「宮沢賢治『旭川。』より」(文・画 あべ弘士:BL出版)読む、賢治が降り立った大正12(1923)年夏の旭川を描き、町の爽やかな空気とその時の賢治の気持ちが伝わる。最愛の妹トシを前年に亡くし哀しみを抱いた稚内・樺太への旅、未開の北海道、長い汽車の旅の途中に午前半日だけ過ごした町旭川。異国的な町のことを詩「旭川。」として残し、92年後の今年それをモチーフにこの絵本作られる。
動物の絵本作家として知られるあべさんだが、人と風景をこういうふうに描く人だった。風景と人、建物と植物、大自然と人工物の対比が絶妙。大胆で精緻、シンプルな形と線と色が静かに郷愁誘う。安定した構図と緑・茶・青の押さえた配色が美しい。巻末の賢治自筆の詩を今回初めて読んだが、これに触発されて生まれた絵本。賢治の詩があべさんの言葉と絵で深い意味を伝える。賢治の詩をあべさんが絵本としてなぞったのではない。旭川と宮沢賢治を愛する作家により、絵本の可能性を耕す絵本。大いに評価したい。
個人的だが、立男は旭川で生まれて育った。絵本の旭川は、記憶にある町とは違う。今は遠くにあるだけだ。だが、時代を超えたふるさとの何かがどのページにも漂っている。絵の川と山と規則正しい道、言葉の「朝もや」「六条十三丁目」「涼しい風」「ポプラの並木」「永山という町」が懐かしさい。ふと、小さかった頃、駅前の洒落たレストランでチキンライスとアイスクリームを食べ、帰り道で電車を見たのを思い出す。そのイメージがこの絵本を開いたことで一瞬にして鮮明になった気がした。そして、ぼんやりしていた昔のことが具体的な線や色で浮かんでくるよう感じがしてきた。
アマゾンに3年前に書いた「せんせい」(重松清著)の感想、参考になった人います、という連絡あり。今回の感想を何年かぶりに載せてみようと思った昨日、朝に名古屋の若い人、昼に地元の先生と話する。自分がこの年齢の時、どんな人間だったのだろうと思った。真面目に生きていたかな、と思った。