先日のセンター試験の国語問題、原民喜著『翳(かげ)』を読む。「天声人語」(1/21)に、のんびりした日常が、日中戦争でじわじわ変わっていく様子がそこにあるから、ぜひ読んで欲しいとあった。小中生対象の学力テスト(国語)は毎年解いているが、センター試験は久しぶり。混乱した共通入学試験の記述式問題、高校の授業で文学教材が扱われなくなりそうだと知り、重い腰上がる。
紙面の都合で活字が極端に小さく、眼の悪い棟方志功が版画板にへばり付いて彫るような格好で読んだ。好ましい小説。ごく普通の善良な青年が刻々と戦争に巻き込まれ、主人公夫妻の生活と心情が変化していく様が清浄で明るい文体で描かれる。広島で被爆した作者が戦後数年で自死したことは知っていたが読むのは初。設問も常識的で良い。記述式問題にするならどこだろうかと思ったが浮かばなかった。
戦後ではなく戦前が近くなって来るような今。こういう小説が出題される意味は大きい。今回が最後のセンター試験だが、戦後70年目の終戦記念日の「団地ともお」(2015.8.14NHKで放送)の戦争を考える特別版を思い出す。時代と切り結ぶ勇気が、表現として前触れなくヒョイと顔を出してくれることが希にある。
※次回に「立ち止まる言葉【広告で知る家族状況】」掲載予定。
画像は原民喜 。こんな風貌だろうなあと思っていた 「団地ともお」(2015.8.14NHKで放送)のことを本ブログ(「腹ペコ日記」の欄外)に書いていた。5年前のことなんだなあ。