教師と生徒をめぐる6つの短編集「せんせい」(重松清著:新潮文庫)。この題名と作者名で手にした一冊。
「教師という職業が大好きで、現実に教壇に立っていらっしゃるすべてのみなさんに、ありったけの敬意と共感を示したい…同時に、教師とうまくやっていけない生徒のことも大好き」(著者あとがき)を納得する読後感。登場する6人の先生たちは、子どもにとって生涯忘れられない強烈な個性だが、一人の大人として見れば平凡だ。その分、随分人間くさい。一定の経験を積んさ6人それぞれが、これまでの子どもとのやりとりを振り返り自問自答するところがリアルだ。その間違いや汚点と思われることは、学校現場に身を置いた自分にすべてあてはまる。「にんじん」が強く心に残った。
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子どもがいるから先生がいる、その逆では無いという当たり前のことが若い教員にはなかなか理解できない。定年が近くなり、思い通りにいかないのが人生だとつくづく考える頃、実はそれが人間関係の真実なのか、生きる意味なのかと静かに思うようになる。そんなことを考えさせられるまともな小説が、この国の、この時代に、本屋に並び、何気なく読まれることが有意義だと思う。「せんせい」を通じた、普遍的なはずの人間関係が、今や物語でしか味わえない郷愁になり始めたのではないかと危惧するこの頃。