうちの一本なのだ。
ところで、理由は不明なのだがヒッチは「めまい」、「裏窓」、「ハリーの災難」、「ロープ」、「知りすぎていた男」の五本の権利を自ら買取り門外不出にしてしまったため、これらは彼の死後の1984年にリバイバル公開されるまで、映画館はおろかテレビにすらかかることはなかった。
この時「めまい」を観に行って驚いた。それまで自分の記憶の中で「めまい」だと思っていた映像の断片は結局ほとんどスクリーンに現れなかった。それらは「めまい」ではなく、「媚薬」だったのだ!現在のように市販ソフトが簡単に手に入る状況からは考えられない、マヌケな話である。
「めまい」。衣裳はもちろん、イディス・ヘッドだ。
恋のまじないをかけられてしまうスチュアート