電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋克彦『火怨~北の耀星アテルイ(上)』を読む

2008年04月25日 06時43分03秒 | 読書
学生時代に、八幡平から岩手山に至る裏岩手を縦走して、すっかり気に入り、関連資料を探したことがあります。大学の図書館に、山と渓谷社から出ていた文庫本サイズの解説書があり、その中に記載された伝説に心を引かれました。朝廷に従わない蝦夷の頭領とその妻の悲話です。最後に坂上田村麻呂に捕らえられるところは、なぜか印象的に記憶しています。

ずっとこの伝説が気になっておりました。そして、過日たまたま書店で手に取った講談社文庫『火怨』をぱらぱらとめくったところ、まさにこの物語でした!高橋克彦著の、「北の耀星アテルイ」という副題のついた、2000年吉川英治文学賞受賞作品だそうです。30年ぶりに知る、伝説の詳細です。

胆沢の蝦夷の頭領の息子アテルイは、たんに剛勇なだけではなく、信望の厚い青年です。彼は、盟友のモレ(母礼)とともに、多賀城を根城に大仏建立のため陸奥の金を狙う朝廷の軍と幾度となく戦います。それは、同じ人間であることを認めない朝廷に対する、人間としての存在をかけた戦いでした。

上巻では、近隣の蝦夷を集め、蘇我氏と争って敗れた同族の物部氏と手を組み、朝廷軍に対抗できる軍事力を備えて、小黒麻呂や紀古佐美などが率いる大軍を打ち破ります。上巻では、蝦夷の騎馬軍団が成長する過程が描かれますので、上り調子の勢いが痛快です。

話し言葉がいわゆる近世の武家言葉であって、もちろん東北地方の蝦夷の言葉ではないのですが、まあ些細なことには目をつぶりましょう。なかなかスケールの大きな、古代東北の英雄伝説です。
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