波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

暮らしから ものを言う(上)

2020年10月17日 | 読書


川で買った『炉辺の風おと』(梨木香歩著:毎日新聞出版)をじっくり読む。読む量が一日10頁に満たなかったのは家事の隙間で開くからだが、「器用でもなく、意識をある深さに集中させる職人的な姿勢」(本書あとがき)で作られた文書を味わいたいからだ。『西の魔女が死んだ』の作者が、「人生の終焉近くなって、結局何がしたかったのかと問われれば『山の深みに届いた生活』と、心の中であこがれを込め、呟くだろう」と、八ヶ岳で山小屋暮らしを始めたことを「そうなんだ」と思って読んだ。

 

ち止まるのは『言葉』について言及しているところだ。言葉への強い信頼と軽んじる者への痛烈な批判は、根本的な人間らしさを吟味する切れ味がある。山小屋暮らしの「もの」や「自然」にしても情緒的感傷から遠く、「他の誰でも無い、自分の生を生きていく」という姿勢で引き受けている。『家守奇譚』が良かったから続編の『冬虫夏草』も読み始めた。『僕は、そして僕たちはどう生きるか』も読んだらいいですよとママヨさんが言っていた。言葉は世界を分かりやすく楽しくしてくれると思って読んだ。

 

者は必要最小限しか家族を語らない。どういう人生を歩まれたのかわからない。還暦直後の一人住まいの山小屋暮らしは想像するだけで孤独に思うが、それを人生でやっと獲得した豊かさと考える著者。こうした暮らしから発せられる言葉は聴くに値すると波風氏は思う。読み終えてから、また暮らしを大事にしている女性の発言者の随筆を手に取った。(続く)

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WILD FOX №4/目撃者

2020年10月13日 | 【協力】Wild foxギャラリ

別のリスを隠れて撮っていたところ、ふと視線を感じました。

上を見ると、このリスがのぞき込むように私を見ていました。

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言葉のケイコ【その伍拾伍】

2020年10月12日 | 【保管】言葉のケイコ

決め手

ケイコは週に一度のペースで餃子を作る。だいたい週末に、パパの帰宅に合わせて。一度に60個作るけれど、3人で食べたらなくなる。たまにパパが帰ってこなくても作る。その場合は残るので、大体次の日の夕食にも登場する。それでも飽きることはないし、一晩置いた餃子はそれはそれで美味しい。ケイコの餃子はニンニクもショウガも入らない、挽肉とキャベツだけのシンプルすぎるほどシンプルな餃子。最近は餃子ブームだし、お取り寄せできる餃子もたくさんある。もちろんケイコは、自分の餃子がプロの餃子を差し置いて一番美味しいだなんて思っていない。けれど、プロの餃子には出せない味がある。それが家庭の味というもの。ともちゃんがこの家から出たとき、ふとした瞬間に猛烈に食べたくなる、そんな餃子であるといい。パパは、「ママ餃子の作り方を習っておきなよ」なんてともちゃんに言うけれど、別に覚えなくてもいいのだ。この味はママにしか出せないと、だからたまには家に帰ってやろうと、そんな風に思って欲しい。言わないけどね。

ケイコはきんぴらごぼうを作らない。それは、母のきんぴらごぼうの味を出せないから。母のきんぴらごぼうよりも美味しいきんぴらごぼうを作る自信はある。けれど、それは私の食べたいものではない。習ったところで、同じ味は出せない。母が作ることが、一番の味の決め手なのだから。ああ、冬休みこそ。1年ぶりにあのきんぴらごぼうが食べられたらいいなぁ。


【波風氏談】味の記憶というのは不思議。「茶色いおかずはもういいよ」という若気の至りが老いるほど懐かしくなり大好物となる。こんな新聞コラム(「おいしい記憶」)を書いていた。

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続々 10月初旬の暮らし

2020年10月09日 | 日記・エッセイ・コラム

 

週金曜日から波風家の家事責任者に就任する。今日辺りだいぶ良くなったが、ママヨさんが体調崩して寝込んだからだ。ブログ書く余裕も無かった。

食の片付け終えて一人ぼおっと座っていたら、「一人で暮らしている人は偉いなあ」とか「誰かをずうっと介護するのは今の自分では無理だなあ」、「自分が介護される日が遅くないうちに来るのかなあ」などの思いがとりとめ無く浮かんだり消えたりした。
高齢者の人は周囲のたくさんの方々を失なった悲しみを抱えながら生きているからそれだけで偉い。今回のわずかな体験で、周りには孤独に耐えて生きている偉い人がたくさんいるんだなあと思った。一見幸せそうでも、語られない悲しみをこらえて暮らしている家庭もたくさんあるだろうし。

風氏は生まれてこの方一人で暮らしたことが無い。何の自慢にもならないが、黙っていればご飯の出てくるラッキーな人生だった。だがこれから先はそうはいかないはず。脈々と育てられた『依存』体質は簡単に克服できないから『自立』部分を大きくしてカバーしなければ酷い人生になってしまう。若い時から思っていた一応の予定生存年齢も随分と近くになった。そんなことを思っていたら、明かりをつけない居間の障子窓に青黒い夜が来ていた。


あの総理大臣は、やっぱりこういうことをしたいんだなあ、学問研究分野でのマウンティング。思い出した自由俳句「戦争が廊下の奥に立っている」 家の前の畑を冬仕舞い。蕪がたくさんとれたから酢漬けの追加にした鍋焼うどんや月見うどんを夕食に。うどんは消化がいいと病院の食事指導で教えてもらったのは10年以上前。

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言葉のケイコ【その五拾肆】

2020年10月06日 | 【保管】言葉のケイコ

 

マルーンに恋して

道には詳しくない。執着もない。そんなケイコがキュンときた電車がある。大阪や神戸を走る、阪急電車だ。あの色が素敵。調べてみたら「阪急マルーン」という色らしい。赤ワインのような上質の色味。特別な電車ではなく、普通に通勤や通学で使う電車だなんて、実にうらやましい。一度しか乗ったことはないけれど、そのときのトキメキははっきり覚えている。内装もちょっとレトロでお洒落。まだ小学生だったともちゃんと手を繋いで乗った。慣れない土地なので降りる場所を間違えないように緊張もしていたこともあって、とにかくずっとドキドキしていた。もう一度乗りたい、生で見たい、と強く思う電車はこの電車くらいかもしれない。今の状況が落ち着いたら行ってみたい。いや、絶対に行こう。何年先になったとしても、あの電車のマルーン色はきっと色あせはしないのだから。

『植物図鑑』がとてもよかったし、こんな風に阪急電車にトキメク私なので、有川浩さんの『阪急電車』を読んでみた。電車の中で起こる、いくつもの小さな物語。それが繋がっていく様子が気持ちいい。実る恋も、破れる恋も、複雑な人間関係も、人の温かさも、どれも心に染みる、そんな小説。確かにあのお洒落な電車の中ならば、こんな素敵なストーリーが繰り広げられているのかもしれない。より一層、あのマルーン色を目にするその日が、待ち遠しい。

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