図書館から借りた『水を縫う』(寺地はるな著:集英社)。この夏、この作者のを4冊読み、これが一番主題も話の筋もわかりやすかった。昨年度の中高入試(国語)で一番使われた小説。個性的だがごく普通の人物の言動と関係を的確な言葉でぐいぐい読ませる。どこにでもある家族もそれなりに色々あり、当然ひと揉めしつつ、「ひとりひとり違って良い」というかそれ以外に道は無いのだということを考えさせられる。難しい話を易しく、いや優しく展開させる作者の感性に唸る。
姉のウェディングドレスを手作りする弟が軸になって話は進む。これに、母親、祖母、別れた父親、その友人がからむ。この6人が中心になるオムニバスのような全6章。世の中の『普通』と少し違うところで自分を支えているようでいて、それが一番大事な普通なのだと思ったりする。一見して家族小説だが、6人の「私と私以外の人たちとの他には無い『普通』の関係」が主題だろう。健全な家庭小説とも言える。映画化なら山田洋次監督かな。
祖母の言葉が心に残る。「七十過ぎたら、もういつどうなるかわからへんよ」、「あの子(娘や孫)には失敗する権利がある」、「人の一生が1本の映画だとしたら、私の映画はあと何分ぐらい残っているのだろう。後半であることは疑いようも無いけど(この後、子ども時代から憧れていた水泳の教室に入会)」。『敬老』が、する方でなくされる方になってハタと立ち止まらせる。
ラストの辺り、小説を読んでいて久しぶりに気持ち良く目頭が熱くなった。★5(5段階で)
「・・・本来は弱い弱い、しかし弱いからこそ、様々な戦略と工夫で逆境を乗り越え、逆境をプラスに転換してきた。どんな環境であっても、必ず花を咲かせて実を結び、種を残す。これが雑草の行き方である」(身近な雑草の愉快な生き方)(稲垣栄洋著:ちくま文庫)、ママヨさんおすすめの一冊、そして昨年度の入試問題で一番使われた説明文。胃カメラ前後に開く。