電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

千葉県で冬のツツガムシ病〜「思い込み」はこわい

2023年01月08日 06時00分59秒 | 健康
報道によれば(*1)、千葉県船橋市の70代の男性が12月上旬に約一週間、千葉県南部に滞在して住宅付近で草刈り作業に従事したところ、発熱や全身への発疹が現れたため、一週間後に医療機関を受診、多臓器不全の診断で入院したものの、死亡したとのことです。実はツツガムシ病の疑いで検査を行っており、結果が判明する前に亡くなったとのことでした。

ツツガムシ病は、早期に対処しないと死亡率が高い、今なお怖い病気の一つです。昔は秋田県、山形県、新潟県などの河川部を中心とした風土病という理解でしたが、いつの頃からか、新型ツツガムシ病が全国で報告されるようになり、日本海側の特殊な病気ではなくなってきているようです。しかし、これまでの私の理解では、ツツガムシ病は夏場に発生する病気で、夏場の草刈り作業は肌を露出しない長袖・長ズボンで行い、作業終了後は入浴して肌に虫さされがないかどうかを確認することが大事だ、と考えていました。まさか12月に千葉県でツツガムシ病が発生するとは、思いもよりませんでした。

「つつが虫病 発生時期」で検索してみると、国立感染症研究所の解説ページ(*2)がコンパクトにまとまっており、私自身の誤解というか思い込みに気づくことができ、有益でした。それによると、

  • ツツガムシ病は、ダニの一種ツツガムシによって媒介されるリケッチア症であり、この保菌ダニの幼虫が皮膚に吸着することで感染する。感染には約6時間以上の吸着が必要。
  • ツツガムシは卵から孵化した後の幼虫期に哺乳動物の皮膚に吸着し、組織液を吸う。孵化期にツツガムシ病が発症することから、発症の時期は年二回、5〜6月と11〜12月が多い。

      (グラフは *2:ツツガムシ病とは〜国立感染症研究所 より)
  • 在来型のツツガムシ病はアカツツガムシが媒介するが、現在はほぼ消滅したと考えられ、夏期に発生のピークはみられない。戦後多くなった新型ツツガムシ病はタテツツガムシ、フトゲツツガムシが媒介する。フトゲツツガムシは寒冷な気候に抵抗性があり、一部が越冬し融雪とともに活動を再開するため、春〜初夏にかけて発症が多くなる。

      (グラフは *2:ツツガムシ病とは〜国立感染症研究所 より)
  • 1950年に伝染病予防法により届け出が始まり、1999年からは感染症法により全数把握疾患として届け出が継続されているが、1980年代から患者の発生数が激増している(*3)。
  • 治療にはテトラサイクリン系の抗菌剤が有効だが、できるだけ早い時期の診断が必要。

とのことです。

なるほど、秋田県・山形県・新潟県などの雪国では、雪に埋もれるため冬場の発生が見られないだけであり、全国的には晩秋に卵が孵化した後に幼虫が野ネズミなど哺乳動物の組織液を吸い、土中で越冬して翌年に活動を再開、産卵するため、むしろ冬場のほうが発症数が多くなっているようです。ツツガムシ病の「本場の常識」は必ずしも全国に通用するものではなかった、ということでしょうか。医師に「草刈りに従事しました」という情報が伝わっていなければ、ツツガムシ病という可能性に思い至ることは難しいことかもしれませんので、問診の際に的確に伝えることが大事になるようです。

(*1): 千葉でツツガムシ病の死者、県の記録では初めて…死後に感染が判明〜読売新聞オンライン
(*2): ツツガムシ病とは〜国立感染症研究所
(*3): 戦後の新型ツツガムシ病への変化は、1980年代からの激増ぶりを考えると、輸出入など経済活動に伴う東アジアのツツガムシ・トライアングル内での移動による種の交代によるものと考えられます。


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