集英社刊の単行本で、朝井まかて著『最悪の将軍』を読みました。理系の日本史音痴ですので江戸時代の将軍の評判などは中学生レベルの知識にとどまっていましたが、さすがに「犬公方」というのは知っていました。「生類憐れみの令」を出して人間よりも犬猫のほうを大事にした愚かな権力者、というイメージです。大人になればさすがにそれはないだろうと思い、実際の意図とは違った結果になってしまった世間知らずの政策立案、くらいに想像していました。で、著者の見方は?
実際は将軍になる立場ではなかったけれど、兄の病死により回ってきてしまった中継ぎ将軍の地位。であるならば弊害が目立った武断政治から文治政治に転換を図り、民を政治の大本に置いて施策を考えます。京から迎えた賢妻を信頼し、かなり天然の母親と一癖有りげな側室をなだめながら努力するのですが、災害も起こり江戸城内での刃傷事件もあり、次々に裏目に出てしまって、という立場です。長崎にやってきたオランダ人のケンペル先生とは良い交流ができたみたいで、将軍の善意を理解してくれたみたいなのが救いかな。
うーむ。政治というのは、こういうふうに理念から発するものなのだろうか?
複雑に対立する利害を調整するのが本質で、現実を詳しく知らずに理念やスローガンで解決しようとするからヘンになるのではなかろうか? トップが何でも自分の考えでやろうとせずに、現場の実情を知り、考え方を理解し、大小の諸課題を整理して方向性を出すようにしないと、無理なんじゃないかな。